前回の簡単なあらすじ
今から2ヶ月ほど前、マッチングアプリを利用して交際相手を探している男性(仮名:シマダ)からメールが送られてきた。
彼はこれまで失敗続きで悩んでいたところ、私のブログを読んで、自分は仲間内だけの小さな世界でしかコミュニケーションができないことに気付いた。
そして、そんな自分を変えたいと思って、私に連絡をしてきた。
・広い世界と繋がる言葉は必要不可欠なのか?
前回、私とのやり取りで、シマダは田舎の生活がいかに自分にとって心地良かったのかを語ってくれたが、彼は最後にこんなことを付け加えていた。
今から半年前に、私はこの記事で、この本を参考に「世間」と「社会」の違いについて説明した。
「世間」とはいつも顔を合わせる同一的で小さな世界のメンバーの集まりであり、そこでは伝統とか、持ちつ持たれつの精神とか、自分と相手は同じ時間を共有しているという認識を基にコミュニケーションが行われるため、自分の意思を言葉で相手に伝える必要はない。
私はこの記事で、そのような世間的な振る舞いしかできないことを「芋侍型コミュニケーション」と名付けた。
一方で「社会」とは別々の共同体に所属している人たちの集まりなので、そこでは、「自分と相手は別の世界を生きている人間で、それぞれが別の考えを持っている」という前提でコミュニケーションを行うため、相手に自分の考えを伝えるための言葉が非常に重要となる。
この「世間的なコミュニケーション」しかできない人が、自分とは違う集団に所属する人(「社会の相手」)に遭遇すると、上手くコミュニケーションが取れず、気まずい雰囲気になる。
シマダの話を聞いていると彼は典型的な芋侍型の人間であることが分かった。
だから、ネット上でのやり取りが上手くいかず悩んでおり、そんな自分を変えたいと思っている。
ただし、ここで注意すべき点がある。
彼がオンラインコミュニケーションの能力を高めたとしても、それが彼の幸せにつながるのだろうか?
彼がペンパルサイトを使って(おそらく会うことのない)外国人とメールのやり取りを楽しみたいのなら、頑張って社会型の人間へ変わることを勧める。
しかし、彼がマッチングアプリを使用するのは誰かと出会うための手段に過ぎず、その後は直接相手と顔を合わせることを前提にしている。
私はオンラインだけのやり取りで3年近く連絡を取っている人がいるが、彼が求めている能力はこのようなものではないはずである。
彼は「自分を変えたい」と言ったが、サイトでのやり取りはきっかけ作りに過ぎないため、そこで相手に気に入られることに力を入れるよりも、その後の関係の方がはるかに大切なのではないか?
・実際に会うとその後はネット上のコミュニケーションも変化する
これまで私は「芋侍型(世間型)コミュニケーション」とは閉鎖的なムラ社会の生き方であり、自分の言葉で喋る社会型の振る舞いよりも劣っているかのような発言を繰り返してきたが、それはあくまでもペンパルサイトで見知らぬ世界を生きている外国人と会話をする場合の話である。
そのため、実際に顔を合わせる場合は本人たちが心地良くて、理不尽な抑圧や同調圧力がないのであれば、「一人は嫌だから誰かの隣にいたい」とか「言葉などなくても気持ちで通じ合える関係になりたい」というような芋侍的な動機で誰かと付き合いたいと思っても構わないと思っている。
そもそもネットとリアルは居心地が違う。
私がペンパルサイトで知り合った人たちと実際に会った時のことを思い出してみると、直接会った時も彼らの印象はネットでやり取りをしていた時とほとんど同じだったが、ネット上とは肌触りというか、フィーリングの違いを感じることはあった。
そして、実際に会った後ではネットの関係にも変化が生じた。
たとえば、ネット上では普通に会話ができていたが、実際に会ってお互いに何をしたらいいのか分からず気まずい思いをした後は、ネット上でも以前のような会話はできなくなった。
一方で、会う前はネット上では「俺、絶対にこの人とは相性が合わない」と思っていても、実際に会うことでその人の良さに気付けて、その後はネット上のやり取りでも、以前は面倒でしょうがなかった友達のような近況報告も苦ではなくなった。
実際に会うことが前提なら、言葉によるコミュニケーションが重要なのは最初の一歩だけに過ぎないため、そこにばかりとらわれ過ぎて、これまでの自分を全否定する必要はないのである。
シマダに必要なのはネット上で饒舌になって相手と仲良くすることではなく、最低限の距離の取り方を知ることであり、後は自分と価値観を共有できる人を探せばいいのではないか?
