プロ野球の「打順を固定したら勝てる」という主張は本当に正しいのか?

前回の記事は精神論がテーマだった。

昨今、職場やスポーツの場で、科学的なデータではなく、自身の経験や精神力を前面に打ち出す指導者は、徹底的な悪者として扱われている。

ところが、「精神論=悪」と信じて疑わないにもかかわらず、自分はしれ~と精神論に縋る似非反精神論者たちがいる。

今回も、本気で精神論を根絶して、スポーツに科学とデータを広めたい人たちに、ぜひとも糾弾してもらいたい話題を提供する。

・不動の打順が強者の証?

かつてプロ野球では、「強いチームは打順を固定して戦う」という考えがあった。

ペナントレースを勝ち抜くチームは、どんな試合であっても不動のレギュラーメンバーがスターティングメンバーに顔を連ねる。

俊足の1番打者が出塁して、小技が得意な2番打者が送りバントでランナーを進め、巧打者の3番打者がランナーを返し、チーム1のスラッガーである4番打者が長打をお見舞い、思い通りの展開にならない時は勝負強い5番打者がというように各々が打順と紐付けられた役割を全うする。

このような固定打順を作ることが野手面においては唯一絶対の正義であり、弱いチームはレギュラー不在により、猫の目の日替わりでその場しのぎの打順を編成して、役割分担が明確でないから、出場している選手も本領発揮できないのだ。

長らくこのように語られていたが、本当に「打順固定=強い・安定しているという説は証明されているのだろうか

その説を証明するためには、たとえば、以下のような統計が必要であろう。

  • 「スタメン8人(DHありの場合は9人)中、X人が前試合と同じ、さらにY試合連続同じ」という条件では、XYの数値が共に大きいほど勝率が上がる。

  • 優勝したチームはその年にスタメン出場した選手の数が他球団よりも少ない。

だが、少なくとも私は、そんな調査結果は見たことがない。

また、「過去に優勝するチームがそうだったから」という主張で正当化する考えもあるが、それは「固定したから勝た」のか、「勝っていから動かさなかった」のかは不明である場合が多い

主力選手が怪我をせず、全員が好調なら監督はわざわざ打順を動かさないだろう。

逆に、打線が機能せず、故障者が続出している状況であれば、打順を変更するのは自然な判断である。

つまり、「固定しているチームが強い」という事実だけでは、「固定が勝利の原因」であることは証明できない。

これは典型的な「相関関係」と「因果関係」の混同である。

このような「打順固定正義論」とも言うべき思想への懐疑からか、昨今はあえて不動のレギュラーメンバーで戦うのではなく、その日に応じてベストなメンバーで打順を組むチームも増えてきた。

・打順の固定にはリスクやデメリットもある

念のために言っておくと、私は別に「打順固定、日替わりのどちらが正しい」と主張するつもりはない。

「全試合打順を固定して、『レギュラーは怪我しても根性で出続けて戦う』なんて古臭い昭和野球の発想であり、データに基づいた日替わり打順を組むことが令和の時代に相応しい野球だ!!」と言うつもりもない。

ただし、チームの戦力や状況に関係なく、「打順を固定したら勝てる」、「打順を毎試合変えるから選手が育たない」と一方的に主張する「打順固定正義論」には違和感を覚える。

その理由の一つは前段でも述べた「打順を固定した方が勝てる」という裏付けがないからでもある。

そして、一番の理由は彼らが打順を固定ることのリスクを全く指摘せず、「打順固定するから安心して戦える」という感情面や経験論でしか論じないからである。

パッと思い付くだけで、「打順固定正義論」には以下のデメリットや不都合な事実が存在する。

・①:出場メンバーが限られると世代交代が難しい

「日替わりオーダーは長期的なビジョンを持たずに目先の勝利しか考えない!」と断言する者もいるが、それは逆ではないかと思う。

打順を固定すると、控え選手の出場機会が減る。

それでは経験を積む若手が少なくなり、世代交代が難しくなる可能性がある。

多くの主力選手に脂が乗っている時期は、その選手たちでメンバーを固めたら勝てるだろうが、主力選手の移籍や高齢化が重なると、代わりになる選手はなかなか出て来ない。

実際、多くの主力選手が煌びやかな活躍を見せて優勝やAクラスの常連だったチームが、その後に低迷期や暗黒期を迎えて「少し前まであんなに良いチームだったのに」と嘆くことは珍しくない

