退職前にアプローチしてきた同僚女性を冷たく突き放した時の話

・懺悔します2019

2019年も残り数日で終わりを迎える。

これを機に、今年やらかしてしまった最も大きな過ちを懺悔しようと思う。

今年一年もたくさんの失敗をして、たくさんの人に迷惑をかけてきた。

大半は「この失敗を次の機会に活かそう」と前向きに捉えるか、そもそも全く反省などしないかのどちらかであるが、「タイムマシンがあったら、あの時に戻ってやり直したい」と思う失態もいくつかあった。

2019年で最も後悔していることは、割のいい条件の仕事を自分から辞めたことでも、全く役に立たなかったPCソフトを数万円で購入してしまったことでもない。

今年一番の過ち、それは退職前の私にアプローチしてくれた同僚女性を冷たく突き放したことである。

今日は今年一年の反省会としてその時の話をしたい。

・同い年の同僚から食事に誘われる

私は念願の英語を活かせる事務職に就いたものの、英語とは全然関係ないことで挫折して退職することになった。

これは私がその会社を退職する2週間ほど前の話である。

私が一人で昼食を取っていると、同じ部署で働く同い年の女性(仮名:A子)から誘われて、彼女と二人で食事をすることになった。

私は自己都合で退職するため、気まずい雰囲気になることを心配していたが、彼女が退職理由を詰め寄ることはなく、この仕事はどちらかと言えば「女性向け」であり、なおかつ「女性ばかりの職場で男性の私が働くことは大変だったに違いない」と言って私を気遣って(慰めて?)くれた。

その他にも、

  • 彼女もこの職場で働くまでは事務の経験が一切なかったため、働き始めたばかりの頃はとても苦労し、特に電話対応が嫌だったこと

  • 同じ年の仲間が一人もいなかった職場に、初めて同級生である私がやって来てとても心強く思ったこと

  • 私が辞めると聞いて、とてもショックだったこと

  • 他部署へ移ってもいいから会社に残って欲しかったこと

などを明かしてくれた。

ここまではこの記事で書いた通り、同僚が退職を残念がってくれる有難い話なのだが、この話には続きがある

仕事の話が一通り終わってしばらくの沈黙があった後、彼女は突然こんな質問をしてきた。

A子:「ところで、早川さんの趣味って何ですか?」

会話のネタが切れた後の沈黙が気まずいから、世間話の感覚でこんな話を切り出したのだろうが、私にとってはこの質問が一番困るんだよなあ…

だって、本当にないんだもん。

私は表向きこそ「大人しい田舎の青年」を装っているが、こんな動機から、「フツーの人生」を放棄した人間である。

意識して作り上げた習慣であるため「スキゾイド」と呼ぶには少し違うが、もはや私にはプライベートな生活、特に他人と楽しみを共有できるような神経など一切残っていない。

私はいつも通りこう答えた。

早川:「人に言えるような趣味は特にありません」

・一体何を話したいのだろう?

普段はこのような回答をすれば、それ以上追及されることはないのだが、A子は私の予想に反して食らいついてきた。

A子:「それじゃあ、人に言えない趣味はあるってことですか??」

早川:「え!? そういう意味ではありません」

A子:「早川さんはあまり私生活の話をされませんけど、休みの日はいつも何をしているんですか??」

早川:「最近は仕事で疲れているから、ほとんど何もせずに過ごしています」

A子:「早川さんって○○(←注:決して、恥ずかしい言葉が入るのではない)が好きな感じがするんですけど、そういったことはやらないんですか?」

早川:「え!? いいえ、特にそんなことはないです」(どこでボロが出ていたのか、完璧に見抜かれていた)

A子:「ゴールデンウィークは実家へ帰ったと聞きましたけど、その時はどんなことをしたんですか?」

早川:「うーん、『何か特別なことをしたのか?』と言われれば、地元の友達と会って、一緒に町内を散歩したことくらいですかね」

A子:「お友達とどこへ出かけたんですか?」

早川:「あのー、A子さんは都会で育ったから『そんなことをして何が楽しいの?』と引かれるかもしれませんが、僕たちのような田舎者は『どこへ行く』とか『何をする』とか具体的な目的が無くても、たわいもない話をしながら一緒に自然の中を歩き回るだけで十分楽しみを感じることができるんですよ。ハハハ…」

これで、上手く話を切り上げることができる。

と思っていたのだが…

A子:「わかります!!」

早川:「ええ!!」

A子:「私はフランスへ留学した時に、生まれて初めて草原で寝転んだり、星を眺めたりして、田舎の生活の楽しさを知ったんです。都会だとそういった体験ってなかなかできないじゃないですか。あぁ、私も自然に囲まれて育ちたかったなあ…」

早川:「はぁ・・・」

その後もA子は私のことを聞きたがった。

外国へ行った時の話とか、地元に住んでいた時の話とか、退職後の予定とか。

あと2週間で去っていく人間の一体何が気になるのだろう?

