今年の夏はいろいろと事情があって、電車で遠出した。
出発時間がかなり早めだったので、電車の中でうつろうつろして、乗り過ごさないか心配だったが、無事に最初の目的地に到着した。
電車も定時で運行しており、何の問題もなかった。
改札を出る前までは…
今回使うことになった切符は少し変則的だったので、自動改札を通過出来ず、有人改札を通る必要があった。
普段はICカードで乗車しているので、どこの改札を通るかなどほとんど考えないが、この日はそういうわけにはいかない。
だが、そこで直面したことは…
・数秒の手続きのために10分並ぶ
私は下車するために有人改札に並んだのだが、この時点でかなりの行列が出来ている。
さすが、何台も並んでいる自動改札機とは違い、窓口は一ヶ所だけなので、それは仕方ない。
しかし、列が一向に前に進まないのである。
しかも、列が出来ているのはこちら側だけではない。
私たちとは逆に乗車する人々も大勢並んでいる。
私は窓口で係員に対応してもらったのは、切符の確認だけで、ほんの数秒だったのだが、そのために10分近くは並ぶことになった。
この時は電車から降りる時だったので、そこまで深刻な問題にはならなかった。
もし、これが乗車する時で、電車の出発時間も迫っていたら…と考えたらゾッとする。
というわけで、この後は、遅くとも出発時刻の15分前までにはホームに入ることになった。
結論から言うと、この判断は大正解だった。
最初の下車駅がたまたま混雑していただけではなく、その後の駅も同じように有人改札には行列が出来ていた。
イライラしながら順番を待っていると、意外と切符を買わずに乗車して、下車駅で乗車賃を清算する人が多いように感じた。
乗車駅が無人駅で、切符の自動券売機もなくて、仕方なくそうしていたのだろうか?
一方で、乗車する時は、目的地は決まっているものの、どの列車の切符を買ったらいいのか、目的地にちょうどいい時間帯に着く列車はどれかが分からないため、駅の改札で尋ねながら購入している人が多く、そのせいで長時間足止めを喰らった。
前者はまだ仕方ない事情があるかもしれないけど、後者は…
それ改札口でやることじゃないやん!!
と言いたくなった。
でも、彼らがそうしているのもやむを得ないのかもしれない。
というのも、最近は対面で切符の販売を行うみどりの窓口が激減しているのだ。
・みどりの窓口は行列が出来て当たり前
JR東日本は今年の5月に一時凍結を宣言したものの、2021年以降、経営効率化やチケットレス化・モバイル化推進と称して、440の駅に設けていたみどりの窓口を4年後の2025年までにおよそ7割減の140駅程度まで集約する方針を掲げ、209駅まで減らした。
みどりの窓口 JR東日本 削減方針を凍結 3年前は440駅 残るのは? | NHK
このことによって、元々は窓口を利用していたであろう人々が、有人改札に行かざるを得なくなり、利用者だけでなく、現場の職員にもしわ寄せが来ているのだろう。
この政策については、コロナの影響により鉄道の利用者が激減していたこともあり、導入時期こそ「このご時世、鉄道会社も大変だからしょうがないよね~」という容認ムードもあった。
ところが、旅行需要や、外国人観光客など鉄道の利用者が戻りつつある中でも、削減の方針を継続していたため、次第に混雑が慢性化し、苦情も増え始めた。
「人間は自分が当事者になったら、客観的な視点を失って、こうも簡単に宗旨替えするものなのか?」ということがよく分かる。
そのためか、今年になってようやく計画を凍結したのである。
この件に対する不満はネットの至る所でも見られるが、(すでに媒体は削除されてしまったものの)すごく的確なコメントがあった。
「欲しい切符が自動券売機で買えなくて、仕方なくみどりの窓口へ行ったんだけど、あらかじめ買いたい切符を決めているのではなく、係員にどの列車が良いか相談しながら決めている人が多過ぎて、なかなか前に進まなかった」
この人物は、「情弱な連中のせいで、自分が迷惑を被った」と言いたかったのだろうが、その発言こそ、JR東日本が窓口削減に突っ走った本質が見えている。
つまり、「切符の販売なんて仕事は、乗客が指定したものを発券するだけの流れ作業に過ぎないから、自動券売機で十分だ」という認識。
だが、販売という仕事は、本来そのようなものではない。
お客は商品知識に乏しい人も多いので、希望をよく聞いて、用意できる品から、一番おすすめできる商品を提供するのが販売の仕事である。
みどりの窓口はそのための施設であり、対応に時間がかかって当たり前である。
それを「時間と人手の無駄だ!!」と拒むのは、販売努力の放棄に等しく、利用者が競合他社に流れていくことを嘆く資格はないだろう。
彼らは鉄道利用者の大半が切符の購入に慣れている旅人か、どんなに適当にあしらっても、自分たちで念入りに情報を調べ上げる鉄道ファン(オタク)とでも思っていたのだろうか?
