台湾から来た夏の太陽②

前回の簡単なおさらい

私はペンパルサイトで知り合った気が強い毒舌台湾人のアカネ(仮名)に何度も罵倒されながらも、本当の動機を隠して連絡を取り続け、実際に会うことになった。

・実際に会った時の印象

昨年(2018年)の夏、待ち合わせ場所にした東日本の某駅の入り口にアカネは立っていた。

と小説のように、出だしはカッコよく書きたかったのだが、(彼女が立っていたのは事実だが)実のところ、私は彼女に声をかけられるまで、彼女が待っていたことに気づかなかった。

これまで彼女は、私に対して何度も、上から目線の説教をしてきたり、罵倒してきた。

そして、出身は台湾の首都である台北である。

そのため、私は彼女が都会的でおしゃれな恰好をしている大人の女性なのだと想像していた。

しかし、実際の彼女の姿は見て驚いた。

事前にプロフィールの写真は数年前に撮られたものだと聞いていたので、写真の顔が実年齢よりも若く見えることは納得していたが、実際に会うと「本当に私と同じ年なのか?」と思うくらいの幼い顔立ちで、化粧も口紅もほとんどしていなかった。

それに加えて、髪は特に手を入れていないと思われる黒のショートカットで、服装は後ろから見ると下着かと見間違えるような飾り気のない白いTシャツと、灰色なのか色落ちした緑なのかよく分からない色の短パン、靴は汚れが目立つ白いスニーカーで、おそらく出かける準備に5分も費やす必要のない恰好だった。

それは私の出身地である西日本の田舎でも滅多にお目にかかれない芋(田舎者)っぽい外見で、身長は日本人女性の平均値くらいはありそうだが、日本の小学6年生の方がよっぽど大人に見えた。

私は、この「女の子」とか「少女」という言葉が似合う幼い外見の人物が、「本当にあれほどドギツイ言葉を浴びせてきたアカネなのか?」と内心とても驚いだ。

早川:「あのアカネ・・・だよね?」

アカネ:「そうだよ。 日本人でも、お客をこんなに待たせることがあるんだ?」

彼女はそう言いながら、満面の笑みでからかってきた。

その笑顔を見て、不覚にも一瞬、可愛いと思ってしまったが、やはり彼女はアカネだった。

・アカネにあって私にないもの

当日、私とアカネが行ったことはこの記事の通りなのだが、ここではその時に書かなかった彼女の人間性を表す話を書かせてもらいたい。

彼女に会って一通り散策した後は、彼女が私の家に上がり込んで一緒に昼食を取ることになった。

食事が済んだ後も、彼女はまるで夏休みに少し離れた場所に住んでいる祖父母の家に遊びに来た子どものように私の家でくつろいでいた。

表面的な付き合いがあったとはいえ、これまでの経緯で彼女に対して好感を持っていなかった私は、彼女のあまりにもずうずうしい振る舞いに苛立ちを募らせながら、何とか外へ連れ出すことに成功した。

その後は、適当に近所を散歩しながら、たまたま通りかかった公園のイスに座って、ドラッグストアで買ったアイスを一緒に食べることになった。

私は一瞬、自分が今何をやっているのかが分からなくなったが、それ以上に理解できないのは隣にいる台湾娘の行動である。

せっかく外国へ旅行に来ているにもかかわらず、ネットで知り合っただけの現地の男と一緒に何だかよく分からないことを笑顔でやっている。

彼女は一体何を考えているのか?

私は彼女に率直な質問をしてみた。

早川:「アカネはどこの誰だか分からない人間と会ったり、家に行ったりすることが怖くないの?」

アカネ:「え? 私たち初対面じゃないでしょ?」

早川:「確かにネットでは何度も話をした。というよりも、言いたい放題言われて何度も怒りそうになった。そんな何をするか分からない相手と会うのは怖くないの? 下手したら死ぬこともあるかもしれないよ」

アカネ:私は『早川さんがそんな悪いことするはずない』ってずっと信じてたよ。だから、言いたいことは何でも言えたし、会いたいと思ったんだよ」

彼女はそう言うと、にっこりと笑った。

「ずっと信じていた」

その何気ない言葉が私の胸に深く突き刺さった。

彼女があそこまではっきりとした物言いができるのは、無暗無鉄砲にケンカを売っているのではなく、相手を信じていたからだった。

それを聞いた私は「彼女は人を信じて、真っ直ぐ生きることができる強い人間」なのだと気づいた。

そして、「彼女と連絡を続けていると何か良いことが転がってくるかもしない」という不純な動機で、連絡を取り続けた自分が愚かに思えた。

彼女は私のように損得勘定で動いている人間よりも遥かに強くて綺麗な心の持ち主だった。

・太陽のような輝き

アカネは私にはない「強さ」を持っていた。

その強さはどこから生まれているのだろう?

