20代半ばで上京して生活を安定させるまでの話③(初めての職場編)

前回の記事はこちら

今日は前回の予告通り、私が上京して最初に働いた職場についての話をしようと思う。

・今は我慢の時

上京して4ヶ月が過ぎてようやく仕事が見つかったが、その仕事は地元で何年もやって来た仕事と同じ販売の仕事だった。

できれば、地元では体験できないような仕事に挑戦してみたかったが、このままズルズルと職探しを続けたら、東京に滞在する資金が尽きてしまう。

販売の仕事自体は経験があったが、その職場はデパートであり、地元で働いていたスーパーや個人経営の店とは比べ物にならないほど面倒な接客マナーがあった。

これはマジで面倒くさかった。

それだけで、地元で生き生きとバイトをやっていた時のことが懐かしく思えた。

これでは何のために東京へ出てきたのやら…

そんな気持ちに襲われたが、今やるべきことは資金面を立て直しつつ、一人暮らしのための住まいを探すことである。

そのためにはしばらくの間、ここで働くことが不可欠であるため、ここは我慢の時である。

・職場の人たちのこと

さて、ここからは職場の同僚についての話をしたい。

派遣先の責任者である店長は40代後半の男性で、初対面の時の印象は「いかにも肩書が付いている中年のサラリーマン」という感じだった。

たとえば、採用面接(というのは違法だから、厳密に言えば「職場見学」)の場で、初対面の私に対してタメ口全開の上から目線であり、「この仕事は何で辞めたの?」という質問に表れる通り、転職や退職を悪とみなす、典型的な日本型雇用信者のようだった。(だったら、なんであなたは派遣なんか使ているんですかねえ?)

このように、私は彼に対していい印象を持っていなかったため、しばらくの間、私は携帯に彼の電話番号を「○○(店の名前)バカ」という名で登録していた。

彼の下に副店長の正社員がいて、この人が前回の記事で少し登場した当時30歳の女性だった。

そして、正社員になる気があるのかどうかは定かではない30代の契約社員の男性の3人が職場の主力のメンバーであり、基本的にはこの人たちから指示を受けるようになった。

その他の面子は定年退職して再雇用となった契約社員が2人、フルタイムのパートが2人、別の仕事を掛け持ちで働いているパートタイムのパートタイマー(?)が3人、そして、私とは別の派遣会社からやって来た派遣社員が1人、それからどのような労働契約になっていたのかは不明だが、別会社で働く正社員が2人で週4日手伝いに来ていた。

私よりも一歳年下だったフルタイムパートの従業員だけは未経験者だったが、他の面々は皆長年の経験を持った人たちで、契約社員として再雇用になった人たちや、他所の会社からやって来た正社員の人たちは特に仕事のこだわりが強かった。

・実際に働いて感じたこと

さて、そんな人たちと共に働くことになったのだが、そこで感じたのは「良くも悪くも地元で働いていた人たちとあまり変わらないな」ということだった。

前回の記事の④と⑤の項目で取り上げたことだが、「東京の会社はコンプライアンスが徹底していて、同僚とは一線を越えずに距離を取る」というのが私の予想だった。

しかし、実際は地元で働いていた時と同じく、職場ではほとんどの人が、年下である私のことを「早川君」と呼んでいたし、20代半ばで家も仕事もなく単身上京で上京してきた私のことをいろいろと気に掛けてくれた。

経験のある仕事ということもあってか、私もすぐに職場には溶け込めた。

それから、英語を使えるということで、外国人客に尋ねられた時は重宝された。

働き始めた時は近寄りがたかった店長とも段々と打ち解けることが出来た。

彼はひょうきんな性格で他の従業員に対しても冗談を言うなど、笑いが絶えない職場だった。

ちなみに、「コンプライアンスが徹底されている会社で働く」ということは、単に「自分が保護される」というだけではなく、「自分も同様に厳しく縛られる」という意味になる。

私が働いていたのは販売の仕事であるため、商品の並べ方やラベルの貼り方などの細かいルールをいちいち強制されることがそれに当たる。

しかし、私の感想としては、地元のスーパーで働いていた時のモーレツパート班長の方がよっぽど厳しかった。

「『老舗のデパート』と呼ばれている店でも意外とこの程度なのか?」と拍子抜けする程だった。

研修ではあれだけ面倒だと思った細かい接客ルールも上手く手を抜けるようになった。

また、私が東京へ出てきたきっかけを尋ねられた時に「長年英語の勉強をしてきたから、英語を使える仕事に就きたいと思って東京へ出てきた」と答えたら、「就職活動で出勤日に面接の予定が入ったら遠慮なく言ってね」と言われた。

つなぎのつもりとはいえ、「最低でも半年は続けなくては」と思っていたが、意外にも転職に理解があって驚いた。

しかし、その目的とは対照的に、私はこの職場に妙な居心地の良さを感じていた。

・初めての電車通勤

さて、東京で働く上で避けられない問題が電車通勤である。

ちなみに、私は東京へ来る前は電車で仕事に通っていたことなどなかった。

だから、「東京と地方の電車通勤事情の違い」がどうこういう以前に「電車で仕事に通う」ということ自体が初めてだった。

しかし、前回の記事で触れた通り、私が当初住んでいたシェアハウスは東京の一等地にあり、職場へ通う際は通勤ラッシュとは逆方向であったため、全く苦にならなかった。

そして、時間(乗車時間ではなく通勤時間)はおよそ20分である。

職場への迂回ルートがないことがネックだったが、そればかりはどうしようもないため、もしも電車が止まったらその時は仕方ないと諦めることにした。(幸いにも、そのような事態には一度も陥らなかったが)

