自分が書いた記事からヘイトビジネスの誘惑を感じてしまう

「ヘイトスピーチ」という言葉がある。

これは特定の国の出身者であること、又はその子孫であることのみを理由に、社会から排斥する言動のことである。(法務省:ヘイトスピーチ、許さない。 (moj.go.jp)

それだけでも十分おぞましいが、商売のためにあえてそのような表現を用いて、反感を持つ人の憎しみを掻き立てる「ヘイトビジネス」も存在する。

このブログでは外国人とのやり取りを扱うことが多いため、私としては、意図はなくともそのような差別を引き起こさないために、「○○の人はこうだ!!」という表現を用いないように注意してきた。

だが、思いもよらぬところから、ヘイトビジネスの誘惑を感じてしまった。

・スーパールーキー現る

昨年の9月から、PC版であればサイドバーに、スマホ版であれば下部に、当ブログのアクセス数上位10記事を表示している。

このコーナーを設置する下準備として、8月中旬から1ヶ月の間、アクセス数の集計を行っていた。

公開時はこちらの記事が1位を争っていた。

そして、その後にこちらの記事が続いていた。

だが、9月に入ってから投稿したため、集計期間の下半期しか票を集めることができなかったにもかかわらず、公開時からすでにトップテン入りを果たし、瞬く間にランキング上位に躍り出て、今日まで半年近くの間、アクセス数トップに君臨し続ける記事がある。

それがこちらである。

記事の概要はこうである。

東京出身の女性が福岡に転勤となり、現地の男性(九州男児)と付き合うことになる。

だが、その男(仮名:クズ男)は自覚が全くないものの、究極の男尊女卑思考の持ち主であり、彼だけでなく、そこで出会う人たち全員から封建的な家父長制の臭いがプンプン漂っていた。

彼女は彼らが当然だと思っている九州地方の文化に恐怖を覚え、1年で福岡を離れた。

そして、こう誓ったのである。

「二度と九州へは行かない」

というのは全部作り話で、彼女の正体は仕事で東京へ赴任していたアメリカ人であり、彼女が怖れていた「九州男児」の特徴はすべて東京で付き合った男のものだったのである。

もちろん、彼が九州の出身だったわけでもない。

つまり、彼女が「九州男児&そんなクズ男を立てる女」に向けていた嫌悪感にノリノリで同調していた人は(読者が日本人である場合は)それが、そっくりそのまま自分たちの特徴だと思われていたことになる。

・予想を超えた反響

私がそんな記事を書いた理由は「○○の人はこうだ!!」などというステレオタイプの決め付けがいかにいい加減で、当てにならないものであるのかを知ってもらいたかったからである。

人間は理解しがたいものや、不都合なものを目にした時に、その原因を自分とは異質な属性に求めて「自分は違う!!」と安心したがる。

それは次第に暴走して、「あいつは○○の人間だから」と自分とは違う差別の印を見つけると、そうではない人であっても平気で不当な扱いができるようになる。

これが差別の本質である。

その記事はそのような差別的な表現がいかに危険であるかを身を持って体験してもらうことが目的であり、最後に種明かしと勝手にゲスト扱いした九州の人たちへの謝罪を行うところまでがセットのいわばドッキリ番組のような意図で書いた。

私としては若干の抵抗があったものの、毒を以て毒を制すことが目的であり、後悔は全くしていない。

…のだが、この記事の反響は私の予想をはるかに超えた。

決して、苦情のメールが殺到したという話ではない。

この画像を見てほしい。

これは「Google Search Console」と呼ばれるもので、ブログの記事が検索エンジンに表示された際の検索ワード、アクセス数、表示回数が表示されている。(上の画像はそのデータを転送先のGoogle Analyticsで表示したもの)

この画像はある期間内のそれらの情報を表示回数の多い順に並べ替えたものだが、「九州男児 クズ」というワードが群を抜いて圧倒的に多く、その他も同じようなワードが上位をの大半を占めている。

「九州男児 嫌い」とか「九州男児 結婚したくない」であれば個人の好みだから大した問題ではないのかもしれないが、「九州人 クズ」(上から10番目)などいうおぞましい差別用語で検索している人がこんなにもいることには言葉を失う。

ちなみにこちらは検索結果50位~66位のものである。

この辺りでは表示された件数は1520件程度であり、検索上位に表示されることのない記事に関連するワードは大体こんなものである。

先に紹介した「九州男児」に対する悪意に満ちたワードがいかに多いのかをお分かりいただけたと思う。

なぜ、まともなワードがこの程度しか検索されず、差別ワードはここまで大量にヒットするのだろうか?

この落差を目の当たりにしたら、真面目に記事を書くことがアホらしく感じてしまう。

・共感できるが嬉しくない

さて、これから分かることはステレオタイプや偏見に基づき、特定の地域の人、又は出身者にレッテルを貼ることで、読者の心の闇を刺激するヘイト記事が集客に大いに役立つということである。

「ネトウヨビジネス」と呼ばれる商売がある。

「保守」「愛国」を自称し、中国、韓国、野党、マスコミなどを目の敵にした言論を繰り広げているのだが、彼らが自分たちの主張を本気で信じているとは限らない。

それではなぜ、そんなバカらしい陰謀論を展開するのか?

答えは単純に情報の受け手が自分たちに都合のいい主張を裏付けしてくれる情報を求めているからである。

彼らはお客様のニーズに合った商品を提供しているに過ぎない。

その商売のためには、差別的で攻撃的な言葉で特定の人たちを傷つけることも厭わない。

私が書いた記事も「九州男児」の箇所を「支那人」や「朝鮮人」に書き換えて、ネタ晴らし前に打ち切ると、彼らの顧客が大量に釣れるのかもしれない。

これまではそのような情報を発信している人たちを軽蔑していたが、自分のブログの検索結果を見ていると、彼らの気持ちが分かる気がしてきた。

いや、全然嬉しくないけど…

冒頭でも触れたが、このブログでは海外の人や彼らとのやり取りを紹介することが多いため、私は常々「○○人の特徴」や「××人にモテる方法」などというような人種や居住地で人を区分けしないことに気を配っている。

そのような情報を求める人を戒める目的で書いた記事が、このブログで人気ナンバー1になっているのだから、何とも皮肉である。

だが、そのような(くだらない)ステレオタイプな情報を求めている読者がいるということは事実である。

そして、そのような差別的な表現を用いて、読者の心の闇を刺激する記事を書くことにシフトしたら「このブログの集客力も…」という悪魔の囁きが度々聞こえてくる。

だって、その方が確実に儲かりそうなのだから。

今のところ、なんとか一線超えずに踏み留まれているのは、数は少なくとも、賢明な読者の方が応援してくださっているからである。

さて、例の九州男児の記事は「炎上商法だ!」と言われば、否定できないことになってしまったものの、削除するつもりはない。

差別を煽ることが目的ではなく、どす黒い差別意識を抱えてホイホイ群がって来た人たちを懲らしめてやることが目的で書いた記事ですから。

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