今からちょうど2年前の2020年7月下旬、コロナが発生しなければ東京オリンピックが開催されるということで、その年は23日から26日にかけて4連休があった。
2020年の祝・休日一覧 : 7月と9月に4連休!(五輪延期でも変更なし) | nippon.com
コロナの真っ只中だったため、せっかくの連休でも自宅に籠りきりで、良い思い出が残っているという人はあまりいないかもしれない。
だが、私は今でもその頃のことをはっきりと憶えている。
今日はその話をしたい。
・迷惑な時差出勤
私はコロナの影響など関係なく、普段から外出しない。
そのため、コロナ渦であっても、4連休はいつも通りの休日となるはずだった。
しかし、あることがきっかけで、非常に不愉快な思いをして、連休を迎えることになってしまった。
その理由とは、連休前の月曜日から、「時差出勤」により、一方的に勤務時間を変更させられたことである。
元々の勤務時間は9時から17時30分だったが、9時45分から18時15分へと企業都合で45分も遅くなることになった。
遅くなるだけでなく、早番として8時30分から17時の時間帯で勤務することになった人もいたが、私は偶然、遅番の方に割り振られた。
ちなみに、「オフピーク通勤」とは言うものの、そのおかげで「通勤ラッシュを避けられた」のかと言われれば、全くそんなことはない。
特に帰り道は、変更後の方が目に見えて混雑が激しかった。
しかも、仕事帰りに買い物をしようとしたら、欲しい物が売り切れていることも珍しくなかった。
それだったら、早番の方が遥かにマシだった。
連休中もずっとそのことが頭から離れなかった。
「『朝晩と早番の割り当てについては後に再編することもある』と言われたから、しばらくは我慢するが、時期を見て、自分も早番にしてもらうよう希望を出そう…」
そんなことを考えていた。
ちょうどその頃、私はブログで友人と再会した話や、今の生活が始まることになったきっかけなどを取り上げて、「些細な偶然で人の未来は大きく変わる」などと澄ましたことを言っていたが、実際はその「思いもよらぬ偶然」を呪っていた。
・まさか、あなたは!?
連休明けの27日月曜日、嫌々ながら遅番の勤務時間で働くことになった私は、まだ慣れない時間帯の電車に乗っていた。
コロナのおかげで車内は空いており、乗車駅から座ることができた。
電車の中でも
「いつまで、この時間帯の電車に乗ればいいんだろう…」
「早く2週間前まで乗っていた電車に戻りたい…」
ということばかり考えていた。
車内は次第に混雑してきたが、路線の中心駅に着くと、乗客は一気に減り、再び閑散としてきた。
右隣に座っていた乗客が下車して、右側に連続して空席が生まれたため、私は一席右に移ることにした。
間に手摺があるわけではなかったので、立ち上がるまでのことはなかったが、私は一瞬右側を見たため、2つ隣に座っている女性が目に入った。
その瞬間、私は目を見開いて、「まさか!!」と声を上げそうになった。
私がそんなに驚いた理由。
それは・・・
その女性が、1年前に同じ職場で働いていたA子(仮名)という元同僚にとても似ていたからである。
A子は、私と同じ年齢で、一緒に働いた時は、特に親しい仲ではなかったものの、退職前の私を食事に誘ってくれて、その席で今までの想いを打ち明けてくれた。
それは嬉しかったが、ある事情を抱えていた私は彼女を拒絶してしまい、退職するまで彼女から避けられることなった。(詳しくはこの記事に書いている)
当時は、それがお互いにとって最善の方法だと確信していたが、退職後に後悔して、ずっとあの時のお礼とお詫びを言いたいと思っていた。
今、目の前にいる女性はA子と同じく、長くきれいな黒髪をしていて、服装も彼女が好んでいたピンクのシャツ、グレーのスカート、黒いタイツ姿だった。
「この人は本当にA子なのか…」
私はそれを確かめようと思い、会社から貸与されていたストラップ式のセキュリティカードケースを足元に落とした。
彼女がそれに気付いて、こっちを振り返り、目が合えば、私に気付いてくれるかもしれない。
しかも、そのケースには名前が書かれているから、もしかしたら、名前を見てくれるかもしれない。
そんな期待をしていたが、彼女はイヤホンをして、スマホを操作していたため、聴覚的にも視覚的にも気付かなかった。
「次はどうすれば…」
そんなことを考えていると、彼女は次の駅で下車した。
・半年間待ち続けた
結局、彼女がA子であるという確証は得られなかったが、私の中に大きな希望が生まれた。
私は自分が乗車している車両の号車番号と座席の位置を念入りに確認した。
下車した駅の到着時刻もしっかりと頭に刻んだ。
「明日以降も、同じ列車の同じ場所に乗り続ければ、また彼女に会えるかもしれない…」
会社都合による時差出勤にウンザリしていたが、彼女との出会いで私は一気に心変わりした。
恨んでいたはずの些細な偶然は私を素晴らしい方へ導いてくれた。
会社よ、こんなチャンスを与えてくれてありがとう!!
