今月に入って、立て続けに秋の思い出シリーズを行った。
今日も同様に、今の時期によみがえる思い出から始めさせてもらいたい。
これまでに何度か、私が若い時に働いた地元の工場の話をしてきた。
私がその職場で働いていたのはおよそ1年半だが、とても貴重な体験だった。(詳しい職場の様子はこの記事をご覧いただきたい)
それら記事で登場した40代社員のキモト、60代の社員(後にパートへ変更)タケダ、20代の社員B(年齢は当時のものであり、名前はすべて仮名)はこのブログでも何度か登場しているお馴染みのメンバーである。
そんな思い出深い職場で、工場の創業時(と言っても、私が働き出す半年前だが)からのメンバーであるベテランパートのホリカワ(仮名)が退職したのがちょうど今日と同じ10月31日だった。
・暴走老人
ホリカワは当時60代前半の女性。
夫と二人暮らしをしており、2人の息子はすでに結婚して家を離れていた。
最古参のメンバーということもあり、私も含めた後発のメンバーの面倒見が良く、休憩中は積極的に世間話をする女性だった。
まあ、要するにごく普通の面倒見がいい老婆である。
私も彼女からいろいろと仕事を教わったわけだが、実は退職前の彼女のことを快く思っていなかった。
というのも、彼女は私たちに対して傲慢なボス的態度を見せることが多く、作業工程を都合のいいように変更するよう正社員に口を出すこともあった。
それだけなら、意識高い系なのかもしれないが、彼女は面倒な下準備や重労働をすべて後輩に押し付けていたのである。
その時の常套句は「男が働かない」「若いもんがサボっている」という自分とは違う属性の人間を標的にしたものであり、男性かつ当時は若者だった私はその汚れ仕事を幾度となく押し付けられてきた。
私は徐々に、彼女は優しい先輩などではなく、暴走老人、良い表現でも「お局」であることを知った。
そんな中、ある真夏日の作業終了後の清掃中に
「(水が入った)バケツが重い!!」
「 男が全然仕事をしない!!」
「#$%&‘☆ק±÷0」
と怒り出して、私ともう一人の男性社員(タケダ)に掃除を押し付け、他の女性パートを連れて作業場を後にして、事務所で簡単な事務作業(というか職務放棄)を始めたことがあった。
後日、本人は当時のことを「夏バテで疲れていた」とだけ言い残し、謝罪も反省も見せなかった。
私自身、持病で苦しんでいたこともあるが、その時の彼女の傲慢さには遂に我慢できなくなり、非公式ながら退職を宣言した。
この記事でタケダが口にした「お互いにいつバックレるか分からない」という発言は、私が彼女を嫌って退職すると宣言していたからである。
タケダの期待(?)通り、私はバックレも視野に入れていたが、当時は留学費用を貯めなければならなかったため、それはできなかった。
「何とか、次の仕事を見つけてから辞めなくては」
そう思って、休日にハローワークへ通ったりもしたが、そう都合のいい仕事は見つからず、あっという間に1ヶ月以上が過ぎた。
すると、彼女は新聞広告に出ていた近所の新しい工場の求人を見つけ、親しかったパート仲間と共にそこの面接を受けてきたと言うのだ。
これは私にとって朗報。
彼女が辞めるのなら、私がこの職場を去る理由は何もない。
数日後、彼女は採用の内定を得たようで当月末で退職することになった。
そんな彼女が退職したのが、今日と同じく10月31日だったわけだが、私が今日までその日のことを鮮明に覚えているのは、嫌な奴が目の前から去ることが嬉しくてたまらなかったからでも、何だかんだ言ってもお世話になった先輩の退職が悲しかったからでもない。
退職する彼女を唆して、会社の不正を糾弾できたからである。
その不正とは「パート労働者の有給休暇黙殺」である。
・パートに有給はない!?
