技能実習生の来日を阻止する②

前回は日本の外国人実習制度に申し込むインドネシア人を止める説得をしたが、失敗に終わった話をした。

その半年後、同じく実習制度に申し込もうとするベトナム人女性が現れた。

彼女はこの制度を知る前から日本に興味があり、日本語もある程度は使えた。

嫌な予感はしたが、前回の人と同じように説明をすると、案の定、抵抗された。

   なぜ、あなたは日本で働きたいと思うのですか?

「私の住んでいる所には仕事がありません。日本で働けば月に20万円は稼げると言われました。」

   あなたは騙されています。そもそも、日本人でも月に20万円も稼げない人はたくさんいます。この制度を利用した人の多くが貯金もできない程の低賃金で働かされています。

「なぜ私が騙されていると思うのですか?」

   たとえば給料についてです。日本の最低賃金では週に6日働けば、1ヶ月で20万円は稼げるかもしれませんが、理由をつけていろいろと天引きされます。だから、月に5万円程度しかもらえない人も大勢います。

「月に5万円でもベトナムでは大金です。」

   そもそも、最低賃金の半分以下の時給300円で働かされていた人もいます。それに労働環境もひどい。この動画を見てください。こんなところで働けますか?

「ベトナムにも同じような会社はたくさんあります。だから、お金のためならそれくらい我慢できます。」

   自分がどんな職場で働くのかも知らされていないのに何でそんなことがわかるんですか? この非人道的な制度は海外でも人身売買だと言われています。http://www.state.gov/documents/organization/245365.pdf(現在はリンク切れ)

「私の住んでいるところは本当に仕事がありません!!」

   仕事がないのなら、日本に行くためのお金をどうするのですか?この制度を利用する場合は高額の保証金を払わなければなりません。

「お金は借りて、日本で働いたお金で返します。」

   そんなことをしたら、ベトナムに帰りたくても帰れなくなって、ますますひどい条件で働かされますよ。

「私はどうしても日本で働きたいんです!! 」

   そんなことをして何になるんですか? たしかに、ベトナムの暮らしは貧しいかもしれません。でも、たとえ貧しくても、家族や友達に囲まれて暮らす方が幸せなのではないかと私は思いますが・・・

「あなたに私の何が分かるの?」

   ・・・・・・

こんな様子で話は平行線に終わった。

そして、次の日にはアカウントを削除された。

前回に続いて、外国人実習生の来日を阻止する作戦は失敗した。

今になって思うと、私にも反省すべき点はあった。

先ず、前回のように、途中でバックレられることを想定して、最初に相談先を教えておくべきだった。

それから、一方的に説教する前に、もう少し彼女の言い分を聞くべきだった。

・貧乏な(失礼)ベトナム人が日本を目指す理由

彼女はなぜそこまで日本で働きたいと思っていたのだろうか?

彼女と会話をしたのは2年以上前のことだが、未だにそのことが気になって仕方がない時がある。

彼女は頭がよく、単なる「能天気な日本好き」だとは思えない。

これはすべて私の推測であるが、「彼女がどうしても日本で働きたい」と思う理由を色々と考えてみた。

夢を持つことで貧しさを生き抜く

ベトナムと聞けば、著しい経済成長をイメージするが、彼女は地方在住で、実家は農業を営んでいると言った。

目の前の現実の絶望に直面した時、人間は希望を持つことで、その絶望を生き抜こうとする。

私もかつては不本意な形でフリーターをしていた時にオーストラリアにワーキングホリデーへ行く夢を持っていた。

その理由は高い最低賃金と出稼ぎ向けの仕事が溢れていると思っていたからだった。

そこに行けば人生が変わると思っていた。

その点では彼女と同じだ。

たとえ、それが幻想でも、その夢や希望を持つことで生き続けることができた。

外の世界を知ることで自分の貧乏を自覚する

彼女は「地元の生活は貧しい」と言ったが、おそらく以前よりは経済的に豊かになっているはずだ。

少なくとも、彼女がインターネットにアクセスすることができるくらいには。

これはいいことなのだろうが、別の一面もある。

食うに困るレベルの貧困なら生き抜くことに必死で自分の貧乏を自覚することはない。

町や村での小さな生活がすべてで、外の世界のことなど知らないのだから、自分が不幸だと思わずに、子どもの時から親の仕事を手伝って、普通に結婚して、平凡な人生を送る。

そのため、貧しくても仲間に囲まれて笑顔で平和に暮らしていくことができる。

(もちろん、それは、病気や災害で一気に生活が崩壊する危険と隣り合わせであるし、先進国では当然の人権も認められないこともあるので、そんな甘っちょろいことではないことは理解している。)

おそらく、かつての彼女が住んでいた町はこんな様子だったのではないだろうか。

だが、社会が豊かになって、他所の世界の情報が目に入ると、自分の住んでいる世界が絶対的な存在ではないことが分かる。

だから、無条件に地域の仲間を信頼して、安心感のある生活を送ることはできない。

また、他所の世界と自分を比較することになるので、経済成長から取り残されている地方在住の彼女は、成長著しい都会の人を見て、自分が取り残されている気分になり、「このままでいいのか?」、「自分も何かやらなきゃ!!」という焦燥感が溢れているのではないだろうか?

現地の悪質なブローカーやリクルーターは、その焦りに付け込んでいるのではないかと私は思う。

新興国の人が「日本で働きたい」と思う理由がこの「焦り」だとしたら、これを止めるのは簡単なことではないと思う。

今度、同じような機会があったら、「日本へ来るな」とは言うが、せめて対案として「別の国へ行く」ことを勧めるべきかもしれない。

まあ、幸か不幸か、私の前には彼女を最後に「実習制度で日本へ行きたい」と言う人は現れていないが。