・予期せぬ再会
2週間ほど前のことだが、地元の知人と電話をしていると、見せたい写真があるからLINEで送りたいと言われた。
しかし、今まで彼とは電話かメールのやり取りしか行っていなかったため、LINEのアカウントを登録していなかった。
というわけで、私のIDを送ったのだが、自称デジタル音痴の彼はどうも上手くいかなかった。
そのため、私の方から登録することになったのだが、それでも簡単にはいかなかった。
この記事でも書いた通り、私が所有しているスマホはwindows phoneなので、すでにLINEを使うことができなくなっている。
普段はパソコンで使用しているため、スマホが使えなくても大きな問題はないが、いくつかの機能はパソコンでは扱えないこともある。
そんな時は以前使用していたガラケーを使うのだが、めったに使用しないため、どこにどの機能があるのかは全然把握できていなかった。
というわけで、ID検索をするつもりが……
やってもうたぁぁ!!!
間違えて友達自動追加を使用してしまい、携帯に登録している電話番号の相手が片っ端から友達登録されてしまった。
幸い、彼以外のほとんどの人からは何の反応もなかったが(それはそれで寂しい気がするが…)、ただ一人だけは返信を送ってきた。
その人物とは、このブログでもこれまで何度も登場した私の元同僚・タケダ(仮名)である。
・一年越しの決着をつける
彼と一緒に働いていたのは、もう5年以上前になる。
当時は話の合う気さくなおじさんという感じで、私が職場の人と個人的に電話番号を交換した最初で最後の人物だった。
退職後もお互いの近況報告などの連絡をしていたが、20代後半になっても非正規の仕事を続ける私に対して、次第に「早く正社員になれよ!!」という説教が増えてきた。
東京で一人暮らしをしていることを伝えた時も、私が自立した生活を送っていることへの感心よりも、「そんなことしてないで早く地元へ帰ってこい!! いくら時給が高くても派遣社員や契約社員なんてプー太郎の仕事に何の価値もないぞ!!」という偏見甚だしい妄言だった。
昨年の12月に帰省する際に、彼と直接対決をする予定だったが、当日になってバックレられたことはこの記事に書いた通りである。
それ以降は1年近くの間全く音沙汰なしの状態だったが、今回のLINE誤登録を機に連絡してきたところだろう。
タケダ:「よう。久しぶり。今何している?」
早川:「まだ東京で働いていますけど」
タケダ:「それは正社員の仕事か?」
最初はそんなありふれた会話だったが、いきなりこんな質問である。
「どんな仕事?」ではなく、「正社員か否か?」という疑問。
いや、愚問。
ここで、「いいえ」と答えたら、またネチネチと「地元へ戻ってこい」と言われることだろう。
というよりも、バックレた挙句、一切謝罪の連絡もしなかったクセに、よくもまあこんな質問ができたもんだと呆れた。
いい機会だから、あの時実現できなかった決着を今ここでつけることにしよう。
早川:「いいえ。任期付きの仕事です」
タケダ:「やっぱり!! いい加減、こっちに戻ってきて真面目に生きろよ!! 正社員にもならず、結婚もしないなんて人として恥ずかしくないのか?」
早川:「『真面目に生きる』とは何ですか? どんなに堕落した人間でも、正社員になって、結婚すればまともな人間になれるんですか? 私は東京へ出てきて独身で非正規の中高年の人と何人か接してきましたけど、あなたみたいに肩書がないと何もできなかったり、人を貶めることしか考えていない人間なんかよりもはるかに多くの学ぶべき点がありましたけど」
タケダ:「俺は娘を二人も育てたから、そんな連中より俺の方が社会人としては上だと思うけど」
早川:「そういえば昔もよく言っていましたね。結婚後もしばらくは定職に就かず、奥さんの方が実質的な世帯主だったため、お金に困っていて、娘さんの進学費用には奨学金を借りさせ、自分は一切負担できなかったという苦労話を。まあ、それでどうやって『俺が家族を養った』みたいな言い方ができるのかは理解できませんけど」
タケダ:「今の生活を続けていても、将来の展望はないだろう? 取り返しがつかなくなる前に別の道を探した方がいいんじゃないか?」
早川:「『別の道』とは何ですか? ユーチューバーとかトレージャーハンターにでもなれって意味ですか? それとも、今から学校に通って、学問の道を究めることですか?」
タケダ:「そんなんじゃなくて、『こっちに戻って来て、真面目に正社員になって、結婚して家族を持て』って言っているんだよ」
早川:「何があっても正社員を守ってくれる会社という妄想にすがって、自分から搾取するブラック企業のことを『自分を守ってくれる守護神』のように思って、尻尾を振ることが『フツーの生き方』だと言っているのであればお笑いですが」
タケダ:「なんじゃそりゃ? 今頑張らないと、年を取ったら誰も相手にしてくれないぞ!! それでどうやって生きていくつもりだよ?」
早川:「少なくとも、あんたの考えている『安定した正社員』なんてモデルが自分を守ってくれないことと、生き方の教えを乞う存在ではないことだけは確かですが。大体、あんたたちはアリとキリギリスみたいな話を好んでしているけど、要は『他人の幸福を嫉み、他人の不幸を願っているだけの**グソ野郎』でしかない。そんな連中が『社会人』などと自称していること自体に吐き気がします」
タケダ:「何や? **グソって?」
早川:「**グソでなければ『ゲスの極み』ですね」
タケダ:「お前はこっちの生活の一体何が不満で戻りたくないんだ?」
・私が「外道」なら、あんたは「死神」か「奴隷商人」だ
議論に熱中して、私の方も本来の目的を見失っていたが、ここで意外にもタケダの方から軌道を修正してくれた。
私が地元で働きたくない理由はこれまでブログで書き続けた通りである。
一にも二にも真っ当な仕事がない。
私の考える最低限の仕事とは
①:給料が手取りで20万を超える(ボーナスは必須ではない)
②:完全週休2日(休日は土日にこだわらない)
③:定時退社が基本で、残業代は15分単位で支給
④:理不尽な拘束や社内行事への参加を強制されない
⑤:一方的な配置換えを行わない
この5つである。
安定した生活を送るためには最低この程度の条件の仕事が必要だと思うが、それすら見つけることが難しい。
にもかかわらず、ありもしない正社員としての安定した暮らしに妄執して「正社員として入社した会社を辞めることなく60歳(場合によっては65歳)まで勤めあげて、結婚して家族を養い、ローンを組んで家を買って、子どもを大学まで通わせることが標準的なライフスタイルだ」などと宣い、払えるはずもない出費を押し付けるようなやり方こそ無責任ではないのか?
