アルバイトの契約社員登用はいいことなのか?

前回までは「正社員やパート、アルバイト、それから派遣社員のような一時雇用者をどのように外国人へ伝えるか?」という内容だった。

その記事を読んで、ある疑問を持った人がいるかもしれない。

“どうして「契約社員」が入っていないの?”

その理由は私が「契約社員」という働き方についてよく知らないからである。

・ウチ(この会社)で契約社員にならないか?

(注:この項目では契約社員の方、もしくはなりたい方が読むと不快に感じる文章があります。見たくない方は次の見出しまで飛ばしてください。)

これは私がスーパーでアルバイトを始めて1ヶ月ほど経った時に店長から言われたセリフある。

バイト先の店長:

君は真面目に働いていると思う。

だけど、もう少し仕事に積極的になってほしいなあ。

ウチが欲しいのは指示がなくても、自分から行動できる人材なんだよ。

バイトではそれでいいかもしれないけど、そんなんじゃ、契約社員にはなれないよ。

は!?

別になりたくないし…

そもそも、この仕事は留学資金を稼ぐために始めたのであって、仕事に本気で取り組むつもりなら最初から正社員の仕事を探しますが・・・

次は私が派遣会社を通して仕事先へ顔合わせ(という名の違法面接)に行った時に面接担当者から言われたこと。

面接担当者:

ウチでは派遣社員やアルバイトの方でもやる気と能力があれば、積極的に契約社員への移行を行っています。

だから、一生懸命頑張ればあなたにも直接雇用のチャンスは与えられます。

もちろん、会社のことを第一に考える人であることが条件になりますけどね。

いや、別に契約社員になりたいなんて思ってないし・・・

私が派遣社員としてこの仕事に応募した理由は、バイトで働くよりも時給が高くて、正社員よりも気楽に働けて、自分が辞めたくなったら契約終了のタイミングでスムーズに辞めることができるからであって、いつまでもこの会社で働きたいなんて思っていないのだが・・・

なぜ彼らは、私が「契約社員になりたいはず」だと信じて疑わないのだろうか?

しかも、自分が恵んでやっていると言わんばかりの超上から目線で。

実はこれらとは別にバイトや派遣として半年程勤続した仕事先から、「契約社員にならないか?」と誘いを受けたことがある。

しかし、すべて断った。

だって、私には契約社員として働くことのメリットが全く分からなかったから。

(自画自賛に聞こえた方、契約社員になりたいのになれずにいる方、ごめんなさい)

・契約社員で働くメリット

そもそも契約社員で働くメリットとは何だろうか?

正社員なら会社から厳しく拘束されるが、引き換えに年功賃金や終身雇用、定期ボーナスなどの福利厚生が与えられる。

パート・アルバイトの場合は給料が低いものの、シフトの融通が利き、責任のある仕事を負わされることもない。

派遣社員は短期の契約更新を続けながら働くので不安定ではあるが、アルバイトよりも時給が高く、企業との間に派遣会社が入るため正社員のような労働法違反の命令を受けることはない。

実際はすべてがきっちりと守られているわけではないだろうが、大体こんな感じで間違いないだろう。

では、契約社員はどうだろうか?

・アルバイトに比べたら時給は高いが、正社員と比べるとかなり低い。

・派遣社員と比べたら契約期間が長く、また直接雇用のため安定しているように見えるが、他所の人扱いの派遣社員と違って、正社員同様に会社を第一に考えなければならない(もしくはそういうフリをしなければならない)。

・意外に思う人もいるかもしれないが、派遣社員よりも給料が低いこともある。

・正社員よりも簡単に職に就けるかもしれないが、その他は正社員と比べていいと思うところが見当たらない。

考えついただけではこんな感じである。

正社員、アルバイト、派遣はそれぞれにメリットとデメリットがはっきりと分かれているので、自分の都合に合わせて働き方を選べばいいのだが、「どうしても契約社員として働きたい」と思う理由は私には見当たらない。

・今まで一緒に働いた契約社員はどんな人だったのか?

私が初めて契約社員の人と一緒に働いたのは22歳の時だった。

当時の私は工場でアルバイトをしていたのだが、私の上司にあたる男性は契約社員だった。

私が彼らと出会う前に「契約社員」という言葉に抱いていた印象はこんなものだった。

契約社員のイメージ:それなりの仕事を任せられているが、勤務地、職種、勤務時間は限定されており、職場には常に正社員の上司がいて、責任は常に正社員が負う。

しかし、私は彼らを見て思った。

「え!? この人たちは契約社員なの? 他所の会社の正社員と全然変わらなくない?」

実際に彼らは正社員にありがちな会社の都合による突然の出勤日の変更、休日出勤、急な頼まれ仕事などを行っており、私たちパートも彼らのことを「社員」と呼んでいた。

だが、彼らは入社してから3年間は1年ごとの契約更新が必要で、自分のことを「正社員」と名乗らなかった。

ちなみに入社から無事3年が過ぎて正社員になったとしても、特に待遇が変わることはないらしい。

私はその話を聞いて思った。

心の声:「正社員は解雇されないことと引き換えに、会社から言われたことを何でも受け入れている義務を負っているわけだけど、その中から会社にとって都合のいい部分だけを守って、会社都合の解雇は有り得るなんてズルくない?