しかも、その時の彼女は普段と様子が違った。

いつもの彼女はニコニコと笑いながら、おっとりとした喋り方をするのだが、その時は今まで見せたことがないほど積極的で、身を乗り出して、まるで私を覗き込むような表情で質問を繰り返してきた。

これまで優秀で隙がないように見えた彼女から自分の弱い部分や、同い年の私への親近感をサラッと打ち明けられた時も、異様に距離間が近いことに困惑した。

普段は誰かと2人きりになることがない休憩室に、彼女以外誰も入ってこないことも違和感があった。

それでも、最初は部署ぐるみで私の退職を思いとどまらせる計画を立て、彼女が説得役を引き受けたのだと思っていた。

しかし、仕事とは関係ない話を熱心に聞きたがる様子を見ていると、それは退職を思いとどまらせるための企みでもなければ、優しさや思いやりとも違う何かである気がしてきた。

あと2週間で別れるというのに、彼女との間にまるで秘密を共有したことで生じるドキドキ感のようなものが芽生えた気がした。

私は、その何とも言えない居心地の悪さと緊張感に耐えられなくなって、詮索の意図を尋ねた。

早川:「なんだか尋問みたいですけど、それを聞いてどうするんですか?」

A子:「だって、あと2週間しか一緒に仕事ができないんですよ!! 私はもっと一緒にいたかったし、早川さんのことをもっと知りたい!!

早川:「え!!」

ストレートにそんなことを言われたら、いくら他人の感情に鈍感な私でも、目の前にいる人が明らかに一線超えて踏み込んできたことはハッキリと分かった。

・職場の人間関係があるため真実を話せない

A子がそれまで私に抱いていた感情や自分の弱みを打ち明けたのは、心理的な距離を縮めることが目的で、プライベートを知りたがっていたのは、退職後も個人的に会うきっかけを探すためだったのかもしれない。

彼女は去っていく私に何を求めていたのだろうか?

その真意は分からない。

だが、私はその時になってようやく気づいた。

その日、彼女が私を食事に誘ったわけも。

私が部署内に返信不要の周知メールを送った時に、いつも彼女がお礼の返事を送ってくれていたわけも。

しかし、私は道を外れた人間である。

今さら、「フツー」の生き方になど戻るつもりはないし、戻れるとも思っていない。

そんな身で、経済的にも、情緒的(一緒にいて楽しいと感じること)にも、誰かの力になれるとも思っていない。

彼女が私に対して片思いな幻想を抱いているのなら、彼女のためにも、私はそんな人間ではないことをすぐに伝えなければならない。

同情から中途半端に仲良くして彼女を期待させておきながら、「実は…こんな人間だから、あなたとはこれ以上深い関係になることはできません」と告げる方がよっぽどの裏切りである。

だが、このタイミングで私の正体をバカ正直に告白してしまえば、残り2週間とはいえ社内の人間関係に支障が出かねない。

そう考えた私は、彼女が私に何らかの関心があることに気づいた上で、あえて気づかないフリをして突き放すことにした。

念のために言っておくが、私は決して彼女のことが嫌いだから、彼女の気持ちを無視しようとしたのではない。

嫌いどころか、とんでもない聖人だと思っている。

大げさではなく、本心からそう思う。

この年齢で非正規の仕事をしていて、見てくれも全くさえない上に、気の利いた話一つできない男のことをこんなにも気にかけてくれる人がこの社会に何人いるのだろうか。

私にとって、こんな素晴らしい人と出会えるチャンスが来ることは二度とないだろう。

だからこそ、彼女には私なんかと関わり合いにならず、自分の人生を大切にしてもらいたい。

学校の教師が、異性の子どもから好意を持たれていることに気付いても、男女としての交際や、日々の生活で特別扱いする関係になることが許されないため、意図的に冷たい態度を取って突き放すという話を聞いたことがあるが、私が直面している状況も同じようなものである。

彼女がどれだけ熱意を持って言い寄ってきても、決して振り向かず、質問をはぐらかし続ければ、いずれ諦めてくれるだろう。

そう考えて、彼女と対峙することにした。

   今度の休みは何をする予定ですか?

「先ほども言った通り、家でゆっくりと過ごす予定です」

   「ゆっくり過ごす」とは具体的にどんなことをするんですか?

「ボーとしながらテレビを見ることですかね」←ウソ。本当は家にテレビなどない

   どんな番組を見ているの?

「特に見たい番組があるわけではなく、適当に流れているものを見ています」

   どこか遊びに行きたい場所はありますか?

