上京して最初に働いた職場に戻りたいと思った時

2ヶ月前から度々書いているが、今の私は通勤に悩んでいる。

電車はよく遅れるし、乗り換えはしんどいしと小言は尽きないが、一番の苦痛は電車の混雑である。

最近は車内放送で、

「ドアの前は広く開けてください」

「混雑時はリュックを前に背負ってください」

という案内の後にこんな言葉が付け加えられることが多い。

「最近は社内トラブルが増えております」

やっぱり、混雑が増えたことで多くの人がイラ立っているのだろう。

そんな話を聞くと、最近は電車に乗ることが「怖い」とさえ感じている。

・通勤中に眺める古巣

そんな中でも毎朝の通勤で決まって行うささやかな日課がある。

それは途中の線路沿いにある上京して始めた働いた職場(百貨店)を眺めることである。

職場事体は建物の地下にあるため、直接見ることはできないが、働いていた時に入口として向かっていた場所は電車からよく見える。

今は通勤中も、職場でもストレスMAXの生活を送っているため、昔の職場のことを思い出してちょっとした息抜きを味わいたい。

その職場のことは過去の記事で詳しく紹介したことがある。

今振り返ると、あの頃はよかったなあ…

気さくで頼れる仲間がいて、

上京したばかりで東京のことを何も知らない私にいろいろな知恵を教えてくれて、

自分の能力を認めてくれて、契約更新の時は「これからもずっといて欲しい」と言ってもらえて、

時給1300円と決して高額とは言えないが、一人で生活できるだけの給料が稼げて、

8:0017:00の勤務だから、通勤ラッシュを避けることができて、

こんなにいい所を書き出したら読者の方はこんなことを言いたくなるかもしれない。

「そんなにいい職場なら辞めなきゃよかったじゃん!!」

実は私もそう思ったことがあった。

私がその職場を退職するきっかけとなったのは、もともと繋ぎの仕事として考えていたからである。

上京直後は英語を活かせる仕事に就きたかったものの、なかなか上手く行かず、滞在費が底をつきそうになったため、一先ずは繋ぎの仕事として、そこで働くことになった。

当初は繋ぎの意識だったが、居心地がよく、私はいつしか就活のことなど忘れて、そこで平穏な日々を送っていた。

だが、地方にある店舗が数店舗同時に閉鎖されることが発表され、その職場もそれまでのぬるま湯体質から一転して、些細なことを口煩く指示が要求されるようになった。

その時、「やっぱりここは自分の居場所ではなく一時しのぎの場所に過ぎない」と実感して、就職活動を再開した。

それでもなかなか上手く行かなかったが、「このままじゃいけない」と思って、「次の仕事が決まった」とウソをついて退職することにした。

しかし、退職一週間前になると急に寂しい気持ちに襲われて、別れが惜しくなった。

加えて、このブログを始めたことも、退職を後悔する要因になった。

それまでの私はどうしても、「自分が輝ける仕事をしたい!」と思っていたが、ブログを始めたことで、「別に仕事で自己実現を果たさなくても、このブログでの表現を生きがいにすればいいじゃないのか?」と考え直すようになった。

だったら、別に仕事辞めなくていいじゃん!!

・辞めた職場を3度も訪れる

そのように若干の後悔を感じていたため、退職後に何度か職場を訪れたことがある。

最初は退職して2週間が経った頃である。

その時は貸与されていたエプロンを返却するために出向いたのだが、まだ退職して日が浅かったため、私も向こうも「感動の再会」という感じではなかった。

ちなみに、私はすでに新天地で働いている体を装っていたが、本当は無職だった。

次に訪れたのは3ヶ月後。

退職前に聞いていた話では、ちょうどその頃に店内のレイアウトが大幅に変更されるようだったため、様子を見に行くことにした。

店長はまさか私がプライベートで訪れるとは予想していなかったようで、「辞める前に『改装が終わったら見に来てね』と言ったけど、本当に来てくれたんだ!!」と驚いていた。

この時は来るゴールデンウィークに上京後初の帰省を行うということで、「退職時にはできなかった菓子折りを持ってきたいから、人数を聞きたかった」という口実で来店した。

店長以外の面々も再会を喜んでくれて、私も次の仕事を見つけていたため、充実した再会だった。

次の来店はその2ヶ月半後。

目的は前回の訪問で約束した菓子折りを渡すことだが、実はそれだけではなかった。

当時の私は仕事にこそ就いていたものの、退職する予定だったため、次の仕事を探す必要があった。

その時の仕事が事務職に就いていたが、「もう事務のウンザリ」と思い、この職場に戻りたかった。

2度目の訪問時に副店長が、どこまで本気なのかは知らないが、「今は仕事が大変だから、早川君に戻って来てもらいたいよ…」と言っていたので、私は「上手くアピールすればワンチャン…」という魂胆があった。

つまり、就職活動である。

その日は副店長が休みだったため、店長にさりげなく仕事の話を切り出した。

彼もそれに乗って、私の動向を聞いてきた。

そこで私は冗談っぽく「今の仕事は今月で契約が終了するので、前回働いた時の時給に+200円上乗せしてもらえたら戻ります」と答えた。

彼は少し驚きながらも、「前いくら時給払っていたか知らないけど、いくら欲しいの?」と聞いて、ボールペンと紙を渡した。

私は前回の時給である1300円に宣言通り200円上乗せした「1500」と記入した。

それを見た彼は笑いながら「ウチのパートやアルバイトは皆、時給1000円だから、それは高すぎだよ~」と答えた。

私も真剣な顔をせずに「やっぱりそうですか~」と返したが、彼の答えを聞いた瞬間、ここでの再就職の道が絶たれたことを実感した。

おそらく彼も私が本気で「ここに戻りたい…」と思っているとは知らず、帰り際に「また暇な時は冷やかしに来てね」と言って、私も「はい!」と答えた。

だが、結局、それ以来、私がその店を訪れることはなかった。

・つらい時に思い出す故郷のようなもの

最後の訪問がおよそ3年前になる。

2年前に一度、建物の中に入ったことはあったが、売り場へ向かうことはなかった。

その時はすでにコロナが蔓延しており、不要不急の外出ができる雰囲気ではなく、商品も買わずに「来ましたよ~」と言いながら顔を出すことは控えたかったし、すでに最後の訪問から1年以上経過しており、かつての同僚も異動や退職で去っている気がして、遠くから眺めるだけに留めた。

何人か知り合いらしき人は見えたが、その時は全員がマスクを着用していたため、共に働いていた時の面影は薄れ、あの時とはすっかり変わってしまったことを実感した。

それ以来、完全に職場への未練は断ち切り、最寄り駅に立ち寄ることもなかった。

今年の1月から3月まで働いていた短期の派遣の仕事では、久しぶりに通勤経路が重なったが、その時は仕事が充実していたため、特に感傷的になることはなかった。

しかし、今は仕事が辛く、「いつまでこの仕事を続けなければならないのだろう…」と思うことが多い。

そんな心情では、上京後最初に働いた職場の存在が、まるで「帰るべき故郷」のような温かさを感じてしまう。

もっとも、私の地元がもはや思い出の中にしか存在していないように、「上京したての時の温かい職場」も完全に記憶の中だけの存在になっているのだろうが…

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