退職するお局パートを唆して会社に有給休暇を認めさせる②

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退職するお局パートのホリカワ(仮名)が有給休暇の消化を希望したものの、正社員のB(仮名)から「パートに有給はない!!」と一蹴された。

私は彼女に対していい印象を持っていなかったため、彼女が有給を認められないことなど知ったこっちゃないが、このままでは私が退職する時に同じ目に遭ってしまうことは確実である。

というわけで、その職場の求人票を持っているという彼女を唆して、労働条件の違いを理由にハローワークへ相談に行くよう仕向けた。

・計画失敗で自分が破滅の危機に陥る

ホリカワと有給秘密同盟を結んだのが1028日。

彼女がハローワークへ向かうと宣言した日が翌々日の30日。

というわけで、その間の29日はお互い通常出勤となるわけだが、この日は「パートの有給など認めん!!」と宣言した社員Bを含め、他の誰にもこの計画を悟られずにやり過ごす必要があった。

そんなことを考えていると、今まで当たり前に過ごしていた一日にとてつもなく緊張した。

だが、私の計画は早くも綻びを見せ始めた。

昼休みの食事が終わり雑談をしていると隣に座っていた彼女が、「はい。これが昨日話したやつ」と言って、ある物を私に手渡した。

それは紛れもなく前日話していたハローワークの求人票だった。

しかも、その場には社員Bもいた。

思いがけない彼女の行動には、冗談抜きに心臓が止まるかと思った。

よくよく思い返すと、彼女の発言はこんなものだった。

「うん。今度、求人票を見せてやる!!」

その直前に私は「ハローワークに求人票を持って相談に行ったらどうですか?」と言ったので、「彼女はハローワークへ行って、そこの担当者に求人票を見せて相談する」のだと解釈していたのだが、「求人票を見せてやる」とは「私に見せる」って意味だったのか!?

そして、それを持って、社員Bに「求人票では有給があるじゃないか!?」と交渉しろとでも言うのか!?

当然、社員Bは突然そんなものを私に渡した彼女を不信に思う。

社員B「これはここの求人票だけど、ホリカワさんが持ってるってことは1年以上前に使っていたやつだよね。それがどうしたの?」

その時は幸運にも、数日前にBから人手不足の影響で「ここで働けそうな知り合いを紹介してほしい」と相談されており、その際に「念のため労働条件が記載された求人票が欲しい」と頼んでいたため、その話を匂わせて誤魔化すことに成功した。

辛うじてその場を切り抜けた私は、休憩室を飛び出して、外で休んでいたタケダの元へ向かい、ホリカワの行動を説明した。

あと2日で退職する彼女はともかく、上司に「有給を認めろ!!」などと楯突けば、今後の私の身が危うくなる。

そうなった場合の損失は有給数日分ではない。

彼女に期待した私がバカだったが、そもそもリスクを冒さずにリターンを得ようなどという考えは虫が良すぎたのか…

・幸運を祈るしかない…

休憩後はいつも通りの作業時間を行ったが、私が去った後でホリカワがBに「早川君がこの求人票を見て、パートにも有給があるって言っていたよ」と告げ口したのではないかと不安でしょうがなかった。

仕事中の雰囲気で、彼女がそのような告げ口をしたわけではないことは察したが、これまで散々ひどい目に遭わされた彼女が最後に私へ置き土産を残してくれるなどという考えは甘過ぎることを痛感した。

作業終了後、彼女は私にこっそりとこんなことを耳打ちした。

ホリカワ:「明日は休みだからハローワークへ行ってくる」

この言葉は嬉しかったが、それでも彼女に期待する気にはなれなかった。

仮に彼女がハローワークへ行って会社の不正を認めさせたところで、今さら彼女にメリットはないし、下手を打って、彼女と私がつながっていることが会社にバレたら元も子もない。

翌朝、臆病風に吹かれた私は彼女の電話番号を知っているタケダの携帯を借りて、彼女に連絡し、計画の中止を提案した。

早川:「あの~、ホリカワがそうしてくれるのは嬉しいですが、今さらそんなことをしてもホリカワが得をすることはないですし、下手に会社と揉めることになったら、後々仕事をやり辛くなってしまうだけなので、もう有給のことは諦めませんか…」

