年明けに書いた記事で報告した通り、今の私は短期の仕事で働いており、そろそろ次の職場を探す時期である。
そのことは派遣会社も承知していて、すでに仕事紹介のメールが続々と送られてきている。
そんな中、仕事の休憩中に電話で仕事の紹介をされた。
特に不満のある内容ではなかったため、すぐに応募したのだが、一点だけ気になることがあった。
・最寄り駅はどっち?
私が気になるのは最寄り駅と定期代のことである。
自宅の最寄り駅であるA駅(仮名)から、勤務地まで直結する場所(徒歩0分)にあるB駅(仮名)までは、途中駅での乗り換えが必要で、そこで運営する鉄道会社も変わる。
そのため、乗換駅を境に運賃がリセットされ、料金は割高になってしまう。
試しに検索してみたら、1ヶ月の定期代はおよそ12000円だった。
とはいっても、今の派遣会社は交通費を支給してくれるため、その金額は私が負担する必要はなく、2社の鉄道会社を利用すること事体は大きな障害ではない。
私が気がかりに感じたのは、自宅に帰り、改めて求人内容に目を通した時である。
その会社の最寄り駅は確かにB駅で間違いないのだが、その他にも、C駅から徒歩8分で通うこともできる。
ちなみに、C駅は自宅の最寄り駅であるA駅と同じ鉄道会社であるだけでなく、路線も同じなのである。
つまり、乗り換えの必要もなく、たとえ歩く距離が長くても、職場までの所要時間は大差ないと思われる。
私がその職場で働くことになったら、迷うことなくC駅を利用するだろう。
そこで、疑問なのは、会社から支給される通勤手当のことである。
C駅を利用すれば、鉄道会社は1社で済むため、定期代も7000円と格安である。
最寄り駅であるB駅を利用した場合に比べると、なんと月々5000円もお得です!
(↑何だか、テレビのCMみたいになっている)
もしも、会社から渡された申請用紙に通勤ルートを記入しなければならない場合は、正直に「利用区間:A駅~C駅」と記入する。
「利用区間:A駅~B駅」と虚偽の申告をして、月12000円の手当てを受け取り、残りの5000円を懐に収めようとすれば、それはれっきした不正受給である。
しかし、仕事を紹介した派遣会社は「どのルートで交通費を支給するのか?」について、労働者の申請を一切受け付けておらず、会社側で一方的に規定することになっている。
つまり、私がC駅から職場に通っても、会社から「A駅~B駅」を通勤ルートと認定されれば、毎月12000円の交通費を支給されることになる。
その場合は、会社に「C駅を利用しているから、1ヶ月の定期代は7000円しか必要ありません」と申告しなければならないのだろうか?
会社が、通勤ルートを一方的に指定する理由はモラルハザードを防ぐためだと思われる。
自分で交通費を払わなければならない場合は、多少しんどいことがあっても最安値のルートで通うだろうが、費用が会社負担となると、そのような心配がなくなるため見境なく楽な手段を選ぶだろう。
しかも、「少しでも楽をしたい」という甘えならともかく、先に挙げた不正受給のように、実際の利用金額よりを上回る額を申告して、差額を横領する不届き者も現れるだろう。
だが、私の場合はどうだろうか?
B駅を最寄り駅と判断するのは会社であり、彼らは交通費に関して一切の交渉を受け付けていない。
そんな場合でも、労働条件明示書に記載されている交通費が「A駅~B駅」間の料金であることを見つけたら、こちらから最寄り駅の訂正を申告しなければならないのだろうか?
もし、それを怠ったら、私は何らかの処罰を受けるのだろうか?
まだ、その職場で働くことも、会社がB駅を最寄り駅に決めたわけでもなく、あくまでも仮定に仮定を重ねた話だが、もしそうなったら、私はどうするのだろう…
多分、正直に申告すると思う。
後々、不正受給と糾弾されたり、差額の返済を求められたら面倒だから。
・甘ちゃんには想像できない用意周到なアリバイ作り
交通費の不正受給について考えていると昔の話を思い出した。
これは私が10年ほど前に職場で起きた出来事である。
その会社で働き始めたばかりだった私は、休憩時に上司から交通費の申請書を渡された。
記入すべき内容は利用している交通手段と、公共交通機関であれば1ヶ月の定期代、自家用車であれば自宅から職場までの距離である。
その用紙を上司に渡すと、彼はこんなことを言ってきた。
すると、その場にいた60代のパート女性が、こんな感想を漏らした。
え!?
