熱意は結果を保証しない②:履き違えた保護欲が守りたい人を退職に追い込む

今から4ヶ月前に「熱意は結果を保証しない」という内容の記事を書いた。

熱意を持って仕事に取り組んでも、物事の本質を見誤ると、自分が意図したことと全く逆の結果を引き起こしてしまう。

今日のテーマも「熱意は結果を保証しない」という言葉がそのまま当てはまる内容なので、前回から数ヶ月の期間が開いてしまったが、その続きという扱いにさせてもらいたい。

本日、私が紹介したいのは

「新入社員が可愛くてしょうがない社員の度が過ぎた愛情が結果的にその人を退職へと追い込んでしまった」

話である。

この見出しを読んだ人は、優秀な新入社員に期待しすぎて厳しく接し過ぎ、うつ病を引き起こして退職に追い込まれた話や、甘やかした結果、本人が堕落した話を想像したかもしれないが、そのような話ではない。

もちろん、愛情を受け取ってもらえなかった人間がストーカーと化して引き起こした事件の話でもない。

彼はとにかくその新入社員のことが好きで、いつも彼女を守ろうとしていたのである。

だが、その結果、彼女は退職することになってしまった。

・スケベ爺の一目惚れ

今から5年以上前、私は工場で働いていた。

その時の同僚に50代後半の男性(仮名:爺)がいた。

彼と私は入社時期が近く、よく同じ仕事をしていた。

そのため、仕事以外にもいろいろな話をすることも多かった。

私たち働き始めて半年程経過した時、職場が人手不足になり、社長の取引先の親族の女性が事務員として働くことになった。

ちなみにこの女性(仮名:事務員さん)、新卒ではなく中途での入社であり、26歳の既婚者で子どももいる。

爺は彼女に会った時に一目惚れしたようで、私に彼女がどんな人なのかを説明する時に「テレビに出ているような綺麗な人」と表現していた。

彼女は事務の仕事をしていたため、現場作業の私たちとは基本的に別の場所で働いていた。

それでも、爺は彼女にメロメロで、暇さえあれば彼女の話をしていた。

「事務員さんは仕事を覚えるのが早い!!」

「事務員さんは可愛い!!」

こんな様子で、本人がいない所でも常に鼻の下を伸ばしていた。

この程度の片思いならまだマシなのかもしれない。(本人には迷惑かもしれないけど)

スケベ爺の歪んだ愛情は次第にエスカレートしていく。

たとえば、こんなことがあった。

彼女が休みの日に急に本社から注文内容を変更する電話連絡があった。

その日、出勤していた社員は外出中だったため、パソコンの操作経験があるパートの女性がメールで送られてきた内容をExcelに入力してプリントアウトしたものを私たちの所に持ってきてくれた。

しかし、爺は認知能力が歪んでいるのか、

「さすが、事務員さんは仕事が早い!!」

そう言って、他の従業員に対しても、彼女の仕事を事務員さんの手柄であるかのように言い回っていた。

これを聞いた、パートの女性(実際に仕事をした人)はどんな気持ちになるだろうか。

・「彼女は俺が守る!!」の暴走

そんな日々の中、事務員さんにご執心のスケベ爺の暴走が極まった事件が発生した。

ある日、彼女が誤って翌日の注文書を出してしまったため、その日にやるべきこととは異なる作業を行っていた。

間違いに気づいたのが、作業開始から2時間が経過した頃だったため、最初の作業工程はすべてやり直しすることになった。

その際に、その作業を担当していたパートの女性がそのことについて不満を言った。

すると爺は烈火のごとく燃え上って事務員を庇った。

「事務員さんは悪くない!!」

「4人で仕事をやっているのに何で誰も気づかなかったの!?」

と言って、作業のやり直しだけでなく、倉庫まで材料を取りに行くという事務員のミスの尻ぬぐいまで他の従業員に命じた。

「事務員さんをいじめるな!!」

「事務員さんは絶対に俺が守る!!」

とでも言いたいのだろう。

しかし、その結果何が起こるのかは容易に想像できる。

この一件の後くらいから、他の従業員たちは次第に彼女の陰口を叩くようになった。

そして、彼女は子どもが崩したと言って、欠勤することが増えた。

そんな中でも、爺は

「小さい子どもは急に体調を崩すから、彼女が休むのは仕方ない。みんなで彼女のことを支えてあげてよう!! あ~、事務員さ~ん♡、事務員さ~ん♡」

と言って、他の従業員に事務員への協力を求めていた。

もっとも、他にも小さい子どもがいるスタッフはいるのだが…

・「子どもがいるから続けられない」とは言っていたが…

そんな様子で爺の度が過ぎた事務員贔屓に不満が募ったのか、他の従業員の事務員への陰口は次第に強まっていった。

そして、彼女は半年もしないうちに、

「子どもがすぐに体調を崩して会社にも迷惑をかけるから仕事を続けられない」

と言って、退職することになった。

これが本当の理由かどうかは分からない。

私は彼女が退職を表明する前に

「最近、自分だけ特別扱いされている感じがして、会社に来るのが気まずい」

と言っているのを聞いたことがある。

おそらく、彼女は自分が他の従業員から陰口を言われているのを知っていて、それに耐えられなくなり退職したのではないかと思う。

もちろん、彼女に罪はない。

しかし、「何であの子だけ!!」と不満を募らせて、悪口の一つや二つを言いたくなる人たちの気持ちも分かる。

私の仮説が正しければ、彼女が退職した原因はエロ爺の歪んだ事務員さん贔屓にある。

当の爺は

「事務員さんみたいな可愛くて頭がいい人はどこへ行っても周りから嫉まれる」

と言って、最後まで彼女を擁護していた。

彼女の本当の退職理由が人間関係なのではないかという点については私と認識が一致している。

でもね、それが事実だとしたら…

その原因はお前だろうが!?

・あえて距離を置いて接することも優しさである

本当に爺が「事務員さんを守りたい!」と思っているのなら、彼女のことを依怙贔屓するのではなく、あくまでも一人の同僚として距離を置いて接して、誰も気づかない所で一人でひっそりと彼女をサポートするべきであった。

しかし、彼は「自分が彼女のヒーローになる!!」というような歪んだ欲望を抑えることができず、それが結果的に彼女を退職へと追い込むことになった。(のだと私は思う)

これも熱意を持って行動することが望んでいたことと全く逆の結果を引き起こす事例である。

今日は31日である。

多くの会社では1ヶ月後の41日に新入社員が入社してくるだろう。

というわけで、彼らの指導を行う予定の人たちには、今回私が紹介した話を教訓にして頂きたい。

本当に新入社員が可愛いと思うのなら、スケベ爺のように

「この人ともっと仲良くなりたい!!」

「会社の全員が敵になっても、この人は絶対に俺が守る!!」

というような履き違えた保護欲ではなく、他の従業員との関係も考慮して、あえて距離を置いて接することも必要なのである。

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