最近、闇バイトに関するニュースを頻繁に耳にするようになった。
そのこと自体は数年前から問題になっており、主題は全く別のテーマだったにせよ、昨年このブログでも取り上げたことがある。
ところが数ヶ月前から、関東地方で立て続けに闇バイトによる強盗事件が起きており、死者まで出す事態になっていることから、最近は一段と社会問題になっている。
政府もより一層、力を入れて対策に取り組んでいる。
石破首相 闇バイト対策を今年度の補正予算案に盛り込む考え | NHK | 事件
私がそのニュースを見て感じたことは…
・犯罪だと気付いても引き返せない理由
多くの人にとっては今さら説明不要だろうが、闇バイトとは、組織的な詐欺や強盗などの犯罪の末端を担う実行犯としてのアルバイトである。
組織にとっては、自身が犯行のリスクを回避できる上に、実行役が逮捕されても、何の面識もないため躊躇なく切り捨てることが出来て、実行犯にとっても、何の知識もスキルもなく高額な報酬を得ることが出来るという利害関係によって、成り立っている。
実行役が逮捕されたニュースが報道される度に話題になるのが、大金に目が眩んで犯罪に手を染める若者の浅はかさである。
「真面目に働かずに大金を手に入れようとするのが、そもそも間違っている!!」
「どうして犯罪だと気付いても、すぐに止めないんだ!?」
その非難に対しては全く同感である。
もっとも、先述の記事に書いた通り、彼らの楽して大金を手に入れようとする発想を批判している人たちも、別の形で努力しない一発逆転の人生好転方法に取りつかれていることもあるのだが…
ただ、彼らに対して、同情する余地は全くないものの、気になることもあった。
それは、「組織に自分や家族の個人情報を握られてしまい、逆らったら報復されると思って、断れなかった」という犯行動機。
たしかに、バイトの応募だったら、自分だけでなく「連帯保証人」や「身元保証人」として家族の個人情報を求められることは珍しくないし、何の疑いもなく教えてしまうだろう。
そして、言われるがまま情報を提供したら最後、闇バイトと気付いても、個人情報を盾に脅迫され、従わざるを得なくなる。
実は私も、闇バイトに応募したことこそないものの、個人情報の流出を疑い、とてつもない恐怖と絶望を感じた経験がある。
・どこから私の情報を入手したのだろう…
今から3年程前、登録した覚えがない求人媒体から、突然仕事を紹介するメールが送られてきた。
それも頻繁に。
私はこれまで職を転々としてきたため、2,3ヶ月の短期で退職した職場は合算して職務経歴に記載したことがある。
また、上京後はいくつもの派遣会社に登録してきた。
そのため、以前登録したかもしれない派遣会社に、矛盾した職歴で応募してしまわないように、応募の際は(派遣に限らず)必ず提出した職歴と共に、会社名も記録に留めることにしている。
だが、その求人媒体は記録に残っておらず、登録した記憶もない。
ちなみに、メールの宛名は「早川 鉄男 様へ」となっていたため、適当なアドレスで一斉送信されたメールではなさそう。
最初は社名や媒体名が登録時から変更されたのかと思い、その線を調べてみたが、特にそのような情報は見つからなかった。
そうなると、考えられるのは、かつて登録した会社が倒産したり、吸収合併により、登録時の情報が事業を引き継いだ別会社に移行したことくらいである。
もしも、求人内容が販売や荷物の搬入といった普通の(人使いが荒い)バイトだったら、それ以上は特に疑うこともなかっただろう。
ところが、仕事の内容は、SNSの個人アカウントで特定の商品のレビューを書いたり、自身がモデルとなり指定された内容の動画を撮影して送信するだけといういかがわしいもので、報酬も高額だった。
怪しさ満点で、不気味だし、怖い。
絶対に堅気の仕事じゃないだろう…
そして、ある考えが頭を過った。
もしかして…
ヤバい組織に個人情報を握られているのでは…
流出の経緯は不明だが、単に私一人の情報が洩れているのであれば、そこまで怯えることはなかっただろう。
しかし、その時頭を過ったのは、先ほど思い浮かんだ「かつて登録した派遣会社や求人媒体が倒産して、別の事業者に引き継がれた」というケースである。
登録する時は、保証人や緊急連絡先を求められるため、私の個人情報だけでなく、実家の家族の名前や連絡先、住所まで記載していた。
