情報化によって労働の価値が下がることの意味を実感したできごと

2ヶ月ほど前に書いた記事で「ニューエコノミー」という言葉を使った。

この経済状況では、主にテクノロジーの発展によって、社会が「グローバル化」、「情報化」し、それまで安定した収入を稼いでいた人の労働力の価値が低下する。

その結果、それまでのように誰もが以前のような安定していた生活を送ることができなくなる。

・情報化の弊害?

機械化やグローバル化によって労働力の価値が下がることは想像に難しくない。

新型の機械を導入すると、それまで人の手で時間をかけて行っていた作業を削減できて、単純なミスも防ぐことができるようになる。

そうなると、それまでその仕事を担っていた人の需要がなくなり、彼らの労働価値は下落する。

製造業が生産拠点を人件費の低い海外に移せば、それまで国内で働いていた人は、人件費の安い国の労働者と競合することになり、以前と同じような安定した生活を送ることは難しくなる。

しかし、情報化によって労働の価値が下がるとはどういうことだろうか?

以前にも紹介したことがあるこの本には「グローバル資本主義」「消費資本主義」「フリーター資本主義」と並ぶ現代の高度資本主義の一つとして「情報資本主義」という言葉が出てくる。

その一節を引用すると

情報通信技術は、新しい専門的・技術的職業を生み出す一方で、多くの場面で労働を単純化し、正規雇用の多くを非正規雇用に置き換えることを可能にして、雇用を不安定にしている。

この影響を最も強く被ったのは事務職の労働者で、今までは経験や専門知識が必要だった仕事も自動化された容易な単純業務に成り下がり、賃金も下がる結果となる。

機械の操作方法も、インターネットなどを通して、誰もが簡単に、企業や個人が時間をかけて蓄積した経験や情報を手にすることが可能になり、その知識を所有することの価値が低下することになる。

・「分からないことはネットで調べろ!!」の意味

機械化によってそれまでの作業が不要になるのならまだしも、情報化によって人間の知識を代替できることなど有り得るのか?

そう思う人もいるかもしれない。

しかし、私は実際にその様子を目の当たりにしたことがある。

これは私が派遣社員として事務の仕事をしていた時の話である。

ある日、新卒で支払い処理の仕事に就いていた正社員が作業中に誤ってExcelの計算式を消してしまい、この項目はどのような数式を組めばいいのかを上司に尋ねたことがあった。

すると、その上司は

「それくらいネットを見れば分かるだろ!?」

「人に聞く前になぜ自分で調べようとしない!!」

と彼のことを罵倒した。

その様子を見た私は唖然とした。

自分の会社が蓄積したノウハウを伝えるよりも、出典が曖昧なインターネットで調べた情報を優先して使えとは…

あんたには仕事のプライドがないのか?

まさか、この私が他人の「仕事のプライド」の欠如を指摘したくなるなど思いもよらなかったが、当時はそのようなことを思った。

だが、今にして思えば、これが「情報化によって個人の所有する知識の価値や労働の価値が下がる」という意味だったのだろう。

支払い手続きのようなお金を扱う仕事は、元々は簡単な仕事ではなかったのかもしれない。

それがExcelを導入することで、誰もが機械に数字を入力するだけで、簡単に行うことができるようになった。

このようにして、機械化による労働価値の低下が起こる。

・知識を絶賛されても…

それでは、「Excelの勉強をして、操作方法や計算式の知識を身に着けたら、労働力を保てるのか」と言われればそうではない。

Excelのような共通化されたシステムの操作方法は、インターネットで知識を手に入れることができるようになり、誰もが簡単に扱えるようになる。

その結果、会社組織にノウハウを蓄積する必要はなくなり、個人のスキルも価値が暴落することになる。

これが情報化による労働価値が低下するということの意味なのだろう。

ちなみに私は、その後、彼と同じようにExcelを使用した支払処理業務を行うことになった。

その時にVLOOKUPやIF関数のような数式が組まれており、請求書に載っている支出項目と金額、使用した部署を入力すると、どこの部署がいくら使用したのかが自動で計算できる仕組みに感動して、「この数式を組んだ人は天才ではないのか!?」と思ったことがあった。

しかし、後に、暇つぶしのため、会社のパソコンでインターネットにアクセスして、設定されている計算式の理屈を調べていると、意外と単純であり、他の支払い用のシートにも同じような計算式を組んで効率化を図ったことがある。

そのことを上司に報告すると「早川くんって凄い!!」と絶賛されて、他の同僚からも「私も同じようにしたいから、計算式のことを教えてくれない?」と頼りにされた。

もちろん、私は自分の知識が努力して身に着けたものではなく、インターネットで簡単に手に入れたものだから、その知識に大きな価値があるわけではないことも、私自身が熟練した有能な労働者ではないこともよく知っている。

このような情報化社会が、良いことなのか悪いことなのかは一概には言えない。

ただし、これだけは言える。

誰もが安定した仕事を手にして結婚することができる時代はますます遠くなった。

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