「部下が使えない!」って愚痴は私の元相棒の話を聞いた後で言ってね

前回までは3度に渡り、新入社員向けの話をしてきた。

というわけで、今日は逆に「新入社員へ仕事を教える人」へ向けた記事を書こうと思う。

2022年度が始まって数日が経過した。

今はまだ新入社員たちも気を使っているかもしれないが、これから徐々に本当の姿が見えてくることだろう。

緊張が解けて周囲の人と親しくなる方へ向かうのであれば嬉しいことだが、「え!? この子って、こんな人だったの…」と残念な顔を見ることになるケースも少なくない。

「面接や入社当初はあんなに素直で真面目な子だったのに、こんなにも我がままで使えない奴だったとは…」

そんなことを思った日には仕事を教える気が無くなったり、逆に「社会人をナメないように、この辺りで厳しく指導を…」と考えたりする。

さて、私もこれまでに仕事を教えた経験は何度かある。

もちろん、全員がこの記事で登場した新入社員のように真面目ですぐに仕事を覚える人ばかりではなく、仕事が出来なかったり、やる気がない人と感じる人もいた。

のだが、今では彼らが全然仕事が出来なかったわけでも、やる気がなかったわけでもないことを痛感している。

なぜなら、後に彼らなど比べ物にならないほどの大物(!)と出会ってしまったからである。

あなたが新入社員に仕事を教える立場の人だとしたら、「こんなプライドが高いだけのモンスター社員はクビだ!! 左遷だ!!」と見切りをつけるのは、私の話を聞いた後からでも遅くはない。

・初めて知った「使えない人」の意味

今回の主役はA男(仮名)という当時20代の男性。

彼は私と同じ立場で、勤務開始日も同日だったため、私は彼の教育係というわけではなかった。

ただ、席が隣だからという理由で、よく二人で仕事を組まされたり、分からないことを聞かれることがあった。

その仕事は私と彼を含めた4人のメンバーと1人の上司、計5人でスタートした。

その中で、彼は一人だけ仕事の覚えが悪かった。

作業が遅いだけではなく、上司から教わったことも全く理解できておらず、メールの誤送信、添付ファイルの付け忘れも日常茶飯事だった。

それだけであれば、これまでに何度も見てきた仕事が出来ない人と同じであり、むしろ、私は「彼はスキル不足を感じてリタイアするのでは?」と心配していた。

しかし、そのような心配は全く無用だった。

彼はただ仕事が出来ないのではなく、全くやる気がない人間だったのである。

そのため、どれだけ仕事でミスを連発しても、次の日は平気な顔で出社して来た。

彼がヤバいところは、先ず「自分からは一切動かない」ことである。

それは「指示待ち」というレベルをはるかに超えていた。

私たちの仕事は、個人の担当が決まっているわけではなく、他所の部署から渡された案件を順次処理していく仕事だった。

だが、彼は自分の席が部屋の入口からもっとも遠い場所にあり、案件が届いたことを確認しづらいことをいいことに、仕事があっても完全無視で、ひたすらネットサーフィンに夢中だった。

彼がようやく重い腰を上げるのは、他の人から仕事があることを告げられた時か、仕事が定時までに終わらず、残業をしなければならない可能性がある時だけである。

彼の非常識な言動はそれだけにとどまらない。

彼の隣の席にいた私が目撃したのは

  • 仕事の指示を出された時に一切返事をしない。

  • 珍しく分からないことを聞く時も、相手の状況などお構いなしに、断りを入れずに自分の言いたいことだけを並べて、教えてもらってもお礼を言わない。

  • 仕事が終わらずに残業を命じられるも、15分や30分のような切りのいい時間になると、仕事が片付いていないにもかかわらず「お先に失礼します」と言って一方的に帰宅する。

  • 大真面目な仕事中に、突然、業務とは関係ない自宅のネット環境の話を始める。

午前と午後は勤務時間中に一度ずつ30分程抜け出すことも彼の日課だった。

当初は私も彼の腹の具合を心配していたが、それも要らぬ心配だった。

なぜなら、彼はその時間に、建物内を徘徊したり、歯を磨いたり、休憩室でスマホで遊ぶなど、あからさまなサボりを行っていたからである。

彼の非常識な言動に呆れていたのは、他のメンバーも同じかもしれないが、そんな人間と頻繁にコンビを組まされる私は堪ったものではない。

・他部署も巻き込む無責任さ

A男はたとえ自分の仕事であっても、人から指示がなければ動かない。

その仕事では、メールのやり取りには上司のアドレスをCCに入れているものの、自分が手を付けた案件に問い合わせや修正依頼が発生すると、基本的には手を付けた本人が対応することになっていた。