「いいえ、特にありません」

   スポーツはやらないんですか?

「はい。運動には興味ありません」

   最近、外食をしたことは?

「以前、前の職場で一緒に働いていた人から食事へ連れて行ってもらったことはありますけど、基本的に外食はしません」

   疲れた時や仕事を頑張った時のご褒美は何を買っているんですか?

「自分にご褒美を買えるほど頑張れていないと思います」

   こっち(東京)ではどんな友達と付き合っているの?

「先ほど、外食の話をした時のように以前の同僚とたまに会うくらいです」

   仕事を辞めても会うことができる関係というのは素敵ですね

「まあ、それを『友達』と呼べるかどうかは分かりませんけど…」

   一人で過ごすことが好きなんですか?

「『好き』というよりも、一緒に過ごす相手がいないだけです」

   親友や恋人のようにもっと仲良くできる相手が欲しいとは思っているんですか?

「昔はそう思うこともありましたけど、一人で過ごす生活に慣れきってしまったので、今さら、そのような人と良好な関係が築けるとは思えません」

このように発展できそうにない回答をして、同じ質問を彼女にすることで時間切れまで粘る作戦に出た。

・職場恋愛で別れた後のような気まずさ

A子は会話の糸口を掴ませない私に苛立ちを隠せなかったのか、時折体を揺らしたり、敬語口調が崩れたことがあった。

それだけ彼女は必死だったのかもしれないが、私も本気である。

「お願いだから、これ以上聞かないでくれ!! お互いのためにも… 」

この思いでいっぱいだった。

彼女は終始笑顔を保っていたが、自己開示しない私にこれ以上話し続けても無駄なことを悟ったのか、やがて「歯を磨いて仕事に戻る」と言って、私よりも先に出て行った。

このようにして休憩時間の攻防は終了。

さりげなく脈なしサインを発するつもりが、徹底抗戦となってしまったものの、作戦は成功。

私の本性がバレる前に無事逃げ切ることができた。

めでたし。めでたし。

あれ・・・

だけど、全然うれしくない。

目的は達成したはずなのに…

なんだろう…

このモヤモヤした気持ちと罪悪感は…

言葉にするのは難しいが、とてつもなく胸が苦しかった。

こんな非情で冷酷なことをしなければならない日が来ることは、外道として生きると誓った時に覚悟していたはずだったが…

その後、A子とは最低限の事務的な会話をしただけで、彼女が同じような態度で接してくることは二度となかった。

そして、「近づかないでほしい」という私の思いが通じたのか、彼女は心なしか、以前よりも冷たくなり、私のことを避けている気がした。

私も彼女に近づくことを躊躇ったため、彼女との間にはまるで社内恋愛で失恋したかのような重苦しい雰囲気が漂っていた。

彼女は私の退職日に餞別の品としてハンカチや入浴剤を贈ってくれたが、その時も目は合わせてくれなかった。

まあ、私がそれだけのことをしたのだから当り前だが…

彼女に「嫌な奴」とか「こんな人だったとは思わなかった」と幻滅されても、それは当然の報いである。

それでも構わなかった。

たとえ、彼女の気持ちを踏み躙ることになっても、彼女から恨まれることになっても、それが最善の選択だと確信していた。

彼女は私なんかと一緒にいてはいけない人である。

私と彼女は、所詮、同僚として付き合う間柄に過ぎず、男女の仲どころか、休日に仲良く遊びに出かける友人にさえなれるはずがない。

彼女は誰に対しても笑顔を絶やさず、上品で、周りへの気配りができる人だから、今後も、私などよりはるかに魅力的な人と出会える機会があることは間違いない。

彼女が私に抱いていた感情が何なのかは分からないが、「同じ職場にいる同じ年の異性」という魔法が解ければ、私のことはすぐに忘れるだろうから、他に信頼できる相手や好きな人を見つけて幸せになってもらいたい。

それが私の願いである。

私が彼女のためにできることなど何もない。

私の居場所は彼女の隣ではない。

「フツー」の生き方を捨てた私にはそうするしかなかった。

これが「フツー」の人生を捨てた人間の宿命である。

・本当にそれでよかったのか?

