もしも、英語でこんな質問をされたとする。
これを聞いたあなたは、相手が
というように「一緒に買い物へ行きたいのか?」を聞いているのだと思うかもしれない。
たしかに、それは正しい解釈である。
先頭にDoがあるので疑問文であり、主語はあなたであるyouになっている。
そしてwant to~は「~したい」の意味で、shopping with meは「一緒に買い物へ行く」である。
しかし、この言葉の意味には
「私と一緒に買い物へ行ってくれない?」
という依頼や
「私と一緒に買い物へ行かない?」
というようなカジュアルな誘いも含まれている。
・意味が全然違うのだが…
依頼と誘いは両方とも相手が希望を伝えているのだから、同じだと考えても構わないだろう。
しかし、「あなたは私と一緒に買い物へ行きたいですか?」と「私と一緒に買い物へ行ってくれない?」は大違いである。
仮に私が英語圏の国で現地の人と共に生活を営んでいるとしよう。
そこで、同居人が私に買い物について来てもらいたいと思って「Do you want to go shopping with me?」と聞いてくる。
しかし、私はその質問を「あなたは私と一緒に買い物へ行きたいですか?」と聞いているのだと解釈してしまい、手は空いていたものの、特に買いたい物など無かったため、「No, I don’t」と答えてしまう。
それを聞いた相手はどんな気持ちになるだろうか?
下手したら、嫌な奴だと思われて、今後このような誘いは二度と来ないかもしれない。
言葉の誤解とは恐ろしいものである。
ちなみに、私が「Do you want to~」に依頼や誘いの意味があることを知ったのは英語の勉強を始めてから5年以上経った時だった。
その時はとても驚いた。
だから、あなたが今日この記事を読んで初めてそのことを知ったのであれば、その衝撃は十分に理解できる。
「『紛らわしい』というのではなく、全然違うでしょう!?」
「一緒に買い物に行きたいのなら『I want you to go shopping with me.』とか『Let’s go shipping.』って言えや!!」
その憤りはごもっともである。
英語が母国語であるアメリカ人にこの言い回しについて聞いてみた。
彼曰く、「Do you want to~」で相手を誘うことは、相手を尊重しながらも、自分の要望を伝える尋ね方のようである。
「I want you to~」は表現がストレート過ぎて、「Let’s~」は言い方としては不適切でないものの、何の前触れもなく突然言い出すには不自然らしい。
ちなみに、「Do you want to~」には直訳通り、相手が「~をしたいか?」という意志を確認する意味で使うこともあるらしい。
ますます意味が分からなくなってきた。
「日本人っていつも自分の意見を言わずに曖昧な言い方でごまかすよね~」などと偉そうなことを言う外国人がいるが、英語だって同じじゃねえか!?
あー、腹が立つ!!
と言いたいところだが、実は私たち日本人も日本語で似たようなことをやっているのである。
・一緒にご飯を食べたい時の誘い文句
職場や学校で昼食の時間になった時のことを想像してもらいたい。
あなたが席を離れようとした時に同僚(もしくは同級生)があなたに「一緒にご飯を食べませんか?」と声をかけてくる。
これを聞くと、相手があなたと一緒にランチを食べたいのだと容易に判断できる。
しかし、よくよく考えてみると、その言い方は「(あなたは)一緒にご飯を食べたいですか?」というように相手の希望を聞いているようにも取れる。
日本語に不慣れな外国人がこれを聞くと、「この人は私が自分と一緒にご飯を食べたいのかを知りたいのか?」と思い込んで、単純に自分の意志のみを返答する可能性もある。
もし、そこで彼(彼女)が「いや別に私は一緒に食べたいとは思わないけど…」と自分の意志だけに基づいて質問に答えたのなら、誘ってくれた人との間に亀裂が生じてしまうかもしれない。
後からそのことを知った彼は「食事に誘っているのなら、『私はあなたと一緒に食事をしたい』と言わないと分からないよ!!」と嘆くことだろう。
しかし、だからと言って、私たち日本人が同僚から「私はあなたと一緒にご飯を食べたい」なんて言われたら、表現がストレート過ぎて驚いてしまうし、たとえあなたが誘いに応じるつもりでも、断る選択肢を奪われて、有無を言わせず要求を突き付けられたような気持ちになってしまう。
たとえ、外国人の彼が判断に困ると嘆いたとしても、私たちは「一緒にご飯を食べませんか?」という言い方をするしかない。
英語を母語とする人が、相手を誘う時に「Do you want to~?」と言うのも同じような感覚なのだろう。
・見分け方や分からない時の対処法
私は「Do you want to~」のニュアンスを教えてくれた彼に、「Do you want to~」と聞かれた時にそれが質問なのか、誘いなのかの見分け方について聞いてみた。
まず、文の先頭にWhereやWhatなどの疑問詞がついている場合は、その後に「do you want to~」と続いたとしても、誘いではなく、意見を求めていると考えていい。
よくよく考えたら分かる話だが、行きたい場所ややりたいことが決まっている人たちがWhereやWhatのような疑問詞を使うことはない。
それから、質問の意味があまりにも現実離れしている場合も、単純に意見を聞いているだけである。
たとえば、こんな質問である。
少なくとも2020年現在は誰もが気軽に宇宙旅行を楽しめる時代ではない。
そのため、「宇宙旅行へ行かない?」などと誘われることはないと思われる。
このような質問もあなたがやりたいかどうかを聞いているだけだと考えていい。
判断に困るのは疑問詞がついておらず、現実的にも可能であるような質問をされた場合である。
・Do you want to buy a new car? (「あなたは新しい車を買いたいですか?」or「新しい車を買わない?」
・Do you want to eat out tonight? (「今夜は外食したいですか?」or「今夜は外食しませんか?」)
この聞き方では質問しているのか、誘っているのかがハッキリしない。
(彼によると、ネイティブは雰囲気で質問の意図が分かるらしいが…)
そして、自分は強く望まなくても「相手が自分を誘った」のだろうと思い、曖昧なまま話を進めると、料金を支払う段階で「いや、あんたの方がやりたいって言ったんだろう!?」とどちらが言い出しっぺであるかを巡ってトラブルになる可能性もある。
そのようなことを避けたい時は
「Are you saying that you want to buy a new one?」
「If you want, I’ll do it」
と確認しよう。
・おまけ
この記事を書いている途中であるフレーズのことを思い出した。
それは「~しませんか?」と誘う時に使う
Why don’t you~?
という聞き方である。
これも今日のテーマと似ている。
この質問も「どうして彼らと一緒に遊ばないの?」と理由を聞いているのか、それとも「彼らと一緒に遊んだらどうですか?」と促しているのかが不明である。
この聞き方も、聞きたいことを見分けるには慣れが必要なのだが、「Why don’t you ~?」は理由を問い詰めるのではなく、相手に勧めたい時のフレーズであることを説明する本は珍しくないため、Why don’t you ~?と聞かれたら、「何かを勧めているのかな?」と察知できる人は少なくない。
しかし、どういうわけだが、「Do you want to~?」も同じように複数の意味があることを説明する本は多くない。
果たして、英語の日常会話における頻出度の違いからなのだろうか?
その理由は不明である。