私は隣にいる彼女のことが気になって仕方がなかった。

私が彼女と一日行動を共にして気づいたのは、彼女がとても「明るい」性格だということ。

そして、周囲の人から「とても愛されている」ということ。

だから、プラス思考というレベルを遥かに超えた、とてつもなく高い自己肯定感を持ち、生きていることを無条件に楽しんでいるようだった。

彼女の「強さ」もこの「明るさ」から生まれているのかもしれない。

真夏の太陽の日差しがガンガンと照り付ける中、普通の観光客であれば「つまらい!!」と言って怒り出すであろう私との散歩にも、笑顔を絶やさずに鼻歌を歌いながら、付き合ってくれたのも、彼女の明るさがあったからなのだと思う。 

以前、彼女に言われた通り、私は彼女ではないし、彼女は私ではない。

もちろん、私は彼女と同じにはなれない。

しかし、いや「だからこそ」と言うべきか、私にはない彼女の「強さ」と「明るさ」がとても眩しく見えた。

前回の記事で紹介した彼女の「別の人間だからこそ話し合う」発言も、言われた当時は素直に受け入れることができなかったが、実際に彼女と話をすると、その意味が分かったような気がした。

そんなことを考えていると、私の中では彼女に対して不思議な気持ちが生まれた。

「愛」とか「恋」というのとは違う、言葉にするのは難しいが、「尊敬」や「憧れ」とかだろうか。

とにかく、その時のアカネは太陽のように輝いていた。

・アカネの現在

私がアカネと会ったのは一日だけだったが、その後も連絡は続けた。

私は彼女に感化されたのか、徐々に本音で話すことができるようになった。

もちろん、彼女からはたびたび辛辣な答えが返ってきたのは言うまでもないが、私はそれでもうれしかった。

彼女がそうして本気で向き合ってくれたから。

前回の記事の文末に書いた当初の目的など、もはやどうでもよくて、ただただ、もう一度、彼女に会いたいと思った。

私は彼女と再会することが待ち遠しかった。

そんな彼女から2ヶ月ほど前に連絡があった。

その話によると・・・

彼女は今月(2019年6月)結婚することになった。

・・・まあ、彼女は(見かけは幼いとはいえ)結婚してもおかしくない年齢だし・・・

相手は特に恋人関係だったわけでもない男友達で、彼にプロポーズされて悩んだ結果、結婚することを決めたらしい。

だから、彼女が彼と交際している最中に私と会うような軽い女だったというわけではない。(大半の読者にとってはどうでもいい補足情報だが、これを書いておかなければ彼女からのマジギレのクレームが来るような気がした)

台湾とのワーホリ協定では既婚者でも申し込みは可能だそうだが、おそらく彼女がワーキングホリデーのために日本へ来ることはないだろう。

その方が彼女も幸せな人生を送れると私も思う。

私は彼女に恋愛感情を持っているつもりはなかったが、今年の夏は太陽が一気に遠ざかった気がした。

・アカネが残してくれたもの

というわけで、この記事を読んでいて、ロマンチックな展開を期待していた方には残念ですが、「インターネットを通して出会った外国人の異性と男女の関係(恋愛関係)になって、その後は結ばれる」ということは(少なくとも私には)ありません。

ただ、アカネが私の人生を、変えるとまではいかなくても、欠けていたものを与えてくれたことは事実である。

彼女の輝きは、私の中で絶えて久しかった感情を取り戻してくれた。

そのことだけでも彼女に感謝している。

「人は何歳になっても成長できる」

彼女に言われたこの言葉を信じて、これからも生きていこうと思う。

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