
先月、熊本県で大きな地震が発生した。
地震直後に大型商業施設で爆発が起きて、犠牲者も出る痛ましい事故があった。
その犠牲者の中には、地震によって施設から避難していたものの、売上金を金庫に入れるために店内へ戻り、その後発生した爆発に巻き込まれたテナントの女性従業員もいた。
報道によれば、テナント側の責任者からは「売上金を金庫にしまってくれないか、もし入れるのであれば」という趣旨の発言があったという。
イオンモール熊本爆発 女性従業員が死亡 「館内に戻るよう指示」遺族に謝罪
報道後、この会社には多くの批判の声が上がっている。
私もそのような批判は当然だと思う。
ただ、今回の報道を見た私は「酷い会社だ!!」という憤りと同時に、とても他人事とは思えない気持ちにもなった。
私は10年以上前に自分自身が同じような経験をしたことがあった。
・命の危険を感じながら職場へ向かった

その時の出来事はこの記事にも書いたが、改めて説明したい。
当時の私は20代前半~半ばくらいの年齢で、実家のある地方で、ディスカウントストアにテナントを出店している八百屋で働いていた。
出勤には車を使い、朝8時から勤務していた。
ある日、大きな台風が上陸した。
朝起きた時点ですでに強い雨と風が吹き荒れており、しかも天候はこれからさらに悪化するという予報だった。
「これは出勤するのも危険なのではないか?」
そう思った私は、この記事に登場した店長のカワグチ(仮名)に電話した。
すると彼は、かなり嫌そうな様子で、
「分かった。でも開店する9時までには出勤してね」
と言った。
その時間は台風のピークであることを指摘すると、「じゃあ、今すぐ出たら?」などと言い出す始末である。
今の自分なら、
「そんな非人道的な命令を出す会社は直ちに退職します」
「安全配慮義務違反で労働基準監督署に報告するので、それは誰の命令なのか明確にしてください。あなたですか? 社長ですか? それともディスカウントストアですか?」
と退職を盾に抗議して、命令の責任の所在を問いただす。
しかし、当時の自分にはそんな知識も経験もなかった。
加えて、地方では、仕事の選択肢が都市部ほど多くなく、退職後すぐに別の仕事が見つかるとは限らない。
だからこそ、「こんな危険な状況で出勤を求める会社はおかしい」と思いながらも、仕事を失うことが怖くて、嫌々ながらその指示に従った。
だが(というか「案の定」)、台風の中を走ることになったため、途中では自身だけでなく、対向車も強風に煽られて接触しそうになったり、道路の真ん中に倒木があったりして、実際にかなり危険な目に遭った。
幸い事故には遭わなかったが、今振り返ると、「もしあのとき事故を起こしていたらどうなっていたのだろう」と思う。
それと同時に「たかだが時給750円のアルバイトで、何でここまでの責任を求められないといけないのだ!!」と腹が立つ。
そして、今回の事故を知った時、
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犠牲になった方が22歳と若かったこと。
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地方で暮らしていたこと。
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大型商業施設にテナントを出店する小売業で働いていたこと。
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上司が人の命など何とも思わない命令をしていたこと。
など当時の自分の状況と重なる部分が多く、とても他人事とは思えなかった。
会社による遺族への説明で述べられた「もし入れるのであれば」という言葉を聞いた時、もし私が台風の中で出社を強制されて、通勤中に命を落したり、大怪我をした場合、社長やカワグチも同じように「『可能であれば』来てほしいと言っただけど強制はしていない」と言い訳する姿が目に浮かんだ。
・命令とお願いを都合が良いように使い分ける