  • オリックス ブレーブス/ブルーウェーブ/バファローズ:1990年代(黄金期)→2000年代~2010年代(低迷期)

  • 横浜ベイスターズ1990年代後半(黄金期)→2000年代~2010年代前半(低迷期)
  • 中日ドラゴンズ:2000年代中盤~2010年代初頭(黄金期)→2010年代中盤~現在(低迷期)

  • 広島東洋カープ:2010年代中盤~後半(黄金期)→現在(低迷期)

  • 埼玉西武ライオンズ:2000年代~2010年代前半(黄金期)→2010年代中盤(低迷期)、2010年代後半(黄金期)→2020年代前半(低迷期)

  • 北海道日本ハムファイターズ:2000年代中盤~2010年代中盤(黄金期)→2010年代後半~2020年代前半(低迷期)

福岡ソフトバンクホークスですら、「低迷」と呼ぶほどではないが、2000年代前半のダイエー末期の黄金期の後には7年間優勝から遠ざかり、最下位となった年もある

もちろん、これらは打順固定だけが原因ではない。

しかし、「勝つために主力へ依存し続けること」が将来の世代交代を難しくする可能性については、無視できないと言えるだろう。

・②:固定しない方が多くの選手に出場機会が与えれ

「打順を固定しないから若手が育たない」という意見もよく耳にする。

だが、逆の考え方も成り立つ。

若手は試合に出なければ経験を積めない。

仮にレギュラーが全員固定されれば、控え選手は代打や守備固めしか経験できず、成長の機会は限られてしまう。

一方で、日替わりでスタメンを入れ替えれば、多くの選手が一軍の試合を経験できる。

「固定しないから育たない」と断言できるほど単純な話ではない。

にも通ずるのだが、それまでは「レギュラー完全固定を目指す!」と言って、控え選手に全くチャンスを与えないに、チームが低迷し始めたら「若手が居ない!」、「誰か良い選手が出て来てよ!」と嘆く者もいるが、それは完全な自業自得である。

加えて、球団や首脳陣は選手の適正に合わせたり、長期的なスパンで

「この選手は能力は高いけど、引っ込み思案だから、先ずは得意な場面に限定して起用することで自信を持たせよう」

「いきなり全試合出場させるのは厳しいから、今年は150打席くらい立たせて、今の自分の技術がどれくらい通用するか、試合に出続けるにはどれくらいの体力が必要なのかなどを経験させて、翌年はフルシーズン一軍帯同で300打席、3年目のレギュラー定着を目指して育成しよう」

という方針を持って育成しているのかもしれない。

にもかかわらず、特定の選手を毎試合出し続ける起用法だけを「我慢して若手を育てる」ことの特権化するのは意味不明である。

期待の選手をスタメンから外すと「あの監督は目先のことしか考えていない!!」と批判する者もいるが、「本当に目先のことしか頭にないのはどっちだ?」という話である。

・③:誰かを固定しろ」は「誰かを外せ」という意味でもある

「○○を固定しろ」という主張には、もう一つ見落とされがちな側面がある。

スタメンは9人しかいない。

誰かを固定するということは、その分だけ誰かの出場機会を減らすということである。

つまり、一見すると選手に寄り添った意見のように思える「○○を固定しろ!!」という主張は「△△はスタメンで使うな!!」という主張とセットでなければならない

ところが、多くの議論では前者だけが語られ、後者にはあまり触れられない。

固定を主張するのであれば、その影響まで含めて責任を持って議論すべきだろう。

名指しで「使うな!!」と言われた選手は良い気はしないだろうが、現場は常に責任を持ってその判断を下しているのだから、「○○を固定しろ!!」という主張もそれなりに責任を持って行うべきである。

