ペンパルサイトで出会った忘れられない人たち④(イギリス人ラジオパーソナリティーの不安編)

前回まで3度に渡り、今でこそ連絡を取っていないものの、ペンパルサイトで出会った忘れられない人たちを紹介してきた。

紹介したい人は他にもたくさんいるが、今回の連載は今日で一旦終わりにする。

・相手はどんな人

・居住地:イギリス

・出会った時の年齢:45

・性別:男性

・職業:スーパーの品出し兼ラジオパーソナリティ

・交流期間:8ヶ月+α

彼が私にコンタクトを取ったのは今から4年前の2017年である。

彼はスーパーで商品陳列の仕事をしていた。

私もかつてスーパーで働いた経験があるため、日英のスーパーの違いを基にして話に花が咲いた。

彼の日常はスーパーで働くことであるが、それはあくまでも生計を立てる手段である。

彼は週1日、地元のラジオ局で働き、パーソナリティーとして自分の番組を持っている。

スーパーで働く人たちとは表面的な付き合いしかないが、ラジオ局で働く仲間たちとは休日も共に過ごすことが多く、彼にとってのホームベースは完全にそちらの方である。

彼が番組で取り上げているネタは主にローカルニュースや地元のイベントである。

彼が私に送るメールの話題も、その番組についてのものが多かった。

たとえば、新しく開設したショッピングモールや、地元で行われているバイクレース、全国大会に出場した地元のクリケットチームの紹介などである。

また、番組の内容だけでなく、スタッフとの打ち合わせや、仕事以外の場でも頻繁に食事へ出かける様子も教えてくれた。

彼はラジオ番組の関係者と良好な関係を保っていて、そこが本来の居場所なのだろう。

・突然の問いかけとバックレ

彼は12週間に一度のペースでメッセージを送ってきた。

当時の彼は45歳だった。

以前の記事でも書いたが、中高年の男性とは毎日のように連絡を取ることはないが、毎日連絡する相手よりも、結果的に長く連絡を取り続けることになる。

「きっと、彼も同じように長期的に安定した関係になるだろう」

そう思っていた。

だが、ある時、彼との間に亀裂が生まれるかもしれないできごとがあった。

前年の2016年に国民投票が行われた結果、イギリスがEUを離脱することになり、当時は脱退へ向けた政治的手続きが行われていたのだが、彼はイギリスがEUを離脱することで、国だけでなく、自身の将来を案じていた。

それ話自体はただの世間話だと思っていたが、「将来が不安だ」とか「人生が終わるかもしれない」といった、並々ならぬ悲壮感が漂う内容で、詳細など知るはずもない外国人の私に「イギリスは将来どうなると思う?」と聞いてきた。

それまで政治の話などしたことは一度もなかったが、彼の問いかけを無視するわけにもいかないため、一般論を述べた。

口では偉そうに、他国との協調よりも自国の利益を主張する反グローバル主義や、経済活動やライフスタイルの自由化よりも伝統を主張する民族主義といった考え方は日本にも存在するが、彼らが本気でそんなことを考えているのかは疑問である。

彼らは労働者としての立場では声高に古き良き社会への回帰を望んでいる(つもりだ)が、規制緩和の影響で規模を拡大させ、非正規労働者や外国産の低価格商品無しには成り立たない大型スーパーや、コンビニ、100円ショップ、チェーン飲食店といった伝統に反した存在を批判するどころか、消費者として迎合している。

イギリスでEU離脱を主張している人も大半はこのような「なんちゃって(お笑い)保守主義者」なのではないのか?

離脱に賛成票を投じた人たちが、本気で国を憂えているのかは疑わしい。

このようなことを英語で書いたのだが、この意見に対する彼の返事はなかった。

もしかして、彼は離脱賛成派の人で、私の意見は彼の意に沿わなかったのだろうか?

