
今月の初旬、人材派遣大手各社に対して、公正取引委員会が価格カルテルの疑いで立ち入り検査を行ったというニュースを見た。
記事によれば、派遣会社同士が派遣先企業に請求する派遣料金について事前に情報交換や調整を行い、競争を制限していた疑いがあるという。
また、その値上げ分が派遣社員の賃金に十分反映されていなかった可能性も指摘されている。
この件について各メディアが報じられた時点では、あくまでも「公正取引委員会の立ち入り検査が行われた」という段階であり、この記事を投稿した時点でも、違法行為の有無については確定する報道は出ていない。
そのため、今回のテーマは派遣会社の責任を糾弾することではなく、報道を見たことで生じた自身の考えの変化となることに留意されたい。
・立場によって異なる怒り

このニュースを見た時に真っ先に感じたのは、派遣会社による二重の裏切りである。
一つは価格カルテル。
本来であれば、
「ウチはもっと安く出来ます!!」
「ウチは同じ価格でより良い人材を出せます!!」
という競争があるはずなのに、大手各社が談合で足並みを揃えていたのであれば、不当に高い料金を払わされたことになる。
もう一つは、その値上げ分が労働者へ還元されていなかった可能性である。
「労働者の賃上げ」を派遣料引き上げの口実としながら、賃金は据え置き、あるいは微増に留め、自分たちの利益として着服する。
このように、派遣先、派遣労働者を取りまとめるはずの派遣会社が、両者に対して背信行為を行っていたことになる。
公正取引員会は独占禁止法の運用のための機関である。
また、派遣先企業はカルテルによって高い料金を払わされたのだから、前者について憤りを感じていることだろう。
彼らにとっては、価格カルテルこそが最も重要な点であり、派遣社員に十分な賃上げが行われなかったことを知っても「派遣社員の賃金が低いのは気の毒だが、それは派遣会社と派遣社員の問題だ」くらいにしか思わないかもしれない。
一方で、派遣社員が気になるのは、自分の時給が上がったかどうかである。
仮に派遣料金が大幅に値上げされたとしても、自分の時給がほとんど変わらなければ、「その金はどこへ消えたのか?」という話になる。
私自身もそうだった。
「価格カルテル」と聞いても、正直言うと「ああ、そうなんだ」程度にしか感じなかった。
もし、その結果として派遣社員の待遇が改善されていたのであれば、「それの何が悪いのだろう?」とすら思ったかもしれない。
もちろん、法律上は独占禁止法違反の可能性があるため問題なのだが、感情としてはそうだった。
同じニュースを見ても、立場によって受け止め方がまったく異なることがよく分かる。
・見落として致命的な欠点

実は私は以前から、派遣会社同士が協力すること自体には否定的ではなかった。
むしろ逆だった。
この記事に書いた通り、転職活動をしていた同僚が、大手企業の下請け会社の面接を受けたものの、あまりにも労働環境が劣悪だったため辞退したことがある。
なお、彼が面接を受けた会社に仕事を発注している大手企業とは、福利厚生が手厚く、従業員にとって「働きやすい」と言われている「一流」企業だった。
その話を聞いた私は「海外の産業別労働組合のように、業界全体で待遇の悪い企業への人材供給を拒否できれば良いのではないか」と思った。
たとえば、
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長時間労働が常態化している会社
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派遣社員だけ食堂の利用を禁止している会社
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派遣社員だけ在宅勤務を認めない会社
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露骨な差別待遇を行う会社
こうした企業に対しては、どこかの一社が抜け駆けをせずに、派遣会社が結束して「改善しない限り人材を派遣しません」と対応すれば、待遇改善につながるのではないかと考えていた。
つまり私は、「派遣会社同士が手を組むこと」そのものには否定的ではなかったのである。
しかし、今回のニュースを見て、その考えには致命的な欠点があったことに気付いた。
それは「派遣会社は営利企業であり、労働組合のような労働者のために存在する組織ではない」という当たり前の事実である。
私はどこかで、「派遣会社が結束すれば、労働者の待遇改善のために動くはず」と期待していた。
だが、派遣会社は営利企業であり、自社の利益を追求する存在に過ぎない。
派遣会社の利益は「派遣先から受け取る料金」と「派遣社員へ支払う賃金」の差額から生まれる。
つまり構造的には、
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派遣先から高く取るほど利益が増える
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派遣社員へ安く払うほど利益が増える
ということになる。
そのため、仮に派遣会社同士が結束したとしても、その力が向かう先は労働者の利益ではなく、自社利益になる可能性がある。
今回のカルテル疑惑は、まさにそれを示しているように思えた。
転職会社もそうだが、普段は求人広告で
「キャリアを支援します!!」
「あなたに寄り添います!!」
「働く人を応援します!!」
といった言葉を並べ「労働者の味方」みたいな顔をしている派遣会社は、決して労働者の代理人ではなく、顧客である派遣先企業の顔を窺い、自社の利益も追求しているのである。
この点は労働組合とは根本的に異なる。
・派遣という働き方を無くすために必要なこと

