「あの国は日本よりも凄い!」という話は本当なのか?①(海外の労働時間編)

・外国人が持つ日本のイメージ

外国人が日本人に対して持っているイメージとは何だろうか?

日本人は常に刀を持ち歩いており、夜になると忍者が暗躍する。

さすがに、今時こんなイメージを持っている人は少ないと思うが、それでも日本人の間違ったイメージを持っている外国人はたくさんいる。

たとえば、私はフィリピンで、日本に興味のある現地の人と出会ったことがある。

彼はインターネットで、多くの自殺者が出る富士の樹海を紹介する動画を見つけた。(おそらく、富士山の動画を見つけようとして、目に入ったのだろう)

彼はこの動画を私に見せて質問した。

フィリピン人男性:「日本人は自殺する人が多いと聞いた。これは日本には腹切りの文化があり、自殺が美だと考えられているからだろう?」

んなわけあるかぁぁ!!

日本の自殺者が多いのは事実だが、そんなサムライスピリッツで自殺する人間なんて居ねえよ!!

それから、トルコ人と話をしていた時、私が車で通勤していると言うことを話したら、こんなことを聞かれた。

トルコ人男性:「車を持っているなんて、あなたは金持ちなのか?」

私はこの質問の意味が分からなかった。

確かに車を所有するにはお金がかかるが、この国では金持ちでなければ車を所有できないということはない。

それともトルコでは金持ちしか車を所有できないので同じように思ったのか?

私は彼になぜそう思ったのか聞いてみた。

トルコ人男性:

だって、トルコでは日本のサラリーマンが満員電車で通勤していることは有名ですよ。

日本では普通の人が車を買えないから、たくさんの人が電車で通勤しているのではないですか?

なるほど、彼のイメージでは「日本で働く人=東京に住んで、電車で職場に通う人」だったので、満員電車に乗らず車で職場に通う私が金持ちだと思ったのだろう。

これなんかは偏見だが結構おもしろい。

しかし、よくよく考えてみたら私たち日本人も外国の人に対して偏見を持っている。

代表的なものは「ブラジル人はみんなサッカーが大好きだ」とか「アフリカ人と聞いて無条件に黒人を想像する」とか。

というわけで、今回は私が今まで自分が思っていた外国に対するイメージが本当なのかを当事者に聞いてみた話を紹介する。

・世界一勤勉なメキシコ人

「メキシコ人が世界一勤勉」だというイメージを持っている人は多くないかもしれないが、このサイトを見てほしい。

https://data.oecd.org/emp/hours-worked.htm

これはOECDが発表した国別の平均労働時間である。

日本人は世界一勤勉だと言われることが多いが、このグラフでは真ん中位の位置にある。

おおよそ勤勉だというイメージのないイタリアやギリシャ(これもれっきとした偏見だが)よりも少ない。

そして、労働時間が一番長い国がメキシコになっている。

これは2017年の統計だが、私が最初にこの統計を見たのは2015年で、その時は日本人の年間平均労働時間はたしか1734時間で、その時も一番長いのはメキシコだった。

そのため

「日本人の年間平均労働時間は1700時間台で、もはや世界で労働時間が長い国だとは言えない。メキシコ人の長時間労働に比べたら日本人なんて甘えているよ」

ということは何年も前から言われていた。

というわけで、私は2015年にメキシコ人にこの統計についてどう思うか聞いてみた。

メキシコ人男性:

うーん。僕はまだ学生で働いたことはない。

僕のお父さんは一日9時間、週5日で働いている。

それからお母さんは一日4時間働いている。

それから僕の知っている人たちは大体、一日78時間働いている。

これが普通の働き方だと思うよ。

日本ではどう?

ん??

たしかに父上の一日9時間労働では、日本では毎日1時間の残業をしていることになる。

しかし、長時間労働と言えるかと聞かれたら、「まあ、珍しくないですね」としか言えない。

それから母上の一日4時間勤務はありふれた主婦パートの労働時間である。

その他の人の一日78時間勤務というのは日本のフルタイムと大して変わらない。

メキシコって労働時間世界一って言っても、そんなに日本と変わらないじゃねえ?

ちなみに、私も意見を求められたので、このように答えた。

早川:

私はそんなに多くの人と関わる仕事をしているわけではないから、他の人の働き方はよくわかりません。

だけど、パート労働者を含んでも日本人の年間平均労働時間が1734時間だというのは疑問です。

たとえば、私は一日8時間、週5日働いています。販売の仕事なので、土日祝日関係なく働き、毎月2122日出勤します。長期休暇もありません。すると次のような計算式が成り立ちます。

8×21.5×122064

私は一年で2064時間働くことになります。

これは日本人の平均労働時間の1734時間を大きく超えています。

にもかかわらず、私は「パート労働者」だとか、「もっと働け」と言われています。

パートタイマーなのにオーバーワーカーってどういうこと?