・④:固定しないチームの強さは別の要因で説明する

2015年から2021年まで福岡ソフトバンクホークスを率いた工藤公康監督は7年間でリーグ優勝3回、4年連続を含む日本一5回という圧倒的な強さを誇った。

このような他球団を圧倒する強さは、打順が固定されて不動のレギュラーメンバーが毎試合出場し続けることで成し得るもののように語られてきた。

実際に、前任者の秋山幸二監督はそうした方針で、6年間でリーグ優勝3回、日本一2回という実績を挙げた。

ところが、工藤監督は前任者の方針をそのまま継承するのではなく、36番の中軸はなるべく固定して、他の打順は相手投手や選手の状態に応じて柔軟に変更していた。

その結果、多くの選手が出場機会を得て、得意分野で力を発揮したり、モチベーションを保つことが出来たように思う。

日頃からそのような備えをしていたからこそ、主力に怪我人が出た場合も、他のメンバーで十分戦えていたのではないだろうか。

にもかかわらず、このような日替わり打線の戦術や監督のマネジメント能力は完全に無視して、「ホークスは層が厚い」という一言が片付けられることがあまりにも多い。

ホークスが資金力が豊富でファームの育成施設も充実していることは間違いないが、この主張はあまりにもアンフェアではないか?

私が知る限りだが、全く出番がなかった選手が突然現れて救世主的な活躍を見せたというケースは2017年の城所龍磨(同年のシーズン出場は2試合3打席だけながら、クライマックスシリーズでは2連敗後の第3戦・4戦とスタメン出場して、先制本塁打や外野守備で好守連発など攻守に大活躍でチームの日本シリーズ進出に大きく貢献)くらいしか思い当たらない。

他の選手は突然ブレイクしたのではなく、普段から少しずつ出場機会を重ねており、こうした工藤監督の采配面はもっと評価されるべきだろう。

・現場よりも自分の方が野球を知っているという謎の自信

このように、打順やレギュラー選手を完全に固定することには、データの裏付けが存在しないだけでなく、日替わり打線のメリット、打順固定のデメリットも存在する。

ところが、こうした事実を無視して

「打順を変えるから勝てない」

「固定しないから若手が育たない」

など断言する人は少なくない。

もちろん、日替わり打線とのメリット・デメリットを比較したり、チームのバランスや状況などを総合的に判断して、「今はこのメンバーで固定して戦う方が良い」と主張するのは構わない。

しかし、ほとんどの場合は、

「打順は固定した方が安心して戦えるから」

「野球はそういうものだから」

「だから、日替わり打線なんてやっている監督は無能だ!!」

という底の浅い意見にしか見えない。

その上、「打順をコロコロ変えるから、チームが勝てない!!」、「選手も迷いが出て育たない!!」という都合の良い理屈を展開して、本気で「自分の方が現場の監督やコーチよりも野球を知っていて、チームや選手の将来のことを考えている!!」とまで思っていることさえある。

一体、どこからそんな自信が湧いてくるのだろうか?

その浅ましい姿は、普段ネット上でバカにされている精神論を前面に押し出す指導者」や選手を自分の型にはめることしか考えていない指導者」、科学的なデータを用いず、経験だけで語る評論家」そのものにしか見えない。

北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督が自・他球団問わず、「気合を入れろ!」、「闘志を燃やせ!」などの応援団のコールに苦言を呈することが度々あるが、就任以来日替わり打線を採用し続ける彼にとっては、「打順をいじるな!!」という無責任な精神論を展開する人の方がよっぽど、「お前は何も分かっていない!」と文句を言うべき相手ではないのだろうか。

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