
前回の記事の冒頭で、「特に企画ものを行っているわけではないが、前々回と同じく結婚や恋愛テーマが続いた」という説明をした。
今回も同様のテーマが続くことになるので、いっそのこと「結婚や恋愛は意外な所に落とし穴があるシリーズ」とでも銘打った企画にしようと思う。
しかし、そうすると、順番を間違えたと反省している。
今回は前々回の記事と同じく「あることが心配で結婚に悩んでいる人」へ向けた内容になるから、投稿順序をこちらと並べるべきだった。
・共働きでも家事をやるのは自分一人

近年、家事や育児の「ワンオペ」が深刻な社会問題として語られることが増えている。
SNSでは「配偶者が家事をしない」、「育児をやらない」、「結局すべて私に負担がのしかかる」といった不満が連日あふれ、ワンオペのつらさを訴える投稿には何万もの共感が寄せられる。
共働き世帯が増え続ける現代において、片方だけが家事と育児をほぼ丸ごと抱え込んでしまう「ワンオペ」は、もはや個人の問題ではなく社会問題だと見なされている。
そもそも「ワンオペ」とは、ワンオペレーションの略で、元来は飲食店などでスタッフが一人で全業務を担う状態を指す言葉である。
それが転じて、家庭の領域では「夫婦のどちらか一方が家事育児の大部分を担当し、もう一方がほとんど参加しない状態」を意味するようになった。
特に共働き家庭でこれが起きると、負担の偏りは深刻だ。
ワンオペを担わされた側(ほとんど妻だろうが)は時間的余裕が奪われ、孤立感が増し、心身の疲労が積もり、家庭内の不満が爆発する。
現代でワンオペがここまで問題視されるのは、「男性は外で働き、女性は家を守る」という明確な役割分業が弱まり、両者がフルタイムで仕事に就くことが普通になったにもかかわらず、家庭内の家事構造だけが古い設計のまま残っているためである。
ところが、この議論にはしばしば興味深い矛盾が潜んでいる。
それは、多くの人が「ワンオペは絶対に嫌だ」と訴える一方で、「理想の結婚相手」としてしばしば挙げるのが、公務員や大企業の総合職、外資系コンサル、商社といった、いわゆる「高収入のエリート」だということである。
・理想の結婚相手は結局こんな人

2年前にこちらの記事で取り上げた「この企業に勤める人と結婚したいランキング」というお下劣な調査は今年も実施されたようだが、調査結果を見るとやはり男女共に一流企業や公務員が並ぶ。
ちなみに、上記はあくまでも「企業」を対象にしているためランキングには含まれていないが、医師や弁護士といった職業も結婚相手としては人気がある。
安定、高年収、社会的信用、親ウケの良さ、これらは確かに魅力的だ。
しかし、同時に、こうした職業に就く人は「ハードワーカー」でもある。
長時間労働、責任の重さ、緊急対応、出張、全国転勤……。
人生の大部分を仕事に捧げるような働き方をするからこそ、彼らは高収入を得て、社会的にも尊敬されている。
つまり、彼らがそのような職で輝ける理由は、「仕事に膨大な時間を取られ、家庭に関わる余裕がほとんどない」という事実と一体であり、切り離せるものではないのである。
実際に彼らの働き方は「専業主婦によるワンオペ家事育児」が前提で設計されている。
高収入を得られることだって、会社から「専業主婦を養える金をくれてやるから、早く嫁を貰って、家のことは彼女に任せて、お前は仕事に専念しろ!!」と言われているようなものである。
かつてのモーレツサラリーマンをイメージしてもらえば分かりやすいが、彼らは家族事情をほとんど考慮しなかった。
深夜残業や休日出勤、急な異動や単身赴任を命じても、その裏で妻が家を完全に回してくれるという前提があったからだ。
彼らは決して「家庭を顧みない冷血仕事人間」ではなく、高収入エリートの働き方そのものが、妻のワンオペとセットで成立していたのである。
そんなに彼らに
「仕事ばかりやって、家庭をほったらかしにするな!!」
「ゴロゴロしていないで休日くらい家事をしろ!!」
と言うのは酷である。
私だってその立場になれば、家のことは妻に丸投げするだろう。
ある政治家が総理就任の際に「ワークライフバランスを捨てます!」と宣言したが、そんなことは当たり前である。
・ワンオペを嘆く資格なし