ホリカワ:「大丈夫!! 私に任せて!!」

「任せって!!」って…

昨日はそれで死にそうになったんだけど…

しかし、こんなにも自信に溢れている彼女を今さら止めることなど私にはできなかった。

・同じ思いをしてほしくない

31日の朝、私が一人で作業の準備をしていると、彼女がやって来て、挨拶よりも先に前日の結果を報告した。

ホリカワ:「やっぱり、有給はあったよ!! 法律だと私は7日、早川君は10日認められるって!!」

私は「ですよね」と答えたが、ハローワークがそのような回答をすることは想像していた。

問題なのは「それを会社にどのように伝えるか」である。

彼女は「今日の昼休みにB君に話すから、早川君は何も心配しなくていい!!」と言ったが、それでも私は安心できなかった。

昼休みの休憩中、彼女は同僚たちと共にする最後の昼食を楽しんでいたが、Bも食事を終えるタイミングを見計らって、彼を外に呼び出した。

午後の作業開始前、彼女は私に結果を伝えた。

ホリカワ:「B君に言ってやったよ。『私は今日で辞めるから仕方ないけど、人の上に立つ人はちゃんと勉強しないとダメだよ!!』って。そうしたら、『次からは気を付けます』って約束してくれた」

早川:「ありがとうございます!! いや~、本当にホリカワさんには最初から最後まで本当にお世話になりました(本当は「最初と最後だけ」としか思ってなかったけどね)」

ホリカワ:「いえいえ、こちらこそ~」

こうして、彼女とはいい形で別れることができた。

なお、その後の話で、彼女は以前も2年ほどパートで勤めた会社を退職した時に有給の消化を希望したが、今回同様に「パートに有給はない!!」と一蹴されて悔しい思いをしたこと、これまでも会社の方から「パートにも有給がある」と言われたことは一度もなかったことを明かしてくれた。

そして、たとえ今回は自分の有給が消化できなかったとしても、私たちに同じ思いをしてほしくないという理由で私の計画に加担したそうである。

その後もBが公式にパートの有給を認める発言はしなかったが、その時近くでタバコを吸っていた同僚が後日

「この前、ホリカワさんがハローワークへ行って、Bさんに怒りながら『パートの有給を認めないのは違法』だって言っていたよ」

と話していたので、ホリカワがBに大目玉を食わせたことは間違いなかったようである。

一時は「彼女は最後まで私の予想を超える暴走老人だった」と思っていたが、彼女は最後に私の期待に応えてくれた。

・残された宿題

お局パート、ホリカワの活躍により、当初の目的である「会社にパートの有給を認めないことは違法である」ことを認識させたが、私には宿題が残っていた。

それは自身の退職時にしっかりと有給を消化することである。

前段でも触れた通り、ホリカワがBを叱った後も、会社から正式に「パートの有給を認める」というお達しが出たわけではない。

もちろん、私の退職日が近づいた時も、「残っている有給はどうする?」などと聞かれることは一切なかった。

そんな状況で、私は退職届を提出する時を勝負所だと定めた。

退職届を提出する日、作業が終了して、Bと当日出勤していたもう一人の社員(この記事で登場したオカダ)のみが事務所に残っている中で、私はBに白々しく「今から退職届を書くので書き方を教えてほしい」と頼んだ。