もし、本当にそんなことが起きて、引き継がれた先がヤバい組織だったら、彼らは私の実家の家族の情報まで握っていることになる。
特に倒産する会社は「もう、どうにでもなれ!!」とやけを起こして、個人情報収集業者に保持している情報を売却することに躊躇はなさそうだし…
そして、その情報がすでに闇業者に行き渡っている情報と結合されて、さらに多くの情報を共有されたり、メールアドレスにハッキングされて、より多くの情報を抜き出されたりという負のスパイラルが頭に思い浮かんだ。
・家族に迷惑をかけられない
まだ、疑惑の段階だが、私は血の気が引くように青ざめた。
以前、こちらの記事で振り込め詐欺についての話をしたことがある。
「振り込め詐欺」と聞くと、判断能力が低下した高齢者が詐欺師の電話トークに騙されて、ATMに大金を振り込む姿を想像する。
ところが、実際は家族や親族の個人情報を握っていることを告げられ、集金役が家までやって来ると、騙されていると気付いていても、子どもや孫に危害が及ぶことを恐れてお金を渡してしまう人も少なくないとのこと。
しかも、一回で済むのならまだしも、このような人たちは恐怖で身動きが取れず、何度も金銭を要求され続けることも少なくないらしい。
当然、私もそのことが頭に過って、家族のことが心配になった。
私は迷ったものの、家族に連絡することにした。
詐欺というものは、被害者が「まさか、自分や家族が騙されるなんて思ってなかった…」と油断していたことを後悔することがお決まりのパターンだし、私のせいで家族が迷惑を被ることは絶対に避けたかった。
私は普段から実家の家族とは滅多に連絡を取らない。
そんな私が突然連絡して、電話口であまりにも深刻な声で話を切り出したため、最初は「一体何事か…」と驚いたようだったが、話を聞いたら拍子抜けしたそうで、最後は大笑いされたが…(笑)
・自立を要求しながら、させない謎
こうして振り返ると笑い話のようだが、とんでもない。
あの時の恐怖は今でも忘れられない。
一人で勝手に流出を疑うだけでも、こんなに怯えてしまうのだから、犯罪組織に家族の個人情報を握られ、それを盾に犯罪へ加担するよう脅されたらと思うとゾッとする…
もっとも、だからと言って、命令に従って犯罪を行うことが許容されるわけではないが。
だが、家族の情報を握らせないことが、闇バイトからの脱退を容易にさせることができるのであれば、これは利用しない手はない。
というわけで、国は闇バイトの拡大を防ぎたいのであれば、ぜひとも仕事の応募の際に、連帯保証人や身元保証人のような保証人として、第三者の情報を求めることは禁止してほしい。
仕事中に事故が起きた際や連絡が全く取れない場合は、どうしても連絡先が必要になるかもしれないが、そのような場合も電話番号だけで十分ではないか?
通常の仕事の応募や就職手続きで家族の情報を詳しく求められることが認められないのであれば、闇バイトの応募でそれらを詳しく聞かれたら、さすがに「おかしい」と思うだろう。
保証人の禁止は仕事だけでなく、賃貸契約についても同様である。
私が不動産屋で今のアパートを探していた時のことだが、隣の席に外国出身と思われるお客が居て、スタッフが彼女に保証会社の説明をしていた。
それを聞いた時は思わずズッコケそうになったのだが、よくよく考えるとこれはおかしな話である。
連帯保証人がいない人のためのサービスを提供している保証会社が、「連帯保証人を用意しなければお断り」と言うのは仕事の放棄であり、ただの中抜きではないのか?
曲がりなりにも、労働者が就業先で理不尽な扱いをされたら、代わってクレームを付けて労働環境に努めたり、面倒な労務管理、仕事の斡旋という最低限の仕事はやっている派遣会社などよりも、よっぽど悪質な中抜きである。
福祉を切り捨てたり、無業者に就職を促す時は、馬鹿の一つ覚えのように「自立!! 自立!!」と言いながら、就職でも、住まいの独立でも、連帯保証人という「いざとなったら、自分に代わって尻拭いをしてくれる人」を要求としているのだから、「どこが自立やねん?」と言いたくなる。
警察やマスコミも、闇バイトの撲滅に力を入れているが、彼らは現在の制度の中でしか行動できないため、どうして、足を踏み入れないことを呼びかけたり、相談窓口の開設や案内といった地道な対応しか出来ない。
一方で国は制度を変えるという抜本的な対応が出来るのだから、保証人制度の全面禁止のような大胆な政策こそ、彼らが行うべき闇バイト対策だろう。