制度と実情

先日、将来は日本の大学に留学したいと言っている中国の高校生から、いろいろと聞かれた。

「日本の政治について学ぶにはどの大学がいいのか?」

「日本の大学はどのように留学生を受け入れているのか?」

「留学生はアルバイトをできるのか?」

正直言って、このような質問をされるのは困るのだが・・・

私は日本在住の日本人である。

だから「水道水は飲めるのか?」とか「マクドナルドのハンバーガーやコカ・コーラ500mlの値段はいくらか?」というような生活の実情は教えることができる。

しかし、この国のすべてのことに精通しているわけでない。

調べることはできても、それが正確かどうかはわからない。

だから、間違った情報を与えることもあるかもしれない。

日本の大学や留学制度について知りたいのなら、門外漢の私に聞くよりも、中国語で書かれている専門のガイドブックを読んだ方がよっぽど正確だと思う。

このように現地の人だから、その国のことを何でも知っていて、何でも正しい情報を与えてくれるというわけではない。

でも、彼の気持ちも分かる。実は私もかつて彼と同じことをしていたから。

・ペンパルサイトを使い始めた理由

私がペンパルサイトを使い始めたのが2015年。

当時の私はワーキングホリデービザを使ってオーストラリアに行くことを計画していた。

手っ取り早くビザが取得できて、正確な金額は覚えていないが、当時のオーストラリアの最低賃金が日本円で時給1400円程度と高額だったことが魅力的だった。

旅行や観光は一切興味がなく、第一の目的は就労、次に賃金、というわけでオーストラリアを選んだ。

私がオーストラリアに行くことの一番の目的は働くため。

だから、現地の人からオーストラリアの労働制度の情報を集めようとしてInterPalsを始めた。

そこでオーストラリア人を探して、次々と質問した。

「オーストラリアで仕事を探すにはどうしたらいいのか?」

「銀行の口座はどうやって作るのか?」

「セカンドビザを取得するためのファームはどこで調べればいいのか?」

しかし、彼らは最初の方こそ返答してくれたものの、次第に返信しなくなってきた。

今になって考えてみれば、これは当たり前である。

彼らは仕事斡旋の専門家ではないため、私が聞きたいことをすべて知っているわけではない。

次から次に質問される度に、調べるのは莫大な労力がかかる。

それに、ネットで知り合っただけで、どこの誰だか分からず、明日にはバックレる可能性のある人物のためにそこまで手をかけて調べる義理もない。

そもそも、これらの情報は日本語で書かれた本やブログで調べることができる。

だから、必ずしも現地の人から制度について学ぶ必要はなかったのである。

・制度を知った後で実情を確認する

制度を知りたいのならば、日本語で書かれた情報を集めればいいのだから、わざわざ現地の人に聞く必要はない。

しかし、制度と実情は必ずしも一致しない。

制度を知った後で、現地の人に確認することは必要だと思う。

たとえば、日本の法律では企業が従業員を採用する時に、年齢や性別を理由に差別することは原則禁止されている。これは「制度」の話である。

しかし、だからと言って、日本の労働者は自分たちが法律によって年齢、性別の差別から守られていると思っているのだろうか?

そもそもこの法律は本当に機能しているのか?

恐らく、この法律があることを知らない人も多いと思われる。

知らないだけなら、明日から気をつけてくれればいいのだが、たとえ知ったとしても、それを守ろうという意思が生まれるとは私には思えない。

「だって、みんなやってるもーん。ウチだけ馬鹿正直にそんなもの守る必要ないでしょ?」

これが「実像」である。

このように制度が存在することと、その制度が機能していて、人々がそれを当然だと思うことには大きなギャップがある。

これはオーストラリアも同じで、たとえ魅力的な制度があっても、それを平然と破る会社、日本でいうところのブラック企業は存在して、ワーキングホリデービザを使ってオーストラリアで働く機会を得たものの、最低賃金以下で長時間労働をさせられた日本人がブログでその体験を紹介している。

だから、制度を知ればそれだけで十分ということはなく、実情については現地の人に確認してみるほうがいい。

私の場合では

「オーストラリアにはこのような労働法があるものの、それに反して、このような違法労働を強いる職場もあると聞いたが、このような話は聞いたことがありますか?」

「あなたは今までこのような会社で働いた経験はありますか?」

このような形で質問すると彼らも答えてくれた。

質問に答えるだけでなく、違法労働で摘発された農場や日本の労働基準監督署のような相談先など、現地の人ならではの情報も教えてくれた。

このように外国のことについて現地の人から話を聞きたいときは、自分が知りたいことは「制度」なのか「実情」なのかを考えてみて、「制度」は自分で調べて、それが本当なのかという「実情」を聞いてみたらいいと思う。