このように、職場でも通勤でも、特に大きな壁にぶつかることなく、東京の暮らしに徐々に慣れてきた。

私が次にやろうと決めたことは一人暮らしのアパートを探すことだった。

次第に資金面も回復したことだし、住まいを探すには職に就いている今がチャンスだと思った。

そう思って、シェアハウスを後にして、今も住んでいるアパートへ引っ越した。

職場からは10㎞程度の距離だったが、乗り換えもあり、ラッシュを避けように乗車しようとしたため、通勤時間は1時間まで伸びた。

距離的には10㎞もないはずだけどなあ…

仕事の始業時間が8時だったため、起床時間は5時半になった。

ちなみに、上京前の職場も8時開始で、通勤距離もだいたい同じだったが、起床時間は6時半だった。

この時に初めて東京の暮らしの厳しさを感じた。

そうは言っても、人混みを押しのけてでも満員の電車に入らなければならないような通勤地獄を感じたわけではなかったから、いずれ慣れるだろうと楽観的だった。

・徐々に東京の暮らしに慣れてきたが…

通勤のことで多少はしんどい思いをすることになったが、一人暮らしの快適さを手に入れることができた。

また、職場に大きな不満はなく、以前と変わらず平穏な日々を送っていた。

ちょうどその頃、派遣会社から契約の更新意志の確認があった時にこんなことを言われた。

「次回の契約の更新はどうされますか? 派遣先の方は、これからもずっと早川さんには居てほしいとのことですが…」

正直言って、職場が百貨店ではなくスーパーならそのまま働き続けることを選んだかもしれない。

元々は英語を使う機会のある高時給の仕事を望んでいたが、とりあえず、一人暮らしが出来て、その上、毎月数万程の貯金もできる収入があり、(少なくとも、会社に行くことが嫌で仕方ないと思わない程度に)職場環境にも恵まれているのなら、やりたいことを仕事にしなくても、そこで日々の糧を得ながら、プライベートに生きがいにする生活もありなのかもしれないと思っていた。

ちなみに、その頃は、後にバックレられるこの人物とブログを開設する計画が進行していた。

とはいっても、私は最後まで「百貨店が自分の居場所」だとは思えなかった。

一人暮らしを始めて、1ヶ月程が過ぎた時だった。

他所の店舗が2ヶ所倒産するというニュースが舞い込んできた。

すると、店長は今までいい加減にしていた接客マナーの徹底を掲げ、朝礼でそのことをしつこく繰り返した。

当たり前のことだが、「自分が今いる場所はこれまで居た世界とは違う」のだと実感した。

「やっぱり、ここはあくまでもつなぎのための職場であって、自分はここに居続けるべきじゃない」

そう思って、それまで手を抜いていた就職活動に本腰を入れるために退職した。

ちなみに、退職の時点では次の仕事の決まっていなかった。

しかし、下手に本当のことを伝えると、心配されて引き留められるに違いないと感じて、同僚や派遣会社には次の仕事が決まったとウソをついて辞めることにした。

・初めての職場を振り返って

結局、私はその百貨店では9ヶ月ほど働いていた。

そこで働くことで、経済的な基盤を築くことができただけでなく、東京の生活にも随分と慣れた。

今になって思うと、経験のある仕事を選んで良かった。

たとえ、地元で働いていた時と大きく変わらなかったとしても、スキルアップにならないとしても、精神的な安定を保つことは出来た。

もしも、上京後の最初の職場がこのような未経験のところだったら、「やっぱり、自分には東京で働くなんて無理だ…」と自信を失っていたかもしれないし、職場だけでなく、電車通勤や身支度のような日常生活に気が回らず、精神的に病んでいたかもしれなかった。

経験のある職に就くことで、仕事に慣れるのに時間がかからなかっただけでなく、すぐに周囲からも信頼されて、孤立することはなかった。

その結果、仕事以外の話もできることが増え、上京したばかりで東京のことに疎い私にいろいろな情報を教えてくれたり、食事会に誘われたりもした。

悪く言えば、「東京の職場」のイメージとは程遠い人たちだったのかもしれない。

店長は副店長の女性にセクハラ発言を繰り返していたし、少々の体調不良でも仕事を休まないことが美徳と考えられている職場だった。

それでも、地方から単身で上京してきた私を温かく見守ってくれる人情味溢れる職場だった。(でも、さすがに店長のセクハラは度が過ぎていた気がするが…)

後悔があるとしたら、「なぜもっと早く仕事を始めなかったのか?」という点である。

最初から半年程度の勤務を想定して、「東京の暮らしに慣れるまで」と割り切って、すぐにでも同じような仕事に就いたら、上京後の4ヶ月の間、時間とお金を無駄にすることもなかったのかもしれない。

というわけで、上京後に仕事を見つける場合は、いきなりやりたい仕事や興味のある仕事を見つけようとするのではなく、経験のある仕事に就いて生活に慣れることをお勧めしたい。(もっとも、最低賃金の仕事ではなく、貯金を維持できる程度の収入があることが条件であるが)

次回へ続く

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