実際に私は自分が働き過ぎだとは思いません。

私の上司は毎朝6時に職場について、2時間の休憩時間があって、夜の8時くらいまで職場にいます。

休みは週に1日だけで、休みがない週もあります。

彼と比べたら私はパートタイマーだと言えるかもしれません。(笑)

ちなみに彼は毎日12時間近く働いていますが、給料の計算では毎日8時間しか働いていないことになっています。

毎日3,4時間ただ働きしていることになります。日本ではこのようなカウントされない残業時間は「サービス残業」と呼ばれています。

おそらくこの時間が除外されているから、1734時間という数字が出るのだと思います。

それを聞いた彼から帰ってきた反応がこちら。

メキシコ人男性:

なぜ、あなたはパートタイマーと呼ばれているの?

それから、なぜあなたの上司は社長から虐待されているの?

メキシコではそんなこと聞いたことないよ。

結論

・メキシコ人は世界一労働時間が長いという統計があるが、一般的な労働時間は日本人とそんなに変わらない。

・メキシコ人にはフルタイムのパートタイマーは不思議に見える。

・サービス残業はメキシコ人にはおかしいものに見える。

・オランダは労働者の楽園

ワークシェアリングという言葉をご存知だろうか?

不況になり、仕事量に対して従業員が過剰になってしまうと、企業は景気が回復するまで労働者を減らして人件費を抑えることで不況を乗り越えようとする。

しかし、それによって解雇された従業員はたまったものではない。

というわけで、景気が回復するまで、なるべく多くの人が失業せずに済むように、従業員の労働時間と賃金を減らして仕事を分け合うことをワークシェアリングという。

これは1980年代にオランダで生まれたと言われている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0

このことによって、パートタイムで働く労働者が増えたわけだが、同一労働同一賃金を導入して勤務時間以外の待遇の差を徹底的に禁止した。

そのおかげで、オランダではパートタイムでも生活できるようになり、多くの人が仕事だけの人生ではなく充実した幸せな暮らしを手にすることができた。

https://www.youtube.com/watch?v=dEaJoIchTSk

(この動画は前半で終わっているが、以前は全編版もあった。)

このオランダに学んだ改革をすべきだと主張する人もいる。

たとえば、この人とか。

オランダではパートタイマーが差別されず、多くの人がガツガツしない働き方をしている。仕事のために生きている我々、日本人とは大きな違いだ。

これが本当なのかオランダ人に聞いてみることにした。

   オランダにはワークシェアリングや同一労働同一賃金制度によって、多くの人が仕事とプライベートを両立できると聞きました。日本にはこのオランダモデルを取り入れるべきだという人がいますが、どう思いますか?

オランダ人女性:

は? あんた何言ってんの!?

何で好き好んでパートタイムで働かないといけないの?

私の旦那なんかフルタイムの仕事が見つからないせいで、週5日働く仕事とは別に掛け持ちで週2日働かないといけないの!!

給料は不安定だし、休みが全くない週もあるの!!

一つの職場でフルタイムとして働いた方が良いに決まってんでしょ!?

ちょっと!!話が全然違いますが!? しかもかなり怒っています。

   でも、この(先述の)動画を見てください。この中には弁護士の助手と飛行機の乗務員を掛け持ちで働いている人がいます。それから警察官や教師のような人もパートタイムで働いています。日本ではこんなことは考えられませんよ。

オランダ人女性:

弁護士の助手や飛行機の乗務員なんて普通の人ができるわけないでしょ!?

そんな組み合わせ、オランダでもめったにいないの!!

警察や教師がパートタイムで働くということは、それだけ失業率が高いから、何とか多くの失業者を公務員として雇っているだけなの!!

ああ、なるほど・・・

これ以上、この話を続けたらますます怒らせてしまいそうだったので、お礼を言って離れることにした。

この人が極端な人だった可能性もあるため、別のオランダ人にも聞いてみた。

聞いてみて分かったことは

・オランダにもパートタイムは女性の仕事というような認識を持っている人がいる。

・多くの人はできればフルタイムで働きたいと思っている。

・他のヨーロッパの国と同様に移民に仕事を奪われていると思っている人がいる。

やはり、このワークシェアリングは日本人が考えるほど素晴らしい制度ではないらしい。

ただ、フルタイムとパートタイムで大きな賃金格差はないようなので、そこは学ぶべきなのではないかと思う。(たぶん)

結論

・オランダ人はワークシェアリングという働き方に賛成しているわけではない。

・オランダの労働環境は楽園ではない。

・オランダ人に雇用の話をすると怒る。そして怖い。

次回へ続く

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