社会的なエリートを相手に「家事育児をたっぷりする余裕」を求めるのは、燃費が良くて壊れない上に時速300kmで走れて値段もママチャリ並み、みたいな車を求めるのと同じで、もはや理想と現実の衝突でしかない。
ハッキリ言って、そのような職業の人と結婚することを望んだのであれば、「ワンオペがつらい」、「夫(妻)が家のことを何もしてくれない!!」と嘆いたところで、
それがあなたの望んだ結婚生活でしょう?
としか言えない。
この記事に書いた通り、昭和時代でも年功序列や終身雇用といった大企業型の生き方をしていた人は3割程度であるため、彼らの働き方を「昭和的価値観」と呼んでいいのか悩ましいが、ここでは分かりやすくするために、そう言わせてもらう。
結婚相手には、昭和的価値観を求めつつ、いざ結婚したら、「夫も家事育児もやるのが当たり前」という令和的価値観を要求すれば、当然ひずみが生まれる。
片方を変えずにもう片方だけ新しい価値観を当てはめるのだから、破綻するのは疑う余地がない。
にもかかわらず、SNSでは強烈な二重構造が発信者が何の矛盾も感じることなく成立している。
一方で「安定した高収入のエリートが理想」と語りつつ、同時に「ワンオペを許すな!」と叫ぶ。
だが、この二つは構造的に両立しない。
強力なビジネスパーソンを「家事育児が得意で家庭優先のイクメン」に仕立て上げることはできないし、そんな人物がいたとしたら、その人は勤め先こそ立派でも、出世コースから脱落した人ではないのか?
もちろん、そうした人生も否定しないが、大企業であれば地方を転々と異動する可能性が高いと思われる。
・ワンオペが嫌ならこんな人と結婚すればいい

では、結婚後にワンオペを避けたい人はどうすればいいのか?
その答えは簡単である。
先程の破廉恥なランキングには到底現れないであろう企業に勤めていて、社会的な地位も、収入も彼らより大きく劣る会社で働いているが、完全週休2日で、残業も少ない仕事をしている人と結婚すればいい。
女性であれば「草食系男子」と、男性であれば「ゆるふわOL」と。
そうしたら、きっと家事も育児も分担できますから。
ゆるふわOLはともかく、「草食系男子」は、恋愛や結婚については、長らくネット上で散々見下され、揶揄され、バカにされてきた。
この言葉は名付け親である深澤真紀氏によれば、元々「恋愛や性にがつがつせず、友人や家族を大切にし、女性とも自然に友人関係を築ける男性」というポジティブで柔らかな意味を持っていた。
ところが、前回の記事でも少し触れた、腐女子向けの詐欺コンテンツを配信する自称・恋愛系YouTuberや、「ネットde真実の愛」に目覚めた者たちによって、
「弱々しくて稼げない男」
「恋愛経験が乏しく、女性を満足させられない男」
「非モテだ! 弱者男性だ! チー丼だ!」
という否定的なレッテルを貼られてしまった。
企業の業績不振が若者の責任にされる時にも「若者の○○離れ」の象徴として扱われ、恋愛の失敗を男性側のせいにする際にも「最近の男は草食化した!」と叩かれる。
彼らは長らく、社会から「不当に低く評価されてきた存在」だったのである。
しかし、ワンオペ問題を冷静に俯瞰してみると、実は彼らこそが「現代の共働き家庭に最も適したパートナー」であることが浮かび上がる。
草食系男性の多くは、仕事に人生のすべてを捧げる生き方を好まない。
出世競争に執着せず、残業を避け、金より時間を大切にし、平日の夜や休日を家族や趣味に使いたいと考える。
これぞまさに「家庭内での時間確保」が最も重要になる共働き家庭において、最適な特性といえる。
さらに、草食系男性はもともと恋愛にガツガツしない分、女性との関係において対等性を重んじる傾向がある。
恋愛経験の豊富さでマウントを取らず、家庭内で「夫が上・妻が下」といった家父長的価値観を押し付けることも少ない。
家族との時間を自然に優先し、感情労働やケアの分野に抵抗が少なく、共同生活を営むパートナーとして非常に相性がいい。
つまり、彼らは「共働き時代の夫」として必要な資質を、偶然にもすでに持ち合わせているのである。
皮肉なことに、SNSで「恋愛経験が少ない」、「頼りない」、「つまらない」と散々揶揄されてきた草食系男子こそが、「ワンオペを避けたい」、「家事育児を平等にしたい」と願う女性に最も適合する存在だったのだ。
にもかかわらず、その事実に気付かない大バカ者が、彼らを低く評価し、高収入エリートに憧れ続ける。
そして、奇跡的に結婚出来ても、「夫が忙しすぎてワンオペになる」と不満を漏らす。
何とも滑稽な話だが、要求しているものが矛盾しているのだから、それは当然である。
収入や肩書、社会的な見栄に固執して、「自分がどんな生活を送りたいのか?」、「その生活にどんな男性が最も適合するのか?」を考えない計画性のなさこそが、ワンオペ問題を引き起こす大きな原因となるのだ。









