前回は歩きスマホ、前々回はあおり運転をテーマにして、「分かっちゃいるけど、やめられない迷惑行為」と、その対策方法を考えてみた。
今日のテーマは「酔っ払い」である。
・まともな社会人は酔っぱらって自分を見失ったりしません
私にとって「酔っ払い」とは歩きスマホ、あおり運転と同様に問答無用で取り締まる迷惑行為でしかないが、人によっては先の2つと比較すると「それくらいはいいのでは…」と随分と寛容な姿勢であることが珍しくない。
「サラリーマン(会社員)は仕事でストレスが溜まっているのだから、酒でも飲まないとやってられないでしょう」というのが主な理屈である。
だが、私は「周囲に害をもたらす酔っ払い」をあたかも「サラリーマン文化の一部」のようにみなすことは到底容認できない。
その言い方は真面目に生きているサラリーマンに対する侮辱であり、大変失礼である。
まともな社会人は酔っぱらって他人に迷惑をかけたりしません。
たとえ、仕事のストレスを抱えていようと、泥酔して後から「記憶がない」などと汚い言い訳を並べようと犯罪であれば処罰されるべきである。
・歯がゆい記憶
さて、私は酒を一切飲まないし、酔っ払いが出現するような時間帯に外を出歩くこともないため、自分が酔っ払いの加害者になることも、被害者になることもないのだが、今でも歯がゆい思いをすることとなった経験がある。
今から、10年ほど前の話だが、仕事終わりの私は某大型古本屋に立ち寄った。
すると、店内の片隅で背広を着た会社員風の中年男が、従業員と思われる若い男女の2人組に何やら説教をしていた。
最初は内部監査に来た本社の人間が、あまりにも接客態度や商品の取り扱いに問題がある従業員に対して、怒りを抑えられず、店内で雷を落としているのかと思ったが、そうではなかった。
どうやら、中年の男は酒に酔った客(以下:酔っ払い)で、女性の従業員に自分はポルノ誌を探していることを伝えたが、彼女はそれがどんな本なのかが分からず、近くにいた店長に「すいません店長!! ○○ってどんな雑誌かご存じですか?」と確認したらしい。
酔っ払いは彼女のその行動に対して
「自分がエロ本を探していていると他の客に思われたじゃないか!!」(←事実ではないのか?)
「恥をかかされた!!」
「どうしてくれるんだ!!」
と激怒し、しつこく絡んでいたのである。
私が初めて目にした時は説教こそしたものの、比較的穏やかな口調で、彼女に年齢を尋ねたり、店長に仕事の在り方を説いたりしていたのだが、二人が何も言い返せないことや他の従業員も謝罪に加わったことで、図に乗ったのか、大声をあげたり、彼女の両親を貶めるような発言も行い、やがて彼女は泣きだした。
酔っ払いはさらに勢いづいて、
「泣いたら許してもらえると思っているのか!?」
「こんな奴を雇った本社に直接苦情を入れてやる!!」
と息巻いていた。
すると、大学生だろうか、当時の私と同じくらいの年齢の男性が酔っ払いを止めに入った。
彼は酔っ払いが店に迷惑をかけていることを諭した。
この青年の行動を受けて、酔っ払いは今までの威勢がなくなり、
「いや、俺はいじめているんじゃない…」
「あくまで、ビジネスのやり取りをしているんだ…」
と卑屈な態度で言い訳を始めた。
さあ、私も彼に加勢して形勢逆転だ!!
…と考え、機会を伺っていたのだが、腰抜け店長はこともあろうに酔っ払いの肩を持ち、青年に対して、退くよう要求した。
それを聞いた酔っ払いは息を吹き返したように
「あんたは学生か? これが社会というものだ!!」
「あんたは組織に所属していないから、俺の言っている意味が分からないんだ!!」
「俺が悪いと思うのなら警察を呼んで白黒つけるか!?」
と再び勢いづいたのである。
私はどうしたらいいのか分からず立ち尽くしていると、閉店を知らせる放送が流れ、他の従業員から退店するように言われたため、その場を離れた。
幸い、店の数十メートル隣に交番があったため、酔っ払いがトラブルを起こしていることを警察に伝えた。
勇気ある青年の行動には心から賛同したが、私ができる援護はこの程度のものだった。
・酔っ払いの監督責任
あの時、私はどうするのが正解だったのだろうか…
「店長は酔っ払いに無抵抗で、従業員を守ることができず、止めに入った青年さえも排除しようとした」と本社に苦情を入れるべきだったのか…
あまりにもひどい店の対応をTwitterで拡散すべきだったのか…
それとも、「口で言っても分からなければ、体で教えるしかない」と酔っ払いを問答無用でボコボコにすべきだったのか…
その答えは今でも分からない。
ただ一つだけ、はっきりと分かったことがある。
彼のような理性を失った酔っ払いを諫めるには、勤務先に報告することが最良の薬になるということ。
このブログでもすでに何度か取り上げているが、日本の正社員は「メンバーシップ型雇用」と呼ばれており、労働者は勤務地、勤務時間、業務内容を企業に一方的に決められ、無限定に働かなくてはならない。
その上、ブルーカラーも企業内競争に駆り立てられる。
しかも、生活の保障を失う恐れがあるから、身の危険を感じても、そこから脱出することが困難である。
この一面のみに目を向けると、労働者にとっては非常に不利なように見えるが、企業の安全配慮義務を労働者の私生活における健康状態や精神衛生状態にまで広げることでバランスを取っている。
たとえば、日本以外の社会では労働者の自己責任でしかない脳心疾患や過労自殺が労災として認められているとか。(参考:日本の雇用と労働法 濱口桂一郎(著)日経文庫)
というわけで、たとえ、会社外であっても、従業員の飲酒によって引き起こされたトラブルは、勤務先の企業に監督責任を負わせよう。
幸か不幸か、日本企業には、従業員に酒を飲ませることを強制する「飲み会」と呼ばれるイベントを開催することが多く、会社と飲酒の結びつきが強い。
さらに、大量の酒を飲んで気を紛らわさなければやっていけない程、仕事にストレスを感じているのなら、それこそ文字通り「安全配慮義務」に関わる問題である。
このように、本人のためを思っているからこそ、酔っ払いが騒ぎを起こしたら、勤務先に不祥事を洗いざらい報告しなくてはならない。
そして、「社会人としてのあるべき姿」をきちんと教育してもらわなくてはならない。
あくまでも本人のためである。
私は決して「会社に生殺与奪権を握られているサラリーマンは、たとえ私生活であっても自分の不祥事を会社に知られることを恐れているため、酔っ払いの醜態を会社に密告することで、会社での立場を不利にしたり、人生を破滅に追い込むことで社会的制裁を与えよう」などと、考えているわけではありませんので。
繰り返すが、あくまで本人のためである。