ちなみに、かつて、このブログでは同じような勘違いをしている人物を取り上げたことがある。
携帯ショップの販売員が、機種やプランを指定せずに漠然と「iPhone下さい」と言う客に対して、笑顔で接客しながら、内心では「お前はスシロー行って『お寿司下さい』って言うんか」とうんざりしながら、毒づくいている。
これだって、「携帯ショップの店員の仕事は、客のニーズを把握して最も適切な商品を提供することではなく、愛想を振りまきながら、客が指定した商品を取り出して会計をする流れ作業」だと思っているから出てくる発言である。
彼の勘違いについては、Yahoo版の記事でボロクソに糾弾されていたので、おそらく共感する人などいないだろうが、みどりの窓口の削減も、彼と同じ発想から生まれたものではないのか?
彼がネット上で醜態を晒したのが、今から2年前の2022年だから、その浅ましい姿を見て、自分たちも同じことをやっていると気づいて、思い止まって欲しかった。
一方で、身を挺して、窓口削減が失敗することを暗示してくれていた携帯ショップの店員は、先見の明があったと言える。
彼はお客様への真心が必要な販売職などよりも、投資や先物取引といった職業に就いた方が、自身の能力を最大限に発揮できるだろう。
・初めて東京へ行く時に乗った列車の切符
さて、最期に切符の購入にまつわる思い出深い話をさせてもらいたい。
プロフィールにも書いている通り、私の実家は鉄道こそ通っているものの、1,2両の列車が1時間に1本しか走らないローカル線沿いにある。
自動券売機が設置されており、駅員が駐在しているが、自動改札機もみどりの窓口もないため、乗り降りの際や、指定席券のような券売機で売っていない切符を買う時は改札口でお世話になる。
今でも思い出すのは、私が高校生の時に初めて東京へ行くことになった時のこと。
私の地元は西日本で、もし東京の会社員が出張で向かうとしたら、新幹線ではなく、飛行機の利用が認められるであろう場所に位置している。
私が東京へ向かう時も飛行機か、少なくとも新幹線の利用が妥当だと思われるが、時間の都合で夜間に移動する必要があり、料金ではバスが勝ったものの、居住性や安心感を考慮した結果、夜行列車に乗ることになった。
当時はネット販売なんてものもなく、購入のために最寄り駅を訪れることになった。
列車の本数も限られていたので、どの列車に乗るかはあらかじめ目星を付けており、切符の購入も数分で終わると予想していたのだが…
結果的に30分近くはかかった(笑)
寝台(座席)の確保自体が、駅にあるシステムでは不可能で、別の部署との電話連絡が必要なこともあるが、東京へ向かう夜行列車の切符を購入する人など年に何人いるか分からない田舎の駅であるため、駅員が手続きに慣れておらず、かなり手間取っていた。
これだけだと単に、「昔は不便だった」くらいの話なのだが、東京へ向かう列車の寝台車を利用するとなると、乗車時間が長く、料金もそれなりに高額になることから、彼はそれぞれの寝台の設備を詳しく紹介して、電卓を叩いて、乗車券と特急券も合算した見積もりを出してくれたから、時間がかかったのだ。
その間に列車が到着して、切符の回収のために中断したこともあった。
そりゃあ、切符を買うだけで30分もかかるわなぁ…
幸いにも、他に切符を買う人がおらず、私も急いでいなかったから、慌てることもなかったが。
切符の購入にはかなり時間を要したものの、彼が紹介してくれた列車に乗ったおかげか、初めての東京旅行はいい思い出になった。
そんな経験があるので、上京してからも、特に必要に迫られたわけではないが、度々夜行列車を愛用している。
もし、あの時の出来事がなかったら、時間や経済性を鑑みて、飛行機一択だっただろう。
つまり、彼が目先の30分を捨てて、良い商品を紹介したことが、10年以上経った後の利用にも繋がっているのだ。
列車に限らず、販売の仕事とは本来このようなものではないのか?
JR東日本は窓口削減の「凍結」を発表したが、撤回したわけではなく、これから先のことは未定である。
彼らには、今回の騒動を通して、今一度原点に戻ることを願うばかりである。