・唯一の居場所と仲間を失うかもしれない

彼の返事が途絶えて1ヶ月が経過した頃、私の方から最近の状況を尋ねるメールを送ることにした。

すると、彼は前回の質問など忘れたかのように、以前と同じくラジオ番組中心の話題となった。

前回のイギリスEU離脱のネタはおそらく国内でも連日報道され、前例がないことでもあるため、彼も少々ナーバスになっていたのかもしれない。

彼はそれからもラジオ番組の話を続けた。

しかし、彼はEU離脱時と同様に、将来に対する悲観的な考えを訴えることが増えてきた。

たとえば、日本でも以前話題になった「老後資金2000万円問題」のように、「高齢者が安心して暮らすためにはいくらの貯金が必要なのか?」ということを番組で扱った時は「仕事を引退したくても、できない」と悩む高齢者の意見が取り上げられ、「自分も将来は彼らと同じ道を辿るのでは…」という不安を私に訴えてきた。

そして、このような将来への悲観を訴えるメッセージを送って来た後は、私がどれだけ長文のメールを送っても、しばらく音沙汰が無くなり、1ヶ月ほど時間を置いて、こちらからご機嫌伺のメールを送ると、再び以前のような安定したモードに戻るこということを繰り返すことになる。

ある時、いつものように自身の将来を悲観するメッセージが送られてきた。

今度の悩みは「社会から孤立している独居老人」から生じた。

それを聞いた私は「あなたにはラジオ番組を通してたくさんの仲間がいるから、その心配はないのでは?」と言ったのだが、彼によると、彼が担当している番組は終了する噂があるらしい。

「もしも、番組が無くなったら、居場所も無くなる…」

これが今の彼の最大の悩みのようだが、私にはその悩みがどうもピンと来ない。

「たとえ、ラジオ番組という経済的な利害関係が消滅しても、付き合いが続くのが友達ではないのだろうか?」

そのように答えると彼はこんなことを言ってきた。

イギリス人男性:「それは正論だけど、彼らがそうしてくれるという自信が持てないんだよ!!」

それを言っちゃあ、おしまいだよ。

と、ドラえもんのように言いたくなったが、これは彼にとっては大事(おおごと)のようである。

彼には家族が一人もいないらしい。

独身で、兄弟はおらず、両親は10年以上前に他界している。

また、週4日働いているスーパーでは心置きなく付き合える仲間は一人もいない。

そんな中で、パーソナリティーを務めるラジオ番組だけが、彼の唯一の居場所であり、番組が廃止されてしまえば、自己の存立をも脅かされてしまう。

そして、番組関係者は彼が「仲間」と呼べるような唯一の存在だからこそ、番組終了後にも、これまでと同じ関係を保てるかどうかが気になってしょうがない。

それを聞いて「なるほどなあ」とは思ったが、私にはどうすることもできない。

結局、いつものように今回の件も自分の意見を伝えたが、彼から返事が来ることはなかった。

1年後の追伸

その後は私の方も連絡を自重していたため、彼と再会したのは1年以上経過した2019年だった。

幸い、彼が担当している番組はまだ続いていた。

そして、彼はなんと…

結婚していた。

これで彼が将来への不安を口にすることも無くなるのかもしれない。

もっとも、2021年現在の私であれば、「結婚こそ生活における経済性も親密性もすべてを一人の相手に求めるわけだから、より特定の相手に対する依存が強まり、それを失う恐怖に怯え続けるのでは…」などと無粋なことを口走ってしまうかもしれないが、そんなことなど考えもしなかった当時の私は心から祝福した。

結局、それが彼との最後のやり取りになってしまったが。

それ以来、彼からの連絡はないが、今の彼は無事に暮らしているのだろうか?

まあ、私へ連絡しないことは、「どこの誰とも分からないような外国人に悩みを打ち明ける必要がなくなったからだ」と良い方に考えるようにしようと思う。

さて、今日まで4度に渡り、私がこれまでペンパルサイトで出会い、今でも忘れることができない人たちの話をしてきた。

記事の冒頭でも説明した通り、今回のシリーズは今日で終了となるが、他にも紹介したい人はいるので、機会があれば第2弾をやろうと思う。

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