・仕事中に襲ってくる怪物
今の仕事に就いたばかりの頃は、午前11時頃になると怪物に襲われるような気がして仕方がなかった。
その怪物は前触れもなくやって来て、私を大いに苦しめた。
そいつのことを考えると仕事が全く手に着かない。
その怪物とはパワハラ上司のことでも、悪質なクライアント(乞客)のことでもない。
その怪物とは空腹でお腹が鳴る音のことである。
今の私は事務の仕事をしている。
ご想像の通り、その仕事は常に椅子に座って行う。
これも私が苦んだ要因だと思う。
質の悪いことに、お腹の鳴る音はおならとは違って、いつ襲ってくるのかわからない。
その上、我慢して抑えることもできない。
しかも、一度で終わらず、立て続けに何度も発生する。
人から見れば笑い話かもしれないが、私は本気で「仕事を辞めよう」と思うくらい悩んでいた。
・増え続ける朝食
そもそも、なぜ空腹になるとお腹が鳴るのか?
これは空腹で胃の中身が空っぽになると、胃が縮むので、その縮む音が「グー」と鳴るかららしい。
思い返せば、私がこの怪物に襲われ始めたのは今から3年前の2016年の秋だった。
当時の私は軽作業の仕事をしていた。
その仕事は指定された食材を箱に詰めて商品を作ることであり、仕事開始時間は午前8時で、昼食に出かけるのは13時前だった。
午前中の勤務時間は約5時間。
私がこれまで働いてきた別の仕事と比較するとかなり長い。
それでも、仕事を始めた時はお腹の音など気にすることはなかった。
しかし、11月になると急に空腹に襲われることが多くなった。
しかも、11時前のような早い時間帯に。
そこで私は朝食を増やすことにした。
それまでの食パン2枚に加えて、5玉100数十円で売られている小さなあんぱんを2玉食べるようにした。
だが、効果はほとんどなかった。
私は知り合いに相談してみることにした。
彼は「パンは軽食だから栄養にならないのではないか? パンではなくご飯を食べるようにしたらどうか?」と言った。
なるほど。
そういえば、私はこれまで栄養のことなど考えたことは一切なかった。
私はスーパーへ買い物に行って、初めて食品のカロリー表示に目を通すことになった。
たしかに、1個当たりのカロリーはパンよりも、おにぎりのカロリーの方が高い。
しかし、私はこれまでずっとパンを朝食にしてきたので、朝からごはんを中心とした和食に切り替えることはできなかった。
というわけで、これまでの食パン2枚、あんぱん2玉に加えて、おにぎり1個を毎朝食べるようになった。
・突然、空腹に襲われた理由
これで「対策十分!!」
のつもりだったが、残念ながら、これもほとんど効果はなかった。
それまでと比べて30分延命できたくらいで、根本的な解決にはならなかった。
それに何よりも、毎朝、大量の朝食を食べることがしんどくて仕方がない。
結局、その職場にいる時は最後まで、お腹の音に苦しめられることになった。
今になって思えば、あの時、腹がグーグー鳴っていたのは、職場環境と私の服装にあったのだと思う。
その職場では食品を扱うため、冬でも暖房をつけることができなかった。
他のスタッフは気温が下がってくると私物のジャンパーを着ていたが、私はそんな服装では動きにくくなると思いジャンパーを着なかった。(そもそも会社から指定されている黒いジャンパーを持っていないという理由もあるが・・・)
このようなことから、当時の私の体温はかなり低下していたと思う。
ご存知の通り、人間は恒温動物なので、寒い環境にいれば、自動的に体温を保とうとするメカニズムが働く。
私はその過程でかなりのエネルギーを消費していたのだろう。
だから、気温の下がる秋頃から、私の腹が悲鳴をあげていたのは当たり前だったのかもしれない。
・怪物退治作戦
次の年は別の会社で同じような仕事をすることになった。
相変わらず、冬場は辛かったが、立ち仕事だったので「ヤバイ」と感じたら、仕事のフリをしてその場を離れることで何とか乗り切れた。
しかし、現在の仕事はずっと椅子に座っていなくてはいけない。
