先日、この記事を読んだ。
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1907/22/news085.html
要約すると
news zeroで学校教員の過重労働が取り上げられる。
↓
小学校教師の丸山瞬氏は勤務時間外は各機関や親が対応すべきで、「勤務時間を超えて教員がやることは、おそらく今後なくなっていくんじゃないか」とコメント。
↓
これに対し、同番組に出演していた若槻千夏氏がドラマ「ごくせん」や「3年B組金八先生」といった熱血教師を例に挙げ、勤務時間内のみしか対応してもらえないことに「寂しい」と発言。
↓
この発言に対して、ネット上では「教師やってみればいいと思った」「先生って本当に大変だと若槻さんには知ってほしい」「本当に教師の仕事わかってないな」などと批判が殺到。
↓
その結果、若槻氏はInstagramで自身の発言を謝罪。
私がこの記事を読んで率直にこう思ったこと。
架空の世界の人物を理想として掲げて、「あんたたちもこれくらい働きなさいよ」と要求するのは「あんたは現実の教師の何を知っているんだ!!」とバッシングを受けるのも当然であろう。
ただ、私は、このような保護者(若槻氏は子ども二人の母親である)の発言に対して金切り声を上げて「モンスターペアレンツから先生を守れ!!」と噛みついてモンスターペアレンツバッシングを行う、通称「モンスターペアレンツバスターズ」が本当に教師の味方なのかはかなり疑わしいと思っている。
・教員の生活を脅かす2つの事件(?)
学校に理不尽な要求をするモンスターペアレンツの存在が広まったのは随分と前のことである。
フジテレビで「モンスターペアレント」が放送されたのが、今から10年以上前の2008年である。
それ以前も報道番組でたびたび話題になっていた。
それが取り上げられるたびに、身勝手な保護者を許さんとする「モンスターペアレンツバスターズ」が自然発生的に形成されて、「学校にイチャモンをつけるモンスターから先生を守れ!!」の大合唱が起こるのだが、
などという教員の声は聞いたことがない。
そもそも、教員に過重労働を押し付けているのは保護者だけではない。
ここで2つの例を紹介しよう。
①埼玉県職員退職前倒し問題(2013年)
http://blog.hitachi-net.jp/archives/51406883.html
2013年2月から埼玉県職員の退職金が減額されるという条例を定めた。
そのため、年度末の3月で退職しようとすると退職金が減額されてしまう。
これではたまらんと思った110人の教職員が1月末で早期退職を表明した。
その金額について記事の一部を引用する。
勤続35年以上、月給41万円の標準的な教職員の場合、1月末に早期退職した場合、退職金は月給の59.28か月分で2430万円も支給されます。
一方、通常通り3月末に定年退職した場合、3.42か月分減額され月給の55.86月分となり、退職金は2290万円となります。このため早期退職した方が、退職金が140万円多くなり、退職して失った2月と3月の2か月分の給与、合わせて82万円を差し引いても58万円、手取りが多くなります。
なるほど。
年度末まで勤務することを選んだ人たちは、2ヶ月間も長く働くにもかかわらず、受け取る金額が減ってしまう。
これでは多くの教員が「1月末で辞めよう」と考えてしまうのも無理はない。
彼らにも生活がありますからねえ。
私も同じ立場なら躊躇なく早期退職の道を選ぶ。
これに対して上田埼玉県知事は
世間的にも批判があるだろうし、特に担任を持っている先生が辞めるのは不快な思いだ。担任の先生が3月まであと2か月のところで辞めてしまうのは、間違いなく困ってしまうので、無責任のそしりを受けてもやむをえない。
いや、「無責任」とか言ってますけど、それは不払い労働の強要とも取れかねない危険な発言ですから。
清々しいまでの「やりがいの搾取」である。
②息子の入学式に参加するために、勤務先の入学式を欠席(2014年)
2014年に埼玉県の高校教員が長男の高校の入学式に参加するために、自身の勤務する高校の入学式を欠席(有給の申請はしている)。
埼玉県では他に3人の教員が同様に自身の子どもの入学式に参加するために休暇届を提出。
https://www.huffingtonpost.jp/2014/04/13/reason-of-absence-entrance-ceremony_n_5141176.html
https://blogos.com/article/84608/
子どもの入学式は家族にとって大事なイベントである。
その行事に自分も参加したいと思うのは親として当然である。
しかも、きちんと有給の申請も行っていた。
だから、非難される筋合いなど全くない。
それに対して、
関根郁夫県教育長は11日に開いた県立高校の校長会で「担任がいないことに気付いた新入生や保護者から心配、不安の声が上がった」と、この事実を報告した上で「生徒が安心して高校生活をスタートできる体制づくりと心配りに努めてほしい」と異例の“注意”を促した。
・バスターズよ、さあ、立ち上がれ!!
