いじめにあった職場に復讐する②:計画

前回のあらすじ

私の元同居人C(仮名)はかつて職場でいじめを受けていた。

いじめ主犯格のババア(これも仮名)がやって来て2ヶ月後、彼は退職と職場への復讐を決心した。

・加害者は「加害者」として裁いてもらう

退職を決意して以来、Cはどのように復讐すべきかを考えた。

例によって、ババアが職場の失敗を彼のせいにした瞬間、今まで蓄積したパワハラの恨みを拳に込めてババアのクソ醜い面をバーンとぶん殴り、その後は大立ち回りで他の加害者連中も成敗する。

こんなことができたら、どんなに胸がスッキリするだろうか。

…って、それは明らかな犯罪だし、そんなことをしたら逮捕されるばかりか、会社(雇い主+テナントの貸し手)から多額の損害賠償を請求されるかもしれない。

その上、憎き加害者連中からも怪我の治療費を請求されるかもしれない。

一時的な怒りに身を宿してしまえば、その場ではスッキリしても後々後悔することになってしまう。

苦しい時こそ冷静に考えなくてはならない。

次に彼が考えたのがバックレだった。

「職場が人手不足で大変なので、僕は次のシフトから週6日入れてください!!」

と宣言して、その勤務シフトがスタートすると同時にバックレる。

すると職場は大混乱になるだろう。

そうしたら、加害者連中も人手が足りずに大いに苦しんだり、プライベートのスケジュールを変更して、休みの予定だった日に出勤することになるかもしれない。

これまで短期離職を繰り返してきた彼のことだから、この程度のバックレは手慣れたもののような気はする。

まあ、これはこれで面白そうな復讐法であるが、そんなことをしたら彼をいじめていた連中とは別の同僚にも迷惑がかかる。

それにババアのことだから、そうなったら次は彼に代わる新しいいじめの標的を見つけて、シフトの変更はグループ以外の人に押し付けてくるだろう。

そんなことになれば、「加害者への復讐」は成立しない。

その上、もしもバックレたら本社の人は彼の行動を非難するだろうし、結局は「ババア一派は迷惑を被った被害者」という認識になってしまうだろう。

彼の目的はあくまでも、加害者を「加害者」として罰することである。

そのためには加害者を決して「被害者」にしないこと、すなわち、合法の復讐でなければならない。

もしバックレた後に本社から連絡があって、「実はババア(+その一派)からいじめられていました」と申告したところで、他人はそれを言い訳としか捉えないだろう。

それならいっそのこと、正式に退職して自分に非がない状態で会社へ告発した方が効果的ではないか?

というわけで、彼は退職日まできちんと働いて、退職した後に会社へババア一派を告発することにした。

退職日までは地獄だろうが、その間は告発のための証拠集めと復讐計画のシナリオ作り専念することにした。

・復讐計画の目的地

Cは先ず、復讐計画の行先を考えることにした。

加害者たちが最も嫌がることは何だろうか?

彼が復讐を果たすためには、相手が嫌がること(落とし所)は探して、加害者をそこに追いつめなくてはならない。

先ず、ババアは本社に戻って事務の仕事へ復帰したがっていた。

というわけで、ババアへの復讐は本社からの信頼をガタ落ちさせて、これからも左遷コースで働かせ続けることである。

本社からの信頼に亀裂を生じさせるためには、ババアの行動に一石を投じるだけでいいので、こちらから解雇や減給の処分を要求する必要はない。

また、ババアを告発する内容はあくまでも「自分へのいじめ」を中心としたものにする。

パートに仕事を丸投げした点も告発材料になるのだが、彼女が調理の仕事を放棄したことを強調すると「この仕事に向いていないから本社に戻して事務の仕事をさせよう」と思わせてしまう。

それではババアにとって棚ボタになってしまい復讐にならない。

次にババアの腰巾着への復讐計画である。

彼女たちはババアと違って、仕事に対する強い思いはない。

ただ人間関係の損得勘定で彼をいじめているだけである。

ということで、彼女たちが最も重視していることは人間関係であることは想像できる。

だから、告発文に「いじめたのは誰と誰と誰だった」と全員を名指しして、「この中では最初にABがいじめを始めて、それを見た誰と誰も面白半分にいじめに加わった」と書くことにした。

そうすることで、「いや違う!! 最初にいじめたのはあの人だ!! 自分は巻き込まれただけだ!!」というような保身のために責任のなすりつけ合いを始めて、結果的にグループ内の信頼関係がガタガタになって全員共倒れになることを狙った。

・相手が思い通りに動かないことを想定する

本社へ告発文を送り、ババア一派のいじめの実態を知らせ、会社の力を利用して加害者たちを一網打尽にする。

復讐計画の大枠は決定した。

だが、この計画を実現させるためへの課題はまだ残っている。

:告発しても、加害者がいじめの事実を認めないかもしれない。

学校のいじめでも同じだろうが、「誰々にいじめられました」ということ報告しても「はい。確かに私がいじめました」などと素直に告白する人はほとんどいない。

大半の加害者はその場しのぎのウソや口裏合わせで汚い隠ぺい工作をする。

これは大人も同じである。

「それは事実ではない」

「指導する時にキツイ言葉が出てしまっただけで、悪気はなかった」

「そもそも仕事ができない奴が悪い!! 自分はもっと大変だった!!」

大半はこんなパターンで言い訳を続けながらいじめを否認する。

こうしてみると、徐々に追いつめられているようだが、決して自分たちの非は認めない。

このような事態を防ぐために彼はレコーダーを使っていじめの証拠を残すことにした。

:会社がいじめの事実を黙殺するかもしれない

録音していじめの証拠を残せば、加害者の逃げ場を塞ぐことができる。

しかし、これだけでは完璧とは言えない。

たとえ証拠を揃えても、会社としては、そんな面倒なことに時間を割きたくないだろうし、自社で「いじめがあった」という事実を認めたくないだろう。

そして、職場の半分を占める加害者たちが退職すればかなりの人手不足になってしまう。

そもそも、騒ぎが大きくなることを恐れて告発文自体を黙殺するかもしれない。

子どもがいじめが原因と思われる自殺をした際には校長や教育委員会が記者会見で

「えー、我々としては、いじめはなかったものであると認識しております」

という、あたかもマニュアルがあるかのような全国共通の常套句を披露する。

Cも本社の人がこれと同じような対応をするのではないかと疑った。

彼は本社の人間がどんな人たちなのかを詳しくは知らないが、会社の人が善意で動くとも限らないことは分かっていた。

というわけで、「会社が重い腰を上げなくてはいけない程、恐れる相手は誰なのか?」を考えることにした。

会社とは利潤を求める組織である。

はっきり言えば、金を求めて動く。

ということは、会社の首根っこを掴んでいるのは金を払う消費者と、営業スペースを貸しているテナントの貸し手であることが分かる。

両者からの信頼を失えば、会社は金儲けができなくなってしまう。

すると、彼はババアの命令で行われている「衛生規定の無視」を思い出した。

この事実をちらつかせれば、会社も対応せざるを得ない。

幸い、自分は規定の無視に加担していない。

彼は自分へのいじめだけでなく、バックアップとして衛生規定の無視の証拠も集めることにした。

計画が徐々に練り上がってきたところで、彼は準備に入ることにした。

次回へ続く

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