・シマダの改善点
この考えをシマダに伝えたら、彼は納得してくれた。
というわけで、彼の話を聞いて改善した方がいいと思ったことを指摘した。
先ず、彼は「自分が言葉によるコミュニケーションが得意ではない」と言った。
それから、プライベートを楽しむことはできるが「趣味」と呼べるものもない。
この2つがネット上で会話が続かない原因であると言ったが、プロフィールにはそのことをそのまま書けばいい。
こんな感じで
性格:無口ではないが、自分の気持ちを言葉で表現することが苦手
趣味:遠くへ出かけるだけでなく、近所で遊んだり、飲みに行ったりすることも好きだけど一人ではつまらない。誰かと一緒に過ごすことが一番楽しい
出会いたい相手:言葉よりも共通の経験を通して価値観を共有することができる人
こうすることで
性格:分からない
趣味:特にない
出会いたい相手:分からない
と書いていた時に比べたら少しは印象が良くなる。
それから、実際に会うまでの間、ネット上で適切に距離を取るために気を付けることは次の3つである。
①:相手が即レスをしない場合はこちらもあえて時間をおいて返信する。
②:自分で一切話題を見つけないにもかかわらず、一方的なかまってメールを送らない。
③:「最近どうですか?」という言葉は軽い挨拶だと割り切って、本気でプライベートを問いただそうとしない。
まず①については、自分は相手に即レスを求めてなくても、相手がプレッシャーを感じる可能性があるため、相手が1日に1回しかメッセージを送ってこない場合は相手のペースに合わせた方がいい。
時間をおいて返信することも気遣いの一つである。
それから②ついてはこの記事で書いた通りである。
よくよく考えたら分かる話だが、そんなことをする人間が好意を持たれることなど有り得ない。
③に関しては、私がプライベートのない人間だから個人的に不快に思っているだけで、他の人は違うかもしれない。
しかし、それを差し引いて、さらに相手と近いうちに対面することが前提である場合でも、私生活についてはあまり問いたださない方がいいと思っている。
実際に利用した経験がない私が知ったような言い方をするつもりはないが、そもそも、マッチングアプリとはリアルでの生活に満足していない人が利用しているのだと思う。
だから、相手が他人に喜んで話したがる生活を送っているとは思えない。
以上のことに注意して上手く距離を保って、できるだけ早く対面して、ボロが出る前に共通の認識を持てる関係になった方がいい。
彼は自分の気持ちを言葉で表現することが苦手だと言ったが、一度会って、言葉にしなくても分かり合えるような共通の経験を積めば、その後は自然とネット上でも上手く話ができるようになるだろう。(たぶん)
・シマダのその後と全体を通した感想
シマダが私に初めてメールを送ってきたのが2ヶ月ほど前のことだった。
私が自分の考えをすべて伝え終えた後、彼は成果があれば報告すると約束してくれた。
そんな彼から先日、連絡があった。
私の助言のおかげかどうかは知らないが、彼はサイトで知り合った女性と実際に会ってデートができるようになった。
彼女と知り合ったのは1ヶ月前で、お相手は電車で30分くらいの距離の場所に住んでおり、彼と同じく内気な性格の人らしい。
彼によると、今回気を付けた点は、(相手からの要望がない限り)メッセージの送信は1日1回までに留めたことと、相手に深入りしない程度に共通の話題を探そうとしたこと。
たとえば彼女が好きなアニメを聞いたら、その自分もそのDVDを見て感想を伝えることで距離を縮めた。
それから私が直接伝えたことではないが、私が過去に書いた記事を参考にして、高校生の時まで住んでいた田舎の話をして、同じく地方出身の彼女と盛り上がったらしい。
これから先、彼女とは徐々に本音で話しができそうである。
もちろん、彼女とはまだ友達の段階なので、この先で躓く可能性もある。
しかし、これから先は完全に彼の頑張り次第であり、私ができることは何もないと思っている。(そもそも彼女が業者の回し者やサクラである可能性も残されている)
彼がマッチングアプリのことで悩んでいるということを聞いた私は「私のような門外漢に聞くのではなく、ネットで調べればいいじゃないか?」と思った。
だが、実際に検索してみると、出てきた記事の大半は女性の利用者へ向けたものばかりで、男性利用者向けの記事はほとんどが恋人作りではなくセフレ作りのためのものだったため、彼の役に立ちそうな記事はなかった。
それらを見ると。「だから彼は私に相談したのだな」と納得できた。
しかし、一方で私も実はマッチングアプリに興味があった。
というのも、ペンパルサイトで具体的な話をせずに一方的な構ってメールを連発してくる相手に対して
と説教をしたこともあったため、出会い系サイトは本当に彼らのような非言語のコミュニケーションを好む人に向いてるのかを知りたかった。
それから、私がいつもこのブログで説明してきたオンラインコミュニケーションに対する考えが、出会い系サイトやマッチングアプリを利用している日本人相手にも通用するのかを知りたかった。
それらが、彼の相談を受けることにした理由である。
シマダには事前にそのことを伝えたが、彼はその実験台のような役回りでも、「相談に乗ってくれたお礼」だと言って引き受けてくれた。
そんな親切な彼が彼女と幸せになれることを願っている。(でも、毎回「今日は彼女とどこへ行きました」というような幸せの報告は送らなくて大丈夫です。)
(※)最後まで読んでくれた方へのお願い
今回はあくまでも読者からの相談が、これまでブログで主張してきたことに関係していたため、対応することができたが、私は恋愛相談に関してはド素人なので、恋の悩みに関する相談は基本的にお受けできません。