労働者は、会社と労働契約を結んでいる以上、原則として会社の業務命令に従って仕事をする必要がある。
だが、それは「会社が命じたことなら何でも従わなければならない」という意味ではない。
会社には従業員の生命や身体の安全に配慮する義務がある。
業務命令にも合理性や相当性が求められるため、従業員を生命の危険にさらすような命令まで無制限に認められるわけではない。
警察官、消防士、自衛官などであれば、危険な場所に入って人命を救助することそのものが職務に含まれている。
しかし、販売店の従業員の仕事は、基本的には販売や商品管理である。
災害時に売上金を守るため、命を危険にさらしてまで建物へ戻ることが当然の職務だとは考えにくい。
また、「それは命令なのか、お願いなのか」という区別が曖昧にされていることも多い。
上司は「お願い」と言いながら、
「できればやってほしい」
「可能なら出勤してほしい」
「無理なら仕方ないけど……」
と言われれば、部下はそれを単なるお願いとは受け取らないことがある。
というよりも、責任を追及された時の保険として、意図的に「お願い」を装っているのではないかとさえ感じる。
これは私自身の台風の日の経験にも通じる。
店長のカワグチは私に「絶対に出勤しろ」とは言わなかった。
だからこそ、出勤中に事故を起こしていたら、会社側が後から「出勤をお願いしただけです」と言い訳することは容易に十分に想像できる。
だが、そのようなことが起きなければ、「出勤するように言ったのに何で来なかったんだ!!」と、お願いではなく、業務命令だったような態度に出る。
もはや、暴力団が「恐喝」を「お願い」、「みかじめ料」を「会費」と言い換えていることと同じである。
・災害時には施設管理者の判断を優先させるべき

今回の事故から社会的な教訓を得るとすれば、私は一つの考え方として、
「大型施設で災害が発生した場合、施設管理者による避難・立入禁止などの安全指示を、テナント企業の通常の業務命令より優先させる」
という仕組みを、より明確にすることが重要なのではないかと思う。
施設管理者は、建物全体の安全を管理する立場にある。
地震が発生すれば、
・建物に損傷がないか
・火災が発生していないか
・ガス漏れがないか
・避難経路が確保されているか
・エレベーターや電気設備に問題がないか
・施設内に人が残っていないか
などを総合的に考えている(はず)。
その点は、普段から現場に居なかったり、売り上げのことしか考えていないことが多いテナント企業のお偉いさんとは違う。
そして、彼らはテナントを出している施設の機嫌を損ねることを何よりも嫌う。
そのため、「台風でも出社しろ!」、「売上金を金庫へ保管するために戻れ!」という所属企業の人命軽視甚だしい命令が出ても、「施設から安全上の都合で入店禁止を言い渡されているので行けません」と堂々と拒否できる。
それは「上司に逆らった」のではなく、「施設の防災ルールに従った」と説明できる。
もちろん施設側の権限が強くなりすぎれば、それはそれで別の問題を生む可能性がある。
施設の都合で過剰に営業を停止させたり、テナントに不合理な負担を押し付けたりすることも考えられる。
それでも生命に関わる非常時については、少なくとも普段から対策を義務付けられていたり、問題発生後は社会的なバッシングに繋がる可能性が高い施設管理者の方が、いい加減なテナント企業よりは遥かにマシな対応をするだろう。
ちなみに、私が台風の日に出社を強制された時、会社や上司の人権意識の低さ以外にも印象に残っていることがある。
ディスカウントストアで働いていた人たちの中には、普段は私と同じように朝8時から出勤していた人も多くいた。
その日、彼らは台風が落ち着いた昼前になってから出勤していた。
仕事内容や普段の待遇については、特別に彼らを羨ましいと思ったことはなかった。
ところがその日だけは、
「この人たちは自分と違って、まともな会社で働いているんだ」
と、とても羨ましく感じた。
今思えば、これは会社に対する信頼の差だったのだと思う。
給料がいくら高いか、福利厚生がどれだけ充実しているかということだけではない。
「本当に危険な時、この会社は自分の命より仕事を優先しない」
という安心感も、会社で働く上では非常に重要なのだ。
私に限らず、台風時の出社強制については、これまでも度々話題になった。
ただ、それらは個人のこぼれ話として話題になることはあっても、「こんな殺人命令を許さないための法整備を!!」という方向へ話が進むことは無かった。
そのことに真剣に取り組んでいたら、今回のような悲劇を防ぐことが出来たかもしれないと思うと残念でならない。
犠牲者の方のご冥福を心からお祈りいたします。







