先週テレビを見ていると、「日本一の最底男」という番組の予告が流れた。
同CMは第5話のもので、(2/16現在)YouTubeでも視聴できる。
一回聞いたら忘れることがない程のインパクトがあるタイトルだが、私はこれまで同番組を視聴していたことはなく、これまでであれば、全く意識に止めず聞き流していた。
しかし、今回は耳を奪われるシーンがあった。
保育士の女性が
「今月末で辞めさせてもらいます」
「もう限界です」
と発言しているのである。
字幕では「保育士たちの一斉退職!!」と書かれており、 香取慎吾演じる大森一平が保育園で働いていることから、第5話のストーリーが展開される上でキーとなるシーンと言えそう。
保育士の仕事は薄給な上に激務なため人手不足が激しく、これを完全なフィクションと言えないのかもしれないが…
しかし、「今月末で辞めさせてもらいます」という退職宣言を聞いた時はこんなことを感じた。
「羨ましいな…」
・「今月で辞めます」と言えない理由
私はこれまで退職しまくってきたが、かれこれ10年以上、宣言から1ヶ月以内に退職したことはない。(バックレを除いて)
決して、職場へ迷惑が掛からないよう後任者が採用されて十分な引き継ぎを行い円満に退職したいからではない。
東京へ出てからは派遣の仕事をしていることが多く、3ヶ月更新という契約期間の関係でそうならざるを得ないのだ。
たとえば、契約期間が4/1~6/30だとしよう。
もし、契約終了日の1ヶ月以上前である4/10や5/6に辞めたいと思っても、当月末の4/30や5/31に退職することはやむを得ない理由がある場合を除き原則不可能である。
「3ヶ月更新」と聞くと、「3ヶ月ごとに『次も無事に更新してもらえるだろうか…』と職を失う不安を感じる」と不安定の象徴ように言われているが、逆の面に目を当てると、「3ヶ月は仕事が続く」という意味になる。
それは労働者にとってポジティブなことかもしれないが、「3ヶ月は(辞めたくても)辞められない」の裏返しである。
そして、更新の意思を訊ねられるタイミングが早い。
先の例だと、次回の契約期間は7/1~9/30ということになるが、大体5/15頃には派遣会社から「契約更新のご意向について」と連絡が入る。
極端な話だが、この時点で更新を希望して、翌日には「やっぱり退職すれば良かった」と思った場合、退職日は9/30となるため、辞めたいと思いながら4ヶ月半も働くことになる。
これはとてつもなく長い道のりのように感じで、不自由なことではないか?
このような契約期間の縛りがあるため、不本意、または可哀想な派遣社員として描かれがちな「とりあえず派遣社員として食いつなぎながら就職活動を頑張る」という働き方は意外と向いていない。
個人的には、派遣社員として働く時はこれが最大のデメリットであり、雇止めになるリスクを覚悟してでも、「1ヶ月毎の更新だったらなぁ…」と思う。
「派遣の仕事は辞めたければ『契約更新しない』という選択をすればいいから、楽に退職できる」という人がいる。
その意見は決して間違ってはいない。
だが、タイミングとなると話が別だ。
むしろ、雇用期間の定めがない正社員の方が、宣言から2週間後に退職する権利が認められており、「今月限りで辞めます」が使える分、辞める時期を自由に選びやすいと言える。
派遣社員の立場から見ると、ボーナスや退職金の支給よりもよっぽど羨ましいし、悪い言い方をすると「既得権」のように思える。
…というか、そもそも「正社員は簡単に辞められない!!」って、一体何を根拠にして言っているのだろうか?
・派遣の面談で不満点を聞かれても…
3ヶ月更新による退職の問題は、すぐに辞めることができない不自由さだけではない。
一見矛盾しているように思えるが、3ヶ月という縛りがあるからこそ、労働者(派遣スタッフ)を退職へ駆り立てられることもあるのだ。
前段で触れたように、3ヶ月毎の更新のタイミングに合わせて、派遣会社との面談があり、更新意思の確認だけでなく、職場環境への不満や、派遣先に伝えたいことなどの質問がある。
法令違反の疑いがある命令やハラスメントのような緊急時の連絡を除くと、派遣社員が職場への不満を伝えられる(ぶちまける)唯一のチャンスである。
上手くいけば労働環境が改善され、受け入れられなくても、多少の牽制にはなる。
だが、私自身、このような場で派遣先の不満を伝えて、改善につながったことはない。
それどころか、不満を伝えたこともない。
なぜなら、面談が3ヶ月に1度しかないため、不満を伝えて改善に繋がるタイミングを完全に逃していたからである。
仮に、「派遣会社との面談で退職に繋がる不満が解決される可能性がある」という希望があったとしても、そのチャンスが3ヶ月に一度となると、その間にいくつも鬱憤が積もり積もって、面談のタイミングでは時すでに遅し。
完全に愛想をつかしてしまい「すべてを伝えて改善してもらうより、辞めた方が早い」と退職する方向へ流れる。
派遣に限らず、仕事を辞める時は、一つの致命的で耐え難い出来事が原因ではなく、日々の作業の些細な不満、周囲との関係による微妙なストレスが積もって「もう、こんな会社はやっていらるか!!」とブチギレて退職を決意することの方が圧倒的に多い。
「ハインリッヒの法則」という言葉がある。
1件の重大事故の背後には、29件の軽微な事故が隠れており、さらにその背後には事故寸前だった300件の異常、いわゆるヒヤリハットが隠れている。
「1:29:300の法則」とも呼ばれる。
ハインリッヒの法則とは | 人事用語集・辞典 | 人事のプロを支援するHRプロ
29や300という数字は多少おおげさだか、退職という重大決意をするまでの流れもまさにこれである(笑)
もし、更新が3ヶ月ではなく1ヶ月毎でその都度面談が行われ不満を伝える機会があれば、防げたかもしれない退職もあったかもしれない。
一方で、派遣会社の側は「我々はちゃんとスタッフの話を聞いて、職場環境を改善する努力をしているのに、何がそんなに気に食わないんだ?」と嫌味の一つも言いたくなるだろう。
これは決して、「派遣会社とスタッフのどちらが悪い」という問題ではない。
なお、今回の記事では、派遣社員が契約期間内で辞めることは出来ない前提で話をしてきたが、それはあくまで原則の話。
というわけで、もちろん例外はある。
むしろ、契約期間内でも平気でバックレる人は少なくない。
手前味噌で恐縮だが、嫌な仕事はすぐに辞める一方で、契約満了日まで働くことを前提に物事を考えている自分はまだ真面目な方だと思っている(笑)