普段から「モンスターから先生を守れ!!」と叫んでいるモンスターペアレンツバスターズの皆さんはこの2つの事件を聞いてさぞかし憤っていたことだろう。
これまで一生懸命お仕事をされてきた先生を「無責任」呼ばわりとは。
これは許せませんねえ?
先生のことをナメてますねえ?
先生の人生を何だと思っているんですかねえ?
さあ、バスターズの皆さん「モンスターペアレンツから先生を守れ!!」と言っている時と同じように
モンスター行政から先生の権利を守れ!!
先生だって人間なんだ!!
先生のご家庭のことを考えろ!!
現場を知らない奴が勝手なことを言うな!!
と思い切り吠えてやってください。
あれれ~、まさか「先生なんだから退職金が減っても年度末まで続けてよ!!」とか「先生なんだから息子の入学式よりも、自分の担当するクラスの入学式に出席するべきである」なんて言いませんよね?
それじゃあ、若槻氏と同じですよ。
・モンスターペアレンツバスターズが守りたいもの
さて、冗談はこれくらいにして本題に戻ろう。
私はモンスターペアレンツなんかよりも、このように教員を聖職者とみなしている人間の方が遥かに教員へ過重労働を押し付けていると思っている。
というわけで、私は、この2つの事件(?)はモンスターペアレンツバスターズが、本気で「(教員という一人の)人間を守りたい」と思っているのかを判断する材料として使えるのではないかと思った。
本当に教員を過重労働から救いたいと思っている人は、上田知事や関根教育長のように、「聖職者で先生が個人の権利を優先するなんて許せない!!」などと言えるはずがないし、そんなことを考えているのであれば、それこそ、先ほどの若槻発言と同じであり、そんな人間に彼女のことを「モンスターペアレント」などと誹謗する権利はない。
そんなことを考えずに「モンスターペアレンツをやっつけろ!!」と憤激しているバスターズもいるだろうが、それは個人の権利を主張することで「学校」という聖域を穢すモンスターペアレンツから、聖職者である「せんせい」を守りたいのであって、教員という一人の人間を守りたいわけではない。
当然、聖職者である「せんせい」とは自分の生活を捨てて児童生徒に奉仕する人間のことである。
そのため聖職者には相応の振舞を求めるし、先ほどのような「退職金を減らされるから、その前に辞めます」とか「子どもの入学式に参加したいしたいから、有給を使います」というような、聖職に反すると(勝手に)みなした行為に対しては教員に対しては「裏切られた!!」と思って、モンスターペアレンツバッシングと同等の攻撃を仕掛けるのである。
また、バスターズ過激派の中には「たとえ、正論であっても、(神聖な)学校に苦情を入れるヤツは全員モンスターだ!!」と思っているバカ者もいる。
どの宗教でも同じだろうが、このように過激派な宗教観を持っている人ほど、裏切られたと感じた時の反動は大きく、憎しみに満ち溢れて過激な復讐に走る。
というわけで、全国の教職員のみなさんに伝えたい。
彼らの中の少なくない人たちは、あなた(とその家族)を守りたいのではなく、聖職者としてのあなたを守りたいのであって、彼らが(自分勝手な)期待を裏切られたと感じたら、必ず牙をむいてあなたを襲いますから。