「お互いのためにも、これでよかったんだ」

当時はそう信じて疑わなかったが、今頃になって猛烈に後悔している。(心変わりのきっかけは関連記事に書いてある)

「本人の幸せのため」などともっともらしい理由をつけて拒絶したものの、私は一体A子の何を知っていたのだろう…

あの日まで、彼女はどんな気持ちで私を見ていたのだろう…

誰よりも早く職場に来ても、照明や空調のスイッチを入れることができない彼女が、自分の気持ちを告白するために、どれだけ勇気を出してくれたのだろう…

彼女が自分の気持ちを打ち明けてくれたことも、あそこまで必死にアプローチしてくれたことも、迷惑どころか、すごく嬉しかった。

絶対に本心を打ち明けず、常に警戒心を持って接する対象だった職場の人間、しかも同世代の女性からあんな話をされた経験は初めてだった。

年齢が同じであること以外に縁もゆかりも接点もない彼女が、私に何を求めていたのかは分からない。

ただ、去っていく私に対して、自分の想いを伝えずに後悔したくなかったのか、一生懸命話しをしてくれているのは分かった。

それから、彼女の話を聞いていると、どことなく孤独を感じているような気がした。

もしかすると、私と同じ年齢で非正規の仕事をしていて、他に親しい友人もおらず、私に対して何か似かよったものを感じて、これからも味方でいてほしかったのかもしれない。

だとしたら、私がやってしまった「他にいい人を見つけて」という一方的な突き放しは、これまで自分が幾度となく苦しめられてきた、それができずに悩んでいる人の気持ちを無視して、特定の「フツー」という生き方を押し付ける蛮行と全く同じであり、それは彼女の小さな希望さえも打ち砕いてしまったのではないか。

以前、同様の理由から同じ習い事をしていた相手との交際を断った時は事情をすべて話したので、私がやるべきことはすべてやったと思っている。(相手が納得したかどうかは全然別の問題だが…)

だが、今回は仕事の関係もあったため、彼女には私の素性も本心も明かすことができなかった。

そのため、勇気を出して自分の想いを伝えてくれた彼女とは対照的に、冷たい態度で突き放すことしかできず、彼女を傷つけてしまった。

今思えば、たとえ恋人や遊び仲間のような親密な関係になれなくとも、彼女の力になれる方法などいくらでもあったのかもしれない。

退職後も連絡を取り続ければ、彼女が仕事でつらい目に会った時に、同じ経験がある仲間として、苦しみを分かち合うことはできたのかもしれない。

常に隣にいることはできなくても、彼女が寂しいと思っている時には直に会って、懸命に生きる彼女を応援すれば、心の支えであり続けることはできたのかもしれない。

他人からは奇妙に思われる関係でも、それが「フツー」であることの縛りを捨てた私ができる最善の方法ではなかったのか?

彼女がそのような関係を受け入れられないのであれば仕方ないが、せめて、手紙を残すか、連絡先を渡して、退職後に自分の過去を告白し、決して彼女のことが嫌いだから冷たい態度を取ったわけではないことを伝えて謝りさえすれば、彼女を傷つけることはなかったのかもしれない。

たとえ、彼女が私の本性を知らなかったとしても、心を開いて、一生懸命自分の気持ちを伝えてくれたのだから、私も彼女と正面から向き合うべきだった。

しかし、私は彼女を傷つけることしかできなかった。

・当時の自分に言いたいこと

私は「フツー」という特定の生き方を押し付ける偏狭で排他的な社会に抗って生きると決めた。

そのためには私生活の幸福追求の一切を犠牲にすることも厭わなかった。

たとえ、一人で生きて、一人で死ぬことしかできないと分かっていても、それが私にとっての戦いであり、生きる唯一の道だと信じて疑わなかった。

だが、彼女と対峙したことで気づいた。

私が行っていたことは「戦い」などではなく、自分のことを想ってくれる人を傷つけているだけだった。

私には自分の過去を打ち明ける勇気も、自分の進んできた道を信じ抜いて、誰かの力になる方法を見つけるために戦う正しい強さもなかった。

そして、己の弱さのせいで、自分を信頼してくれていた人の力になれず、「心の拠り所」であり続けることさえできなかった。

「フツーの生き方でなければ何もできない」と思い込んで、他人を傷つけていたのは私の方だったのかもしれない。

昔、あるスポーツの試合中継で、ルール違反ではないものの、危険なプレーを連発して退場処分になった選手が「今日はこのような結果になったが、それでも強気に攻める自分のプレーを変えるつもりはない」とコメントして、解説者が苦言を呈していたことを思い出した。

某スポーツ解説者:「プレースタイルは変えなくてもいいけど、相手をケガさせているのだからプレーは変えないと!!」

当時の私にも同じ言葉を言ってやりたい。

「フツー」の生き方に抗うことを信念とするのは結構だが、そのために、自分のことを想ってくれていた人を傷つけるなど言語道断である。

これが今年(2019年)最大の過ちだが、この後悔と罪悪感は一生消えない気がする。

しかし、過去を変えることはできなくても、過ちを受け止めて、正しく前へ進むことはできる。

それが今の私にやれる唯一のことである。

だが、まずはA子にすべてのことを話して、あの時のことを心から謝りたい。

もっとも、私には二度と彼女の目の前に現れる資格などないのかもしれないが…

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