虐げられた職場に復讐する③:準備

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元同居人のC(仮名)は自分を虐げた職場への復讐を決心し、そのための計画を練り上げた。

計画の大枠をイメージすると、さっそくそのための準備をすることにした。

・証拠集め開始

いじめグループを告発するためには証拠が不可欠である。

というよりも、この計画が成功するか否かはこの証拠集めにかかっている。

彼はポケットに小型のレコーダーを忍ばせて、いじめの現場を録音することにした。

ドラマやアニメでおなじみの手法である。

しかし、これが意外と難しい。

勤務開始時刻から終了時刻までぶっ通しで録音できればいいのだろうが、小型のレコーダーでは、とてもではないが、1回の充電でそこまでの稼働時間が確保できない。

学校のいじめであれば、いじめが集中するであろう休み時間と班活動だけをマークすればいいのだが、職場のいじめではいつ火の粉(証拠集めを考えると「チャンス」の意味になるが)が飛んでくるのかわからない。

しかも、彼の仕事は食品を扱うため、常に手袋をつけなくてはならない。

忍ばせたレコーダーの録音ボタンを押すたびに、手袋をつけたままポケットに手を入れることは不自然極まりなく、すぐに怪しまれる。

そこで、彼が用意したのはボールペンの形をしたレコーダーだった。

このレコーダーはクリップがスイッチになっているので、そこをポケットに引っかけるように待機させておき、チャンスが来たら、さりげなく手を動かして録音することができる。

このボールペンは稼働時間が短く、誤作動で充電切れになってしまうことも考えて常に2本準備することにした。

それから、少しでも相手を誘き出す作戦も考えた。

まず、主犯格のババアは(というよりも指揮命令者は誰でも同じだろうが)仕事開始直後と休憩から戻った時に作業場全体を見渡して指示を出す。

その際に罵倒されることが多いので、そのタイミングを逃さないように集中した。

それから、あえて積極的に質問する。

すると案の定、

「何回も言ったよね?? そんなことも忘れるなんて、あんたの頭は空っぽなの???」

「そんなにやる気がないなら、もう来なくていいよ。あんたがいても時間と人件費の無駄だから」

と次々にボロを出した。

以前はババアに質問する際は、何を言われるか分からず恐る恐る聞いていたが、この時はババアの反応が楽しみで仕方なかった。

ちなみに、会社を脅す…じゃなかった、動かすために利用する衛生規定違反の証拠はババアでなく、ババアの一派数人に

C:「あの、これは前は~していたんですけど、今はしていませんよね?」

ババアの一派:「そうだよ!!」

C:「それはババアが『やらなくていい』と言ったんですよね?」

ババアの一派:「そうだよ!! だから、さっさとやれ!!」

と聞くことで確保した。

このように、ババア一派のメンバーからババアの不正を言わせると、グループを仲間割れへ追い込む際にも使えることになる。

・証拠の力を数倍にするテクニック

Cは証拠集めのための作戦をいくつも用意したのだが、それでも、そう都合良くは集められなかった。

いじめのシーンをすべて録音することが理想なのだが、せいぜい1/3でも揃えられたらマシな方だろう。

ただし、彼は「必ずしもすべての証拠を用意する必要はない」と考えるようになった。

彼の計画では、少なくとも「私の言っていることはウソではありませんよ」と証明することの材料になればいいのである。

そこで思いついたことが「カウンター作戦」である。

先ず、いじめられた事例を5つほど書き出して、相手に突き出す。

すると加害者は十中八九「それはすべて事実無根だ!!」と否定するだろう。

次にこちらがいじめを裏付ける証拠を1つだけ提示する。

それを見た(聞いた)加害者は「それは~だったから」と弁解を始める。

今度はこちらが別の証拠を1つ出す。

2つ目の証拠を突きつけられても加害者は別の言い訳を探すだろう。

こちらの証拠は2つしか用意できなかったから、残り3つは証拠がない。

そのため、自分の主張が100%正しいと証明することはできない。

だが、加害者が最初に言った「それはすべて事実無根だ!!」という主張がウソであることを証明することはできる。

その結果、第三者から見た加害者の心証は一気に悪くなる。

判断するのはあくまでも加害者でも被害者でもない第三者なのである。

証拠が少なくても、相手が一度否定した時を狙って、ひとつを突きつければ、相手へ大きなダメージを与えることができる。

このように、意図的に証拠を小出しにすることで、少ない証拠を最大限に活用することにした。

・シュミレーションとアップデート

彼はこのように計画が思い通りに進まないながらも、何度も頭の中で計画のシュミレーションをして、上手くいかないケースを想定しながら、何度も計画をアップデートした。

   加害者の処分を求めたことに対して、加害者(もしくは会社)が「脅迫された!!」と訴えたらどうしよう?