しかも、その前日にはブログで彼女への想いを取り上げた記事を投稿したばかりだった。
これは偶然ではなくちょっとした運命を感じる。
翌日以降、私はその日の同じ電車の同じ号車の同じ席に座ることにした。
その電車に乗ったら職場に30分も早く到着してしまうが、彼女と再会できる可能性が万に一つでもあるのなら、そんなことは全く気にならなかった。
セキュリティカードの件は失敗に終わったものの、「作戦としては使える」と思い、来るべき時に備えて、セキュリティカードを装ったストラップ式の名札ケースを購入し、パソコンで自作した名札を両面に入れることにした。
彼女の目の前を通る時は床に落としたり、目の前に立った時は偶然を装って、名札を見せる作戦だった。
その日から、毎朝の通勤時間は彼女を血眼になって探すようになった。
一瞬のチャンスを逃さないよう、名札を常に手の中に握っていた。
一週間後、彼女と雰囲気が似ている女性が隣の席に座った。
彼女は先日見かけた女性と同じ駅で下車して、降りる時に私の方を見て一瞬微笑んだ気がした。
「やっぱり、彼女は…」
と思ったが、正面から見た彼女の顔は明らかにA子とは違った。(マスクをしていたけど目元で分かった)
二週間、同じダイヤの電車の同じ席に座り続けたが、初日に見た女性は現れなかった。
私は一週間だけ、隣の車両に移ることにした。
それでも、彼女は来なかった。
私はそれまでと同じ車両に戻った。
こうも頑なに同じ時間帯の電車に乗っていると、いつも乗り合わせる乗客の顔も覚えてくる。
だが、彼女らしき人物は現れなかった。
あの日は、たまたま彼女があの時間帯の電車に乗っただけで、いつもは違う時間の電車に乗っていたのかもしれない。
そう思った私は翌週から1本前の電車に乗ることにした。
そこでも、彼女を見かけることはなかった。
私は次第に彼女に会える可能性は限りなく低いことを悟った。
それでも、私は当初希望していた勤務時間の変更を申し出ることはなかった。
わずかでも可能性を信じていたから。
そんな生活をおよそ半年間継続していた。
クーラーが効いた涼しい車内は気付いたら、温かい暖房が行き届くようになっていた。
そして、遂に退職の日がやって来た。
もう私がこの電車に乗ることはない。
現実はドラマのような奇跡なんて起きないものだな…
結局、あの日を最後に、私が彼女と会うことはなく、彼女がずっと会いたかった相手だったのかも分からないままである。
思い返せば、あの日以来、街中ではいつも彼女によく似た女性を探していた。
もちろん、これだけ多くの人が行き交う東京で、たった一人の出会いたい人物を見つけることなど天文学的な確立であり、実現できるはずもない。
あの日から2年が経過したが、今でも真夏に冷房が効いた電車に乗ると、毎日必死になって一人の女性を探し求めていた時のことを思い出す。
…とまあ、一人の女性を一途に思っているかのような書き方だが、自分はあんなひどいことをしておきながら、感動の再会を夢見るなんてことはムシが良すぎる話だが…