他人へのアドバイスと自分の政治的主張を混同してはいけない

・弁解と補足

一ヶ月前の記事で、私はエラそうに社会問題を論じる態度と身内に対する助言があまりにも矛盾している人の無責任ぶりを指摘した。

彼らは利己的な考え丸出しなので、その無責任さは疑う余地がない。

私は彼らのような人間になりたくないので、自分の行動が普段の主張に沿ったものであるかどうかについて、いつも注意を払っているつもりである。

しかし、私はたとえ崇高な政治的、社会的な意見を持っていたとしても、常にその信念に基づいて行動することだけが正しいとは思っていない

特に気をつけなければいけないのは他人にアドバイスをする時である。

そのような場合は「こういう社会であるべきだ」ということと「目の前にいる人を救うために最善の方法を提示する」ことを分けて考えなくてはいけない。

たとえば、私は「新卒一括採用・終身雇用・転職厳禁」という日本型雇用はおかしいと思っている人間である。

そして、その風潮に少しでも抗うために「嫌な職場は退職する」ということを繰り返してきた。

それが自分にとって筋を通す生き方だと思っている。

また

一度、正社員で入社した会社は絶対に辞めたらいけない!!」

「そこで逃げたら、お前は落ち武者になり、一生社会には戻れなくなるぞ!!」

と脅して、自殺以外の逃げ道を奪う人間は殺人者と同じであると思っている。

しかし、私は自分の「政治的な立ち位置」だけで、他人に無暗やたらに転職を勧めることはしない。

これは当たり前のことである。

そもそも、「何がいい人生であるか」は人それぞれであるし、職場に悩んでいる人に対して「転職を認めない社会がおかしいのだから、嫌な職場はどんどん転職しよう」と自分の理想とする社会像を押し付けたところで、私がその人の人生の責任を負えるわけがないのである。

・仲間に誘うつもりが鬱病に…

それでは、「相手の状況を考えずに、自分の政治的主張をゴリ押ししたらどうなるのか?」ということについて考えてみよう。

これはあくまでも架空のお話。

私には公務員の友人がいて、彼が職場で上司からひどいハラスメントを受けている。そして、それを苦にして「仕事を辞めたい」と私に相談にきたとする。

「一度入社したら絶対に辞めてはいけない!!」

「自己都合で退職することは社会人としての責任の放棄だ!!」

などと他人の事情など考えず、何とかの一つ覚えのように勝手なことをほざいている自称社会人に心の底から嫌悪感を持ち、もっと自由に労働移動できる社会になることを願っている私としては、これはチャンスとばかりに

「仕事なんていくらでもあるのだから、辛かったらいつでも辞めたらいいよ」

と言いたくなるだろう。

もし、彼の退職希望理由が「仕事がつまらん!! 俺はこんなところで人生を終わらせたくない!!」と言うのなら、それでもいいのかもしれない。

ただし、彼が自分の仕事を気に入っており、退職したいと考えている理由が上司のパワハラのみで、それ以外の点については全く不満がないのであれば、上司のパワハラを止めさせる手段を一緒に考えることが正しい選択である。

そのような事情を無視して、安易に退職を勧める(煽る)ことは、彼のことを全く考えていない自分のエゴでしかない。

それに退職したとしても、パワハラの苦しみから解放されるとは限らない。

とにかくパワハラ上司から逃れたくて退職したものの、後々冷静になると「何で被害者である自分が退職しなければならなかったのか…」ということに気づく。

そして、自分の手で好きだった仕事と安定した身分を手放してしまったことへの後悔。

それから、自分を苦しめたパワハラ上司はノウノウと働き続けている(場合によっては出世しているかもしれない)という現実。

そのようなことを延々と考えていると、退職してしまった自分を責めて、鬱病を発症する可能性もある。

このように、他人からの相談に対して、相手の状況を一切考えずに自分の政治的意見で答えてしまうと、場合によってはかなり危険なことを引き起こす可能性もある。

だから、私は他人に対して安易に「嫌なら仕事なんていつでも辞めたらいいよ!!」などとアドバイスしたりしないし、この記事でも書いた通り、「新入社員へ贈りたい言葉シリーズ」の中で、辞めたいと思っている人を後押しする記事にのみアクセスが集中していることを不安に思っている。

・逆の立場も考えてみよう

先ほどの例は「自由な労働移動を求める」政治的立場からアドバイスをすることで、相談者をさらに苦しめる結果となった(架空の)話だったが、バランスを取って逆のケースも考えてみよう。

これも架空のお話。

職場の同僚からストーカー被害に遭っている人が「彼(彼女)のストーカー行為が日に日に酷くなってきており、身の危険を感じるので仕事に行きたくない」と知人に相談した。

本人が「身の危険を感じている」ほどのストーカー行為なので、退職とまではいかなくても、休職するなり、警察に相談するなりして、身を守ることが最優先なのは誰の目にも明らかである。

しかし、その知人は「そんな理由で騒ぎを起こして会社に迷惑をかけてはならん!!」というような筋金入りの自称社会人だったため、ストーカー被害に耐えて職場に行くことを強制。

その結果、このストーカー被害者は精神的に追い込まれて、退職後数年間は外出もできないほどの精神病を患った。

これも先ほどのケースと同じで、相談者の事情を一切考えずに、自分の政治的立場だけで無責任なアドバイスをした結果、初期対応を誤って被害が拡大してしまった。(下手したら逆恨みしたストーカーに殺させれていたかもしれない。)

相手の事情を考えずに自分の政治的主張をゴリ押しすることが、いかに危険で不誠実であるかがよく分かる。

・バイアスを抱えながらもできること

とはいえ、人間は誰しも心を持っているので、100%客観中立な立場から助言を行うことなど不可能だということも事実である。

特に仕事に関しては、ほとんどの人が自分の経験に基づいた何かしらの信条を持っている。

だから、仕事のことで他人から相談された時は、最初に「自分はこのようなスタンスだから、無意識の内に、答えをその方向へ誘導してしまっているかもしれないけど、『こういう考えもある』くらいに思って聞いてもらいたいなあ」と前もって断りを入れることで、最終的には本人が決断できる道を用意しておくべきである。