対策:証拠のカウンター作戦と同じく、最初の一歩で突っ込み過ぎないようにする。

最初は「いじめの事実」と「いじめられて傷ついたこと」を伝える。

それから、「ここには書かなかったけど、他にも会社のいけないことを知っている」ことを付け加えて、「もしも黙殺したらどうなるか分かっているよね?」ということをチラつかせる。

最終的な処分はあくまでも会社に決めさせよう。

ちなみに「いじめの事実」と「いじめられて傷ついたこと」も、

「~ということをされた(事実)、その結果、毎日が地獄で、何度も死にたいと思った(主観)」

というように事実と主観(意見)を都合よく上手い具合に使い分ける。

「加害者の処分をしないのなら自殺します!!」という訴えは脅迫に当たるかもしれないが、「死にたいと思った」というのは主観であり、思うこと自体は自由なのだから。

   もし、加害者に逆恨みされたらどうしよう?

対策:攻撃前に守りを固める。

いじめの告発ができない人は加害者から逆恨みされることを恐れていることが多いと思う。

「会社をクビになった恨みで家まで復讐に来たらどうしよう…」

「殺人、放火までは行かなくても、毎日自宅に嫌がらせをされたらどうしよう…」

「会社に残っている履歴書の個人情報を覗かれたらどうしよう…」

加害者が反省して逆恨みなどしないことが一番だが、それを期待することは難しい。

彼は開き直って「加害者とは基本的に逆恨みするものだ」と思うことにして、それを前提にして守りを固めることにした。

まず、再就職先としては営業と小売業を絶対に避ける。

もしも仕事中に逆恨みした相手と出会ってしまえば、こちらが逃げられないことに付け込んで、職場で嫌がらせをされるかもしれないから。

また、逆恨みした加害者が、家族を皆殺しにするとか、家に火をつけるというような極端なことを行う可能性は低いだろうし、そんなことをすれば即刻警察に訴えればいい。

ただし、加害者の家が近所にある場合は、ご近所トラブルレベルの嫌がらせを行う可能性はある。

その程度の嫌がらせは想定して、家の外には極力ものは置かないようにした。

そして、ゴミは出来る限り、回収の時間直前まで出さない。

このようにして、相手の攻撃を予測して守りを固める。

もちろん、こちらが攻撃を開始するのも、最後の給料と源泉徴収を手に入れて、いつでも逃げることができるようになってからである。

・退職の表明

Cが証拠集めを始めて二週間が経過して、少しずつではあるが、証拠が集まってきた。

彼はこのタイミングで退職を伝えることにした。

彼の会社では退職の一ヶ月前に会社へ伝えることが規則になっていた。

できることなら、一刻も早くこんな会社は辞めたいので、早めに退職を表明したいところだったが、彼はそれを先延ばしにしなければならない理由があった。

それは彼が退職を表明した後に、ババア一派の態度が急に変わるかもしれなかったからである。

退職を宣言すると、それまではつらく当たっていた上司や同僚が急に優しくなることは珍しくない。

もし、そんなことになれば、いじめの証拠を集めることが困難になる。

そのため、証拠を十分揃えるまで、退職を宣言することができなかった。

だが、それは無用な心配だった。

ババアは相変わらずだったのだが、一派の腰巾着は彼がいなくなると分かると、彼には一段ときつく当たるようになった。

彼にとってはさらなる苦痛だっただろうが、すべてはこちらの攻撃材料となることを考えると我慢できた。

・協力者の確保

彼は毎日苦しみながらも、退職日は目の前に迫っていた。

一刻も早くこの地獄を抜け出したい。

だが、彼には退職前にやらなければならないことがあった。

それは会社内にこちら側の協力者を確保しておくことである。

退職した後の復讐計画では基本的に本社の人間とやりとりを行うことになる。

だから、攻撃対象である職場がどのような影響を受けたのかを知ることは難しい。

そのために、彼は退職前に元店長と唯一の味方だったじいさんの連絡先を手に入れて、この二人から、職場の反応を聞き出すつもりだった。

また、二人の連絡先を確保したのは別の目的もあった。

彼の復讐の目的はいじめの加害者を一網打尽にすることであるが、手あたり次第に攻撃すれば、他の同僚に迷惑がかかるかもしれない。

それを避けるために、この二人に対してだけは、会社に告発文を送る前に電話で内容を伝えることにした。

彼はこの二人に恩を感じていたため、極力、迷惑をかけたくなかった。

特に同僚であるおじいさんには職場の衛生規定違反の告発をする際には絶対に違反に加担しないように伝えるつもりだった。

そして、いよいよ退職の日となった。

彼はお世話になった同僚やテナント先の人たちにお別れの挨拶をしたが、ババア一派の口からは最後まで謝罪の言葉が出ることはなかった。

このことで、彼は躊躇なくババア一派への報復をする決心がついた。

次回へ続く