私がそのような人の道を踏み外した「外道」だと言うのであれば、彼らは「死神」か「奴隷商人」である。
そのことを伝えると、案の定、妄言を繰り返してきた。
タケダ:「将来のことよりも目先の金かよ? そんなことよりも、仕事には大切なものがあるだろ?」
早川:「私は何があってもクビにしない雇用の安定や将来の昇給などというまやかしは一切受け付けません。この際だから言わせてもらうけど、あんた、人には『ちゃんとした正社員』とか『真っ当な社会人』を求める一方で、自分は一体何をしているんですか? 大量の非正規労働者がいなければ成り立たない大型スーパーや、安くておいしいチェーンの飲食店にズブズブ入り浸っておきながら、よくも『自分は正社員でなければ認めない』みたいなことが言えますね?」
タケダ:「お前が俺のことをどう思っても自由だが、俺が自分の所帯を持って、家族を守ってきたことは事実だ。お前に同じことができるか?」
・喧嘩別れ
都合が悪くなると飽きもせずに「俺は安月給でも家族を養った」と自慢してくる。
だが、それは彼が「家族を食わせていた」という表現とは程遠い。
先ほどもそれに触れたら話を逸らされた。
向こうがその気なら、こちらも彼が誇る捏造された記憶とプライドを完膚なきまでに叩きのめするしかない。
早川:「あなたのように家族を養っていたのではなく、社会に下駄を履かせてもらって、その上で、逆に家族に助けてもらうような生き方をするのは構わない。しかし、なぜあんたはまるで自分が一人の稼ぎで家族を養った『真っ当な社会人』であるかのように錯覚しているんですか?」
タケダ:「は?? 何やそれ!?」
早川:「あなたのように、自分は一人で家族を食わせていたかのような妄想にすがって、逆にダメな自分でも支えられてくれた家族に対して感謝の言葉一つ言えない生き方をすることでは死んでも御免被ります。まあ、でも、その面の皮の厚さだけはぜひとも見習いたいですね」
タケダ:「オイ!! お前、俺のことをそんなふうに思っていたのか!?」
早川:「はい。率直に言って、あなたのような人間になりたくないのです」
タケダ:「もういい。それがお前のやりたいことなら勝手にしろ!!」
早川:「はい。そうします。ごきげんよう」
結局、これが彼との最後のやり取りとなった。
あれから2週間経つが、再び彼から連絡が来ることはなかった。
喧嘩別れといってもいい、事実上の決別である。
私としては彼に最後のチャンスを与えたつもりだ。
彼が家族を養っていた一家の大黒柱などではなく、逆に家族に支えられていたことを認めて、「だからお前も、一人では生きていけないダメな自分を支えてくれる家族を持ちなさい」と言うのであれば、私だってあんな言い方はしなかった。
しかし、彼は最後まで自分の弱さを認めることはなく、自分が生きてもいない「標準的なライフスタイル」をゴリ押ししてくることに終始した。
彼の連絡先はまだ保存しているが、二度と連絡することはないだろう。
・自分が変われたのは彼のおかげ?
元同僚で退職後も連絡を取り合っていたタケダとは完全に決別した。
だが、それでも私は彼に感謝している。
今の私があるのは彼のおかげであることには違いないから。
このブログの話になるが、今年に入って結婚や家族に関する記事を書くことが増えた。
主な言い分としては「世間で言われている『結婚』の常識」は日本社会の伝統でも、生物として正しい姿でもないのだから、そんな規範意識に縛られる必要は全くないということである。
私自身、そう思うことで随分と心が楽になった。
私は20代前半の時に、この社会の「フツーの生き方」なるものに絶望し、そんな生き方をするくらいなら、一人で生きて、一人で死ぬと決めた。
しかし、私を絶望へと追い込んだ「フツーの生き方」とは全然普通の生き方ではなく、この社会にはそれができずに苦しんでいる人が大勢いることを知った。
「自分は一人ではない」と気付くことが出来た。
そのきっかけは、昨年末に彼と対決するために、結婚に関することを調べていたからだった。
つまり、彼がいなければ、今も私は一人で単調な日々を生き長らえるだけの孤独な人生を送っていたのかもしれない。
彼が期待していた方向ではなかったにせよ、結果的に彼は私の人生を変えてくれた。
この記事に書いた通り、人の運命は些細な事で予期せぬ方へ大きく変わるのである。