自由にトイレへ行くことはできるが、短時間に何回も行くわけにはいかないし、長時間トイレに居座ることもできない。
逃げ場がない状況でお腹の鳴る音に怯えるのは地獄と言ってもいい。
私がこの状況でできることは咳をしたり、大げさに引き出しを開け閉めして音を出すことで、お腹の鳴る音を誤魔化すことくらいだった。
そんな状況だったが、最近になってようやく対処法を見つけることができた。
それは早弁(はやべん)である。
いろいろ考えたが、腹の音を抑えるには、やはり何かを食べることしかない。
幸い、私の勤務先のロッカーは仕事場とトイレの間にあるため、トイレに行くふりをして、こっそりと立ち寄り、小分けにして袋に入れていたパンを食べることができる。
決して、多くの量を食べるわけではないが、それだけでも腹持ちは全然違う。
ちなみ、「自分の職場のレイアウトでは同じことができない」という人には次のような作戦がおすすめである。
①:同僚に体調不良と朝食が食べられないことをアピールする。すると相手は体調を心配して、早く病院に行くことをすすめる。(たぶん)
↓
②:実際に病院に行っても、行かなくてもいいが、アリバイが必要だと思う人は別の症状を理由にしてもいいので病院へ行く。
↓
③:体調を心配してくれる同僚には「病院で検査を受けた結果、〇〇(胃でも腸でもいいので)の病気の疑いがあると診断された」と伝える。ここで「疑い」と言うのが重要である。
↓
④:「このような症状があり、医者から〇〇の疑いがあると言われたので、朝食をまとめて食べることができません。でも、それだと体力が持たないから勤務時間中に簡単な食事をしてもいいですか?」と上司に相談する。
↓
⑤:上司は体調不良で退職されたり、無理をさせて病気になった時に責任を追及されることを嫌うので、それくらいはやむを得ないと認める。(たぶん)
↓
⑥:数週間経って、上司から「病気はまだ深刻なのか?」と聞かれたら、「今回は特に治療や投薬が必要ではなかったけど、無理はせずに、毎年の健康診断もきちんと受けてください。と言われました」と答える。このようにして、後々、病気について突っ込まれることを回避する。
↓
⑦:人間は始めこそ抵抗があることでも、一度慣れてしまえば、その抵抗は簡単に消滅するものである。だから、たとえ大病にかかったわけでなくても、何気ない顔で堂々と勤務時間の食事を続けても、それが当たり前になる。(たぶん)
・まとめ?
かくして、仕事中に私を襲う怪物に打ち勝つことができた私は今日も安心して職場に向かうことができる。
・・・って、何だかとてつもなく壮大なプロジェクトのように聞こえるが、まともな考えをお持ちの方なら、こう思うだろう。
「そんな面倒なことしないで、普通に『お腹が空いたから、ごはんは食べてもいいですか?』って言えばいいじゃねえか!?」
果たして、私は仕事中に食事を取ると
「ふざけんな!!この給料泥棒!!」
と周囲から袋叩きにされるような職場で働いていたのだろうか?
最初の職場は衛生面でうるさい場所だったので難しかったかもしれないが、その次の職場では当たり前のように作業場で(休憩時間外でも)ごはんを食べている人はいた。
そのため、私も「10時になったので、5分くらい休憩してもいいですか?」と言って、コーヒーでも飲みながらパンを食べればよかったのだ。
何でそんなことすらできなかったのだろうか・・・
これは私の悪い所なのだが、仕事で付き合う人はどうしても「お金を通した関係(使うー使われる)」という図式が頭から離れずに身構えてしまい「職場の仲間を信用しよう」とか「自分の弱さを打ち明けよう」といったことができない。
だから、所定の休憩時間でもないのに自分から休憩を申し出るということは、よほどの体調不良でもない限りはできない。
これは誰のせいでもなく、完全に私自身の問題である。
みなさんはそうならないように、仕事中にも自由に食事ができるくらい心から信頼できる仲間と一緒に働けることを願っている。
(追記:その後、些細な偶然から、空腹問題の解決策が見つかった。詳しくはこちら)