昔の会社って、そんなに太っ腹だったの?
私は彼女に疑問をぶつけた。
彼女によると、昔も「交通費は実費に合わせて支給する」ことがルールだったらしい。(当たり前だけど…)
そして、定期券を購入した証拠として、会社にコピーを提出しなければならかったようである。
ここまでは、何もおかしな話はない。
定期券を購入しなければ、証拠書類を提出できないから、不正を企んでもすぐにバレる。
しかし、そこを突破できる裏技がある。
その手順とは…
①:申請に必要な定期券を利用開始数日前に購入する。
②:購入後、定期券のコピーを取る。
③:利用開始日前に払い戻す。
④:取っておいたコピーを会社に提出する。
こうすることによって、払い戻し手数料のみで、会社から架空の交通費をGetだぜ!
(↑※面白おかしく書いているけど、絶対に真似しないでください)
いや、何とんでもないことを言っているんですか!?
そう突っ込みたくなったが、彼女は開き直るようにこう続けた。
彼女の発言には度肝を抜かれたが、さらに驚いたのは、その場に居合わせた人たちも彼女に同調したことである。
50代女性:「うん。私も昔やってた」
50代男性:「俺も。君はまだ親元に住んでいるから分からないかもしれないけど、それくらいの財テクをやらないと生きていけないよ」
不正受給を「財テク」と呼んでいることから、彼らは自分たちがやっていることを「悪い」と思っていないようである。
そんな彼らも、現在ではそのような不正は行っていない。
だが、最初に裏技を教えてくれた女性曰く、その理由は公共交通機関が衰退して、利用できる経路が少なくなったからであり、決して良心の呵責によるものではない。
彼らを見ていると、自分がいかに世間知らずの甘ちゃんだったのかを痛感した。(決して真似しようとは思わないけど)
・出張費は自由に使えるお小遣い!?
彼らの話を聞いた時は呆気にとられたが、かつては交通費以外にもそのような不正受給が手軽な小遣い稼ぎとして横行していたことを後に知ることとなった。
数年前に、家計に関する本を読んだことがある。
内容は、この社会には
「贅沢せずに普通に暮らしているだけなのに、家計は破産寸前!」
「1000万円近い年収があるのに貯金ゼロ!」
という人が少なくないということと、そうならないための対策だった。
その中で、高収入であっても生活が苦しくなる理由に、ここ30年で、教育費の家計支出や、給料から天引きされる社会保険料が年々増加していることが挙げられていた。
そのことについては異論などないが、その他にも世の中がシブチンになったことを示すエピソードとして、このような話も紹介されていた。
・出張費は1円単位まで清算したり、会社名義のクレジットカードを使用することで、経費で自由に飲み食いしたり、残金をお小遣いにすることが難しくなった。
・出張で発生するホテルのポイントや飛行機のマイレージを個人のものとして貯めることもできなくなった。
このことによって、サラリーマンは益々手取りで減ってしまった。
…って、それは当たり前ではないのか?
むしろ、何で今までは、そのような会社のお金を着服同然に扱うことを当然だと思っていたのか?
よく、「最近の若いもんは企業に対する忠誠心がない」という話を聞く。
「今は、昔のような、年功序列も終身雇用もない社会になってしまった(※:実際は昔もそのような会社は一部だけだったのだが…)」
「その結果、企業に忠誠を誓って一生尽くすのではなく、目先の金のことばかり考えるようになったのだ!!」
というように。
だが、このような経費の横領を小遣い稼ぎや副業のごとく利用していた人たちを見ると、昔の人の方がよっぽど、会社に忠誠心がなく、平気で背信行為を行い、目先の小銭のことしか頭になかったのではないか?
私も、勤務先への忠誠心など全く持ち合わせていないつもりの人間だが、昔の人はスケールが違う。
私のような若輩者は、定期代の不正受給はもちろん、出張費を自分へのご褒美としてネコババしようなどとは考えもしなかった。
それを当然の権利だと思っている人の知恵と逞しさには、全く頭が下がる思いである。
彼らは間違いなく、詐欺師としては一流です。
(社会人としては最低だけど)