私はこれまで、自身が派遣社員として働いていた経験から
「派遣なんて働き方が広がったせいで日本が貧しくなった!!」
「派遣会社は派遣先からも派遣社員からも利益を吸い上げる奴隷ビジネスだ!!」
という主張に対して、かなり懐疑的だった。
感情論が多く、現実を見ていないように感じていたからだ。
実際、派遣社員という働き方にもメリットはある。
契約社員どころか、職場によっては正社員よりも賃金が高いことは珍しくないし、待遇に納得できなければ、契約更新を機に「契約終了」という形で後腐れなく退職できる。
そうした面も確かに存在する。
しかし、今回の件を通して、「派遣会社は労働者の味方ではない」という極めて基本的な事実を改めて認識した。
そして、「派遣会社は中間で利益を吸い上げている」という批判にも、以前より説得力を感じるようになった。
残念だが、彼らの言うことの方が正しくて、「派遣という働き方はこの社会にとって良くないことなのでは?」ないかという気もする。
ということで、これからは私も「この社会は派遣労働を厳しく規制して、専門職や期間限定のように明らかな合理的理由がある場合を除いて禁止する道」を考えないといけないと思うようになった。
そして、企業も社会も派遣という働き方を必要としない社会を実現するための方法を真剣考えた。
それは正社員の解雇を合法化することである。
先ほど「合理的な理由」として挙げた例外的なケースを除くと、派遣社員が必要とされる一番の理由は、正社員解雇のハードルが異常なまでに高くて、一度雇ったら、どんなに仕事が出来なくても、どんなに経営が苦しくても、なかなか解雇出来ないことにある。
だからこそ、多くの企業は直接雇用よりも賃金が高く、派遣会社への割り増し料金を支払ってでも派遣社員を雇うのだ。
だとしたら、派遣という働き方を無くすには、正社員の解雇を認めること以外に考えられない。
こんなことは誰にでも分かる簡単な理屈である。
派遣労働不要論を主張する人は、常々「正社員は派遣社員と違って責任感があって能力も高い」と断言している。
正社員の解雇が合法化されたとしても、少なくとも現時点で正社員として働いている人は、仕事をサボって企業の逆鱗に触れて解雇されることもないし、企業がそんな有能な正社員を自らの意思で解雇するなんてこともないので、心配する必要は全くない。
むしろ、派遣という働き方が消滅すると、これまで派遣社員だった無能で責任感がない人を企業が直接雇ってしまった時に解雇出来なければ、自分たちにも損害が出てしまう。
「派遣なんて無くせ!」と威勢よく言っている人は、派遣労働を消し去るために不可欠な解雇規制緩和には、きっと喜んで賛成してくれるでしょう(笑)
「派遣は無くすべきだけど、正社員の解雇規制緩和にも反対!」などという無責任な主張は「自分はこれから先も、派遣という制度に寄生して生きます!!」と宣言しているに等しい。
ちなみに、今回の派遣会社カルテル問題を取り上げた産経ニュースの記事では、派遣会社のカルテルを(まだ調査の段階にもかかわらず)厳しく批判して、教育、リスキリング(学び直し)、専門人材育成などへの投資を訴え、「健全な競争こそが、長期的には業界の体力増と進化をもたらす」と断言している。
<主張>人材派遣カルテル 無競争では質は高まらぬ 社説 – 産経ニュース
その主張はもっともだが、向けるべきは派遣会社だけではない。
解雇規制などという甘ったれた規制は学びや前進を怠る人間をより一層堕落させるだけであり、彼らは健全な競争によって労働市場から淘汰されるべきである。










