先月のことだが、些細なことがきっかけで高校生の時のことを思い出した。
もっとも、思い出したのは、学校生活ではなく、私生活のことだったが…
当時の私はプラモデルや模型作りが趣味で、アルバイトをして稼いだお金でよく購入していた。
あの時、その趣味に出会わなければ、中学生の時に発症したゲーム依存から抜け出せなかったことだろう。
・若かりし頃の宝探し
かつては打ち込んでいた趣味であるが、それらは上京する際に、すべて実家に残しており、東京へ出てきてからは自宅が手狭なこともあってコレクションも製作も止めた。
しかし、高校生の時のことを思い出したことで、あの界隈の現在の状況をいろいろとネットで検索することになった。
まず、気になったのは、私が高校生だった15~20年前と比べると、値段が爆上がりしているということ。
おおよそ1.5~2倍程は値上がりしているように感じる。
もし、私が今の時代に高校生だったら、とてもではないがアルバイトで稼いだお金で気軽に購入できる金額ではない。
とはいっても、当時でさえ、そう易々と買える金額でもなかったので、中古品を購入することも多かった。
中古とはいえ、新品とそこまで変わらない美品も多く、絶版となったモデルを見つけることも多々あり、まるで宝探しをしているような感覚で、購入する過程自体も楽しみの一つだった。
行きつけのお店は実際に店舗を構えていたが、インターネットショップを利用することもあった。
特に、個人経営と思われる小さなネットショップでどうしても欲しい商品を見つけた時の感動は、何物にも代えがたかく、今でもはっきりと憶えている(笑)
さすがに店舗まで出向くまではしないが、ネットショップなら今からでも気軽に覗くことが出来る。
そうして、検索していると、魅力的な中古商品が販売されているショップを見つけた。
このお店も、かつてお宝モデルを見つけ出した時と同じような個人経営のサイトだった。
ご親切に(?)メーカー希望小売価格まで表示されており、そちらと比較するとより一層、格安感がある。
しかも、フルタイムで働いている今は、当時よりも使えるお金も多い。
私は当時の事が一段と懐かしくなり、お金もあるということで、思わず大人買い…
…とはならなかった。
その理由は決して、経済的な理由からでも、保管場所の確保ができないからでもなかった。
・魅力的な商品の購入を躊躇う理由
魅力的な商品が格安で販売されているというのに、私が購入を躊躇った理由。
それは…
個人経営のネットショップを利用するのが怖かったからである。
前段の通り、高校生の時の私は個人経営のネットショップで買い物をすることに抵抗はなく、むしろお宝探しのようで楽しさすらあった。
しかし、時代は変わった。
インターネットの普及により、資本規模が小さい個人経営でも全国的な商品販売が可能となったと思えたのも束の間、悪質な集団がそれらのサイトを模倣して、販売業者を装って、詐欺や個人情報収集を行うこと増えてしまった。
実際、注文しても商品が届かない、あるいは粗悪品が送られてくるといった被害が報告されている。
大手の通販サイトでは一定の安全感を得られるが(実際はそれらも成りすましの被害にあうこともあるが)、初めて利用する小規模な個人ショップでは、以前のように安心して買い物をすることが難しくなってきている。
しかも、そういったサイトは、あまりにも安価な価格設定をしているため、思わず食指が動きそうになってしまい、より一層の警戒をしてしまう。
かつてならば、「掘り出し物を見つけた!」と興奮したものだが、今では「この店は詐欺サイトではないのか?」と疑念を抱いて、購入を検討する時は、まずショップ名や会社概要に記載されている社名を「詐欺」や「偽物」というワードと共に検索することだろう。
そして、少しでも怪しい点があれば、購入を諦めざるを得ない。
高校生の時は、決済手段として主に代金引換を利用しており、ポチ袋にお釣りなしの金額を入れて、玄関に準備していた。(そのことも懐かしさを感じる)
これだったら、詐欺にあうとしても、箱の中身が偽物だったり、個人情報が流出するにしても住所や本名、電話番号程度と被害も限定的であろう。
だが、代引きよりもはるかに便利で、今は当たり前のように使っているクレジットカードで決済してしまえば、カード番号やセキュリティーコードさえも盗まれてしまってリスクが大きい。
というわけで、先日見かけたサイトでも、どんなに商品が魅力的でも、「もしかしたら、詐欺サイトではないか?」と思い、怖くて買うことができなかった。
かつてであれば、そんなことを一切考えず、純粋に買い物を楽しんでいた。
その時の懐かしさと同時に切なさが込み上げてきた。
無邪気に趣味を楽しめた時代がいかに貴重だったかを痛感する。
・一番の被害者
随分と懐古かつ感傷的な内容となったが、ここまではあくまでも私個人の話。
個人ショップを模倣した詐欺や個人情報収集業者のせいで一番被害を被っているのは、真面目に商売をやっている人たちである。
詐欺業者のせいで、昔から真面目に商売をしてきた信頼できる個人店までもが、風評被害を受けてしまい、長年愚直に培った信用が失われてしまうのはあまりにも理不尽である。
こうした状況に対する怒りと無念さは計り知れない。
ネット犯罪の被害者は、決してお金や個人情報を騙し取られた人々だけではない。
そうした風評被害によって、売上が減少して、商売を続けられなくなったお店はきっと少なくないだろう。
かつて、彼らには欲しかったお宝だけでなく、たくさんの楽しい思いも提供してもらった。
だが、私は薄情なことに彼らが経営していた店名も憶えていない。
もし、その記憶が残っていれば、ネット詐欺全盛の今でも、彼らの店だけは安心して利用することが出来ただろう。
実店舗であれば、うっすらと残っている記憶を辿って、その地域と関連する商品のワードを参考にして、見つけ出すことも出来るだろう。
しかし、魅力的なお店が彗星のように現れては去っていく個人経営のネットショップでは、Yahoo!や楽天のようなECサイトでなければ、メールの保存でもしていない限り、注文履歴から調べ出すことも出来ない。
まさしく一期一会の買い物だった。
昔のように気軽に中古品を探し、安心して購入できる環境が戻ってくることが一番だが、現実はそう簡単ではないだろう。
その原因は紛れもなく、悪質詐欺集団なのであるが、「私自身にも改めるべきことが全くなかった」とは言えそうにない。