言い方は悪いのだが、私は契約社員とはフリーターに少しばかりの小遣いを上乗せして、社会保険に加入させる代わりに、正社員の面倒ごとをすべて押し付けられた人たちのように思えた。

もしかしたら、この会社がおかしいだけなのかもしれない。

当時はそのように思ったこともあった。

しかし、その後も何ヵ所か別の職場で契約社員の人たちと一緒に働いたが、ほとんど同じような「義務だけ正社員」だった。

彼らは正社員と同じく会社の都合で勤務地や勤務時間を変えられていたが、最低賃金+100円位の時給で働く人も珍しくなかった。

残念ながら、私が最初に契約社員の人を見て思った「フリーター+小遣い+社会保険で正社員の面倒ごとを引き受けさせられている人=契約社員」というのは間違いではなかった。

・良い所もなくはない

否定的なことばかり書いたが契約社員にも良い所は無くはない。

①:正社員に次いで社会的な評価を得られることが多い。

②:頑張れば正社員になれると思うことができる。

まず①についてだが、契約社員はプチ正社員としてのイメージがあるのか、ローンや入居審査に通りやすい。

私は派遣社員として働いていた時に賃貸の入居審査に落ちたことがあるのだが、その時に不動産屋に「正社員とまではいかなくても、せめて契約社員なら通ったかもしれません」と言われたことがあった。

については本人の気持ちの問題なので私が付け加えることは何もない。

どう思うかは本人の自由である。

・契約社員の今後

これまでの数十年は労働者の削減と、アウトソーシングがトレンドだったが、最近は人手不足の影響もあってか、直接雇用の拡大が主流になっている。

私が働いていた業界ではバイトや派遣の契約社員登用の広告が社内の至る所に貼られ、私の同僚も実際に契約社員に登用されたケースがあった。

だから、これからは契約社員として働く人が増えるだろう。

日本中でこのような家族の会話が多く聞かれるかもしれない。

フリーターA:「父さん、母さん、僕は来月から契約社員に昇進することになったよ!!」

お母さん:「あら、Aちゃん、おめでとう!! このまま頑張れば将来は正社員になれるのね」

お父さん:「これでようやくフリーターから足を洗えるな。お前も立派な社会人だ」

   って、この契約社員登用があたかもいいことであるかのように言われているが、私はそうは思わない。

そんなに人手不足で働き手を確保したいと考えるのなら、なぜ最初から契約社員ではなく正社員として雇わないのか?

以前、某飲食店の人手不足が問題になった時に正社員への果てしなく遠いキャリアステップが話題になった。

アルバイトCrew→CAP→CF→(ここからが契約社員)店長→複数店舗担当→正社員

それって、もはや正社員というよりも役員じゃねえ?

口では「人手不足だ!!」と言いながら、従業員を解雇することなく長期間雇い続け、手取り足取り仕事を教えながら育てるという責任を放棄して、従業員を無限定に働かせることができる日本型雇用のいい面は維持しようなどとは虫が良すぎではないだろうか?

なぜ彼らはそこまでして正社員の雇用の責任を持ちたくないのだろうか?

「僕は君のことが大好きで、ずっと一緒に居たいけど、結婚して重い責任を負わされるのは嫌だから、僕のセフレになってください!!」

とほざく身勝手な男を見てあなたはどう思うだろうか?

これは笑いごとではなくて、真剣な話である。

・「ジョブ型正社員を導入しよう」というけれど…

ここで少し、政治的な話をさせてもらいたい。

2013規制改革会議 「正社員改革」の柱として「ジョブ型正社員」を増やすことが打ち出された。

私たちが「正社員」と聞いて思い浮かべる

・長期雇用(終身雇用)

・年功賃金を含む手厚い福利厚生

・勤務地、勤務時間、職種に対する無限定の拘束

といった特徴は「メンバーシップ型雇用」と呼ばれる。

一方で、「ジョブ型」とは「どこで、どんな仕事をするのか」は事前に決められており、使用者の都合で一方的に変更されることはないが、仕事が消滅したら解雇される。

日本の場合、非正規雇用が「ジョブ型」に近いが、賃金が低く、福利厚生の面でも最低限の生活を送ることが困難であることが多く、この2つがあまりにも極端であるため、間を取って、「ジョブ型の正社員を導入しよう」と言っているのである。

これに対して、連合は(労働組合)は「耳障りの言いことを並べているが、会社の都合でいつでもクビにできる正社員を増やそうとする解雇自由化への陰謀だ!!」と大反対して「労働者保護ルール改悪阻止闘争本部」を立ち上げた。

私は「何が何でも年功序列と終身雇用を死守すべきだ!!」とか「労働者全員が長期雇用前提の正社員であるべきだ!!」とは思わないため、ジョブ型正社員の導入そのものには反対しない。

だが、「解雇自由化へ向けた陰謀だ!!」という連合の主張も理解できなくはない。

なぜなら…

ジョブ型正社員の導入など待たずとも、すでに現状の契約社員がその役割を負わされているように見えるからである。

ここまで何度も主張している通り、私は契約社員とは「正社員のような安定」は存在しないが、「アルバイトのような自由度と気楽さ」もない極めて不遇な存在だと思う。

契約社員という存在がありながら、「どうしても、ジョブ型正社員を導入しなくてはならない」という主張には説得力を感じない。

というよりも、契約社員という(雇い手にとって)都合のいい存在があるにもかかわらず、業務が限定されている人たちをあえて正社員として雇うメリットが企業にあるのだろうか?

ジョブ型社員の導入に積極的な態度を取る方には、それと契約社員がどのように両立するのかについて説明してもらいたい。

こんなところからも、私はパートや派遣社員の契約社員化は無条件に賛成はできない。

企業の従業員に対する無限の要求を認めるなら、それなりに責任を負わせなければならないが、恐らく、彼らは高福祉(高負担)の正社員をこれ以上増やすことはないだろう。

私たちがやるべきことは契約社員に「頑張れば正社員になれる」という夢を持たせることではなく、企業の無制限な命令権を規制して、文字通り「契約に書かれた仕事以外は行う必要はない」というメッセージを送り、企業に対しては「それで困るのなら責任を持って正社員を雇え!!」と要求することだと思う。

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