ホリカワが退職する頃、本社から左遷された正社員も同様に10月限りで退職することになった。
だが、彼女は契約期間こそホリカワと同様に10月末までだったものの、残っていた有給休暇を消化することになったので、ホリカワより一足早く職場を去ることになった。
彼女が勤務を終えた翌日、ホリカワが休憩中にこんなことを呟いた。
その発言を聞いた私は思わず、彼女に聞き返した。
「ホリカワさんも半年以上働いているから有給があるんじゃないですか?」
すると彼女は悲しげにこう答えた。
それを聞いた私は心中穏やかではなかった。
別に彼女が有給を認められずに職場を去ることなどどうでもいいが、パートの有給が認められないということは私も同様に有給の権利を認められないことになる。
正直言うが、私はこの職場で働くまで、バイトなんて小遣い稼ぎ程度にしか思っていなかったため、有給休暇そのものに一切興味がなかった。
しかし、この職場では「留学費用を貯める」という目的があったため、少しでも多くお金を稼ごうと、それまで興味がなかった「交通費」と同様に「有給休暇」についても詳しく調べることにした。
そこで、入社から半年経過し、出勤日数が8割を超えている場合は、雇用形態に関係なく、10日(週5日働いた場合)の有給休暇が法律で保障されていることを知った。
法律に基づけば、それが当然のことであり、この会社でも半年以上働いたら有給が付与されるものだと思っていた。
「別に休みは要らないから、退職する時に消化すれば、少しでも費用の足しになるかもしれない」
そんなことを考えていた最中で、先ほどの「パートには有給はない」発言を聞かされた。
それを聞いた私は「何としても会社の方針を撤回させて、彼女の有給を認めさせなければ、自分の将来も危うい!!」という思いに駆られた。
だが、時期が悪いことに、ちょうどこの時は社員がB一人しかいなかった。
パートの味方だったキモトは1ヶ月前に退職しており、(役に立つかどうかは別にして)タケダもすでにパートになっていた。
つまり、この職場にはパートの味方と言える社員が一人もおらず、有給を申し立てたとしても、先ほどのホリカワのように適当にあしらわれてしまう。
こんな状況で会社に有給を認めさせるのは非常に困難である。
・求人票には「法定通り」と書いてある
幸い、ホリカワから「パートは有給を認められなかった」発言を聞いた時は、私と彼女を除くと、すでにパートになっていたタケダしかいなかった。
そのことにひとまず安心した私はホリカワにこう切り出した。
「法定通り」とは週5日勤務であれば10日、週4日であれば7日というように法律で認められている最低限の日数である。
フルタイムが原則の正社員は「勤務開始から半年経過後に10日」と具体的な日数で書くことが一般的だが、パート労働者は普段の働き方に個人差があるため、このような表記になっていることが多い。
ちなみに彼女はおよそ週4日勤務だったため、法定通りならその時点で7日の休暇が認められるはずである。
それを聞いた彼女は「私もハローワークでここの仕事見つけたから、求人票はまだ持っているよ」と答えたので、
「だったら、ハローワークに求人票を持って相談に行ったらどうですか?」
と言ってみた。
これは冗談半分だったものの、私の予想に反し、彼女は乗り気で
と言い出した。
これは思いがけない幸運である。
もしも彼女が、会社がパートの有給休暇を認めないことをハローワークにチクって、是正させることができれば、私はノーリスクで有給の権利を得ることができるではないか。
しかも、彼女は常日頃から社員に仕事の口出しをしていたため、彼女の発言なら社員も耳を傾けざるを得ないだろう。
私は参考までにと正社員用の有給申請書を事務所のファイルから取り出して彼女に渡した。
こうして、これまで大嫌いだった彼女との間には利害が一致したことによる連帯感が生まれ、彼女がハローワークに告げ口して、会社に有給を認めさせてくれることを意気揚々と期待していたのである。
だが、私にとって気がかりなことがあった。
それは、彼女の退職日までの残り時間である。
彼女の勤務終了日は10月31日。
私に「有給がない」という話をしたのが28日で、次の休みが翌々日の30日である。
その日にハローワークへ相談に行き、会社に有給を認めさせたとしても、翌日31日は最終出勤日なので、彼女はすでに有給を消化する日数はよくても1日しか残されていない。
この状況で、彼女がハローワークへ相談しに向かう理由などあるのだろうか?
そんな不安を抱えながらも、彼女の働きに期待することにした。