だが、彼が自分からメールボックスを確認することは一切ない。

ある日、彼の作業に不備があり、退社時刻の30分程前に、提出先から修正依頼のメールが届いたことがあったが、彼はそれを無視したのか、気付かなかったのかは不明だが、対応せずに平然と帰宅した。

ちなみに、その時の上司は別件の対応に追われていたため、彼が帰宅した直後に、修正依頼のメールと、彼が放置して帰宅したことを把握した。

温厚で普段は彼の怠惰な行動に目を瞑っていた上司もこれには腹を立てた。

私が「A男さんなら、ちょうどさっき帰りましたよ」と伝えると大激怒し、「奴を捕まえて、けじめをつけさせる!!」と言いながら、彼を捕獲しに飛び出して行った。

結局、その日は取り逃がしたため、上司は翌朝、彼を問い詰めることにした。

そこでA男が言ったこととは…

A男:「メールが届いたことは知っていたけど、何も言われなかったから、他の人がやってくれたと思っていました

その時の上司は怒りを通り越して呆れ果てたようで、「もういいです!」と一言投げ捨てるだけだった。

A男の無責任な行動によって迷惑を被ったのは私たちの部署だけではなかった。

ある日、別の部署の職員が急ぎの仕事を頼んできた。

その時、たまたま手が空いていたのはA男一人だったため、彼はA男に仕事を依頼した。

もちろん、彼はA男がどんなに仕事が出来ない人物であるかを知らない。

それは取引先からメールで依頼された仕事の対応だったのだが、不明な点が多く、さらに別の部署に問い合わせる必要があったが、その担当者は会議で不在だったため、退勤時間までに仕事を終えられなかった。

すると、例によってA男はその仕事を放置して帰宅した。

翌朝、仕事を依頼した担当者が直々にA男の席にやって来た。

他部署の職員:A男さん。おはようございます。昨日私が依頼した仕事はどうなりましたか?」

A男:「いや、まだ誰も何も言ってきません(「何もやっていない」ではないことに注意)」

他部署の職員:「結論から言うと、昨日私がやりました!! 用事があって定時で上がることは仕方ないけど、残業していた人の話では、あなたは誰にも引継ぎをしないで帰ったそうですね!? 人から頼まれた仕事を放置して帰らないでください!!

自分が悪いと一切思っていないのか、唖然とするA男に他部署の職員はさらに言葉を続ける。

「私がその仕事を終わらせたことはA男さんにもメールで伝えているのに、何でそのことを把握していないんですか!?」

「そもそも、ちゃんとメールに目を通しているんですか!?」

「もう勤務開始時間を過ぎているのに、何でメールボックスを開かないで、株価なんかチェックしているんですか!?

普通であれば他部署に苦情を入れる際は、その部署の責任者を通して行うものである。

しかし、彼はそのような序列をすっ飛ばしてでも、A男本人に直接文句を言わなければならない程、怒り狂っていた。

・初めて職場でキレそうになった瞬間

私も隣の席で散々迷惑を被ったものの、A男の振る舞いはどこか他人事として(時に笑いながら)見ていた。

だが、そのような余裕を一気に吹き飛ばす出来事が起きた。

その日は私たちの部署は仕事がないことが予想されたため、他所の部署から書類の整理を頼まれていた。

そんな中、同僚の一人がこんなことを言った。

「この書類は〇日から×日までの分がありません!!」

それを聞いた私たちは、自分たちの仕事を中断して、その書類を探していたが、そんな中でも彼は平然と自分の仕事を続けていた。

彼はパソコン作業だけでなく、書類仕事をやらせても全く使い物にならず、机には作業中の書類が散乱し、例によって、それも放置したまま帰宅した。

翌日、彼の散らかった机に呆れながら、受信したばかりのメールを読むために、書類整理の手を止めていると、彼は突然、こんなことを言い出した。

A男:「早川さんって、今、暇ですか?

はぁ!!??

私は彼のあまりにも唐突な物言いに驚きながら、メールをチェックしていることを伝えた。

彼は自分の無礼さに気付いていないのか、さらにこんなことを言い出した。

A男:「これ間違って並べてしまったんですけど、俺これから抜けなきゃいけないんで、暇なら代わりに並べ直してもらってもいいっスか?」

それが人に物を頼む態度か!!??