すでに彼は私が当月限りで退職することを知っている。

そのため、退職届には「X31日で退職いたします」と書くようにと指示を受けたが、ここで勝負に出る。

「あの~、最後の出勤日が31日であることは問題ないんですけど、有給の消化とかできないんですかね?」

それを聞いたBは一瞬、言葉を失ったが、嫌々ながら話を切り出した。

B「う~ん。ネットによく出ているパートにも有給があるってやつでしょう? 一応本社に聞いてみるけど、あまり期待しないでね」

そう言って、彼は本社に電話をかけた。

案の定、彼はホリカワに糾弾されたことは触れずに最後までとぼけ続けたが、それは私にとって想定の範囲内である。

もし、ここで彼がホリカワの時と同様に「パートに有給はない!!」と突っぱねたら、出勤日数が残り10日になった時点で、私もハローワークへ相談に行くつもりだった。

そして、私に10日の有給が与えられていることが証明された後で会社に電話をかけ、このように告げるのである。

「退職届に書いたから31日で退職しますけど、今から10日の有給を消化したら、ちょうど出勤日数が0になるので、もう出勤できませんね」

本来想定していた有給分の給料の回収はできなくなるが、残り10日は出勤することなく退職できる。

こうすれば、気まずい思いをしながら働くことなく有給を取得できるし、すべてのツケは有給を認めなかった会社に払わせることができる。

あえてBに退職日を指示させたのも、そのための伏線である。

その際に、「ホリカワさんの時もそうでしたよね? あの時、彼女がハローワークへ行くことを提案したのは僕なんですよ」と念を押せば、さすがに会社も懲りるだろう。

このような展開を想定して、前もって、出勤日数がピッタリ残り10日となる日にシフト休を入れておいた。

こうして入念な準備を行って挑んだ最終決戦だったが、Bの問い合わせに対して、本社は意外にも「本当はパートでも有給を認めなければならないこと」を白状した。

その結果、退職届に記載する退職日を翌月10日にして、当初の想定通り、31日まで勤務した後で10日分の有給代を頂くことになった。

ただし、会社はこの期に及んでも、まだパートの有給を公に認めたくなかったようで、このことはその場にいた私とBとオカダの3人だけの秘密にするよう命じられた。

当然、親しくしていたタケダ(仮名)にも口外できなかった。

タケダさん、あの時は黙っていてゴメンね。

・土壇場で逆転のピンチ

結局は自分がリスクを取って直々に権利を主張せざるを得なかったが、ホリカワの一件がなければ、Bも本社に問い合わせることなく、自己判断で「有給はない」と言っていただろうから、あの時の彼女の行動や私の計画がこの場面で活きたと思っている。

私の希望はほぼ叶ったものの、それでも秘密を抱えて働く最後の10日間はしんどかった。

決して、仕事が嫌だから早く辞めたいのではなく、秘密がバレることが怖かったから、早く時間が過ぎてほしいと思っていた。

そんな思いを抱えながら何とか31日の勤務は終了。

しかし、戦いはまだ終わりではない。

会社は人の入れ替わりが激しい職場で1年以上働いた私を労ってくれたのか送別会を開いてくれた。

しかも、その日は別の職場のバイトが入っていたタケダを除き全員が参加していた。

これが最後の関門である。

もし、ここで気が大きくなって口が緩んでしまったらすべてがパーである。

私は別れを惜しむよりも、口を滑らせないことに専念した。

もちろん、酒など飲めない。(帰りは車を運転するのだから当たり前だが…)

Bが別れの挨拶をして、いよいよ宴会もお開きになろうとしていた。

「よし!! 何とか無事に逃げ切ったぞ!!」

ところが、ここで酔っぱらったパートの一人がこんなことを言い出した。

「今日は疲れたからみんな明日は有給を取ろう!!」

それを聞いた私は思わず吹き出しそうになってしまった。

彼女の発言に対して、Bは定型文のように「いやいや、パートに有給はないから」と答えたが、それでも私は落ち着かなかった。

ここで、少しでも表情を変えたら、今まで抑えていた感情が漏れ出して「実は…」と言ってしまいかねない。

私はここが本当に本当の「最後の勝負所」だと自分に言い聞かせて、必死に無表情を装った。

何とか我慢できた私は店を出て、全員に見送られながら、車を出した。

こうして作戦は完了。

思いがけない一打逆転サヨナラ負けのピンチも無事に逃げ切ることができた。

・あとがき

この話は今から10年近く前の2013年のできごとである。

当時に比べると「パートにも有給はある」という認識は大分広まってきた。

もちろん、法律で認められていても、私たちが働いていた職場のように、会社がしらを切ったり、報復を匂わすこともあるだろう。

この記事がそんな苦境に立たされている人の戦いにとって何らかのヒントとなれば幸いである。

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