・外国人も呆れる日本の狭い住宅
「日本の家は海外に比べて狭すぎる!!」
このような発言は日常の中で度々耳にする。
その認識を持っているのは、我々日本人だけはない。
かつてのフランスの首相のように「日本人は兎小屋のようなアパートに住み、2時間もかけて通勤し高い物価に耐える蟻のような生活をしている」と罵倒する人はそういないにせよ、私と5年近く交流があり、日本の複数の都市に留学した経験があるフランス人の友人も、「日本の家はフランスの実家に比べると狭い」と嘆いていた。
実を言うと、かつての私もその意見に同調し、「アメリカやヨーロッパは日本よりも住宅面で恵まれているのだろう」と思い込んでいた。
だが、その説は半分本当だが、半分は事実ではないらしい。
今から2年ほど前に、「日本社会のしくみ」という本を紹介した。
我々が「日本人的」と思っている生活や習慣の多くは、伝統でもなければ、日本人の体質から生まれるものでもなく、そもそも、そのような生き方をしている人が多数派というわけでもない。
その代表例が、男性であれば、学校を卒業し、新卒で入社した会社を定年まで勤め上げ、その間に企業福祉の庇護を受け、家族を養うに十分な(労働の対価以上の)給料を与えられ、結婚をして、ローンを組んで家を買い、子どもの教育費を払い、定年後は年金で悠々自適に暮らし、女性であれば、そのような相手と結婚して主婦になるという人生である。
よく「日本人的(昭和的)」と呼ばれているこの生き方だが、1950年生まれの人でも、そのような人生を歩んでいたのは3割程度だったという。
・都会の華やかな暮らしを諦めれば…
そちらについての詳しい話は、こちらの記事を読んでもらいたいが、その本の第一章に「日本的」とイメージされているが、実は一部でしかないものの一例として住宅事情が取り上げられていた。
たしかに、「日本で暮らしていると家が狭い」というのは間違いではない。
しかし、その「日本」というのは「東京や大阪のような大都市、それも借り家」を念頭に置いた場合の話である。
資料の出所に若干の違いはあるが、下記の記事でほとんど同じデータとグラフを見ることができる。
本当は広い日本の住宅 – NTTコム リサーチ 調査結果 (nttcoms.com)
それによると、戸当たりの床面積では、日本の借り家だと48㎡とアメリカの148㎡の3分の1以下で、フランスの99㎡、ドイツの95㎡の半分程度になる。
記事では都道府県別の持ち家率や住宅当たりの延べ面積のデータも見ることができ、東京、大阪、神奈川は持ち家率が低く、1住居当たりの面積も狭いことが分かる。
「日本の家は狭い!」というイメージはそこから来ているのだろう。
実際に前段で紹介したフランスの友人は日本の大都市で留学生活を送っていた。
だが、持ち家も含めた(日本)全国平均では96㎡となり、アメリカには劣るもののフランスやドイツとほぼ同水準で、イギリスの87㎡を上回っている。
ちなみに、「富山県の持ち家」に限定した場合は、アメリカよりも広い。
たしかに大都市圏に住むと、苦しい住宅事情に悩まされることになるが、日本全体で見た場合は、言われているほど、家が狭いわけではなく、大都市に住む華やかな生活を諦めれば、広い住宅でノビノビと暮らすことができるのだ。
こうして見ると、東京の狭いボロアパートに住んでいる身としては、こんな暮らしをしていることをバカらしく感じてしまい、「自分も地元に帰ったら…」という思いが頭をよぎるが、私の地元には、今の私を迎えてくれる温かさなど、すでに存在しないことは、過去の記事でも触れた通りである。