なめてんかコラぁ!!??

高校生の時にアルバイトを始めて10数年が経つが、私が初めて職場でキレそうになった瞬間である。

それまでは上司や他の部署の職員が激怒したり、自身も散々迷惑を被っても、「こういう人もいるんだ」くらいの余裕を持って見ていたが、さすがにこの時は堪忍袋の緒が切れそうになった。

A男の暴言や、彼に対する私の返答を聞いた同僚は、私が不愉快極まりない心情であることを察してくれたようで、彼が私に押し付けた仕事を手伝ってくれた。

しかも、そこで私たちが前日「ない!!ない!!」と言って必死に探し回っていた資料が出てきた。

これには私たちも呆れるしかなかった。

こんなクズに時給1,700円も払うことは社会的犯罪である。

そう確信した。

A男の言い分と過去

私たちの仕事は期限付きの雇用だった。

幸いだったのは、A男に対してブチギレそうになったのが退職2週間前だったことである。

無期限であんな人物の隣で仕事をすることは耐えられない。

ちなみに、私たちのチームは全員が同日に契約を打ち切られることになったが、その中で、最も早く次の職場をゲットしていたのが彼だった。

おそらく、私に暇かどうか尋ねた日がその職場の面接だったと思われる。

彼を採用した会社にどんな事情があるのかは知らないが、こんな人間にホイホイ職を与えるとは、面接担当者の目はやはり節穴である。

勤務最終日、私たちの上司は数日前から体調不良で休んでいたため、私は帰宅前に挨拶とお礼のメールを残すことにした。

その様子を見ていたA男は、すでにパソコンをシャットダウンしていたため、私が送るメールに自身が迷惑をかけたことを詫びるよう書いてくれと頼んだ。

彼は自分が迷惑をかけたという自覚があったようだが、同時にこんなことも言った。

「ただ一つだけ言わせてもらいます。俺はこの仕事を初めたばっかりの頃に何日間か他所の仕事を手伝いに行っていたじゃないですか?」

「その間にここの仕事のやり方がかなり変わっていたんだけど、上司からは変わったことを何も知らされてなかったんですよ」

「それなのに、問題が起きた後で、『あれが違う』、『そんなことも知らないの?』と言われて、一人だけ仕事できない奴みたいな扱いを受けたから、『俺はこの人の下では働けないな』と思って、気持ちが切れていたんですよ」

たしかに、よくよく思い返すと、彼が抜けた数日間で仕事のやり方は大きく変わった。

個人的な理由で欠勤したのならともかく、業務命令で他所の仕事を手伝っていたのだから、そのフォローは上司が行うべきだったし、それを知らない彼が「周りの人に比べて仕事ができない奴」と思われて嫌な気持ちになることは理解できなくない。

まあ、だからと言って、それ以外の仕事の放置や、勤務時間内の徘徊、私への無礼な態度が容認されるわけではないが。

その後も彼とは「今日が最後」ということで、お互いにこれまでに経験した仕事の話をした。

彼は専門学校を卒業した後に、希望の職に就けず、小さな飲食店で働いていた。

そこは経営者の横暴がまかり通っている職場で、賃金は低く、休みも残業代もなくコキ使われたらしい。

本人の口から直接聞いたわけではないが、彼が言われたことしか行わず、あからさまにやる気がない態度を取っていたのは、この時の経験から「自分の身は自分で守る」、「仕事で関わる奴はみんな敵であり、絶対に信用しない!!」というような憎しみがあったからなのかもしれない。

ちなみに、彼は次の仕事が決まっていなかった私に「早川さんって英語ができるんだから、翻訳とか英文事務の仕事を目指したらどうですか?」と言ってきた。

私が、「その仕事は経験がないから難しいと思う」と答えたら、「ダメ元で申し込んでみたらどうですか? 俺も条件が良さそうな仕事は取り敢えずエントリーだけはしていますよ」と言った。

その時は軽く受け流したが、その後はなかなか仕事が決まらなかったこともあり、彼が提案した「取りあえずエントリーしてみる」という作戦、通称「A男作戦」を決行した。

その結果、英文事務や翻訳の仕事ではなかったものの、「どうせ自分なんか…」と思っていた仕事に採用されることになった。

「百害あって一利なし」

勤務最終日まで、「その言葉の例として彼を辞書に載せたい」と思っていたが、彼のおかげで職に就けたことを思うと、彼は最後の最後で汚名を返上したのかもしれない。

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