外国人に日本の雇用制度を説明してみる②(例外の拡大編)

前回は正社員(regular worker)を「core (コア)」と呼ぶことで「正規雇用者」のイメージを作り、パート労働者(part-time worker)と一時雇用者(temporary worker)を低賃金で簡単な仕事を任される「irregular group(イレギュラーグループ)」と名づけて「非正規労働者」のイメージを作った。

これで日本の「正規」、「非正規」労働者の区別を説明できたはず。今日はその続き。

・気楽な働き方の崩壊

日本の雇用形態、主に男性が担う「正社員」の「正規雇用のグループ」と、「パート」、「アルバイト」、それから仕事のある時期にのみ働く「一時雇用者」の「非正規雇用グループ」に分けられる。

ただし、これらの区別はあくまでも習慣に過ぎず、「正規」、「非正規」の法的な根拠は存在しない。

せいぜい「雇用期間の定め」があるかどうかの違い。

極端な話、正社員に対してボーナスも退職金も与えないことは違法ではないし、パートタイムワーカーとして低待遇で働くが、少しでも収入を増やすために、パートタイム労働者として一日8時間ということも違法ではない。

つまり、責任のある仕事は高い給料を貰う正社員が負って、安い給料の非正規労働者は責任の軽い仕事しか任さられないというのもあくまでもお互いの暗黙の了解。

この境界線が近年急速に(悪い方へ)崩れてきている。

まず、正社員を雇うには高い人件費がかかる。

固定給以外にも研修のための教育費、福利厚生費など多額の出費が必要である。

というわけで、企業は人件費を削減するために、正社員の数を減らす。

減らされた正社員の穴は人件費の安い「irregular worker (非正規労働者)」で埋める。

そこで、正社員に代わって、低賃金・低待遇のパートタイマーをフルタイムで働かせようとする。彼らは「full-time part worker」と呼ばれる。

また、日本の会社は一度、正社員として雇ってしまうと、どんなに仕事ができない人であっても解雇することが難しい(ということになっているが、私は正社員として働いていたが解雇されたという人を何人も見てきた)。

というわけで、仕事がなくなった、あるいは労働者があまりにも仕事ができない時に自由に解雇できるように、あえて「temporary worker(一時雇用者)」を雇って、契約更新を続けるという手法も増えてきている。

彼らもirregular worker のグループなので待遇は恵まれていない。

このように日本では彼らのようなirregular workerが急速に増えた。

単に低待遇労働者の数が増えただけではない。

彼らは正社員に代わってコアな業務を任されているため、待遇と賃金が低いまま責任だけは負わされている。

・安定した働き方の崩壊

irregular worker は低待遇のまま責任だけ押しつけられた可哀そうな人たちだから、競争を勝ち抜いて正社員になればいいのかと言われたら、そうでもない。

そもそも、企業は正社員に対して必ずボーナスを支給しなくてはならないとか、勤続年数に応じて給料を上げなくてはならないという法律はない。

このご時世、正社員でも定期昇給、ボーナス一切なしということは珍しくない。

また、恵まれた労働環境で有名な会社で正社員として働く場合も、ある年から新入社員は新しく作った別会社へ入社させられて、それまで好待遇の恩恵を存分に受けてきた正社員とは全く別の給料体系で働かされることもある。

企業はこうした別会社を作ることで、人件費削減だけでなく、従業員を減らしたい時には会社ごと潰して、使えそうな従業員だけをグループ会社への就職を斡旋して残すことができる。

このように正社員=安定、安泰というのは完全に過去のものになりつつある。

正社員が安定を奪われたのだから、一方的な転勤命令だろうが、不払い残業だろうが、会社の一方的で理不尽な要求は拒否できるようになったのかと言われればそうでもない。

このような悪習は正社員の安定が失われても依然として残っている。

irregular workerが低待遇のまま責任だけ押しつけられている一方で、regular workerは拘束だけ無限定なまま待遇だけ切り詰められている。

かつては「日本の会社はこんなことを決してしない!!」と言われ、ごく一部の例外として扱われたのかもしれないが、もはや、安定のない正社員や不自由な非正規労働者は「例外」とは言えなくなった。

これが現在の日本の労働環境だと思う。

正社員=安泰

非正規=気楽

という互いのメリットはなくなりつつあるが、その一方で正規・非正規の壁は依然として残り、正社員は「あんた正社員なんだから、サービス残業だろうが、休日出勤だろうが文句言わずにやりなさいよ!!」と言われ、非正社員は「あんた正社員じゃないんだから、給料が低くても文句言わずに働きなさいよ!!」と言われる。

これが今の日本の閉塞感なのかもしれない。

・日本で働くことはおすすめしない

というわけで、ここまで説明した上で、私は日本で働きたいという外国人には「日本で働くことをおすすめしない」とハッキリと伝える。

考えてみてほしい。

外国人が日本で正社員になったところで何になる?

仮に昔ながらの安定が残っていたところで、日本の会社では正社員の職種は企業が一方的に決めるため、自分が希望する仕事に就けるかどうかはわからない。

それに、職務を通して身に着くスキルも曖昧で、その企業でしか通用しないことが多い。彼らが国に帰って再就職をしようと思った時に、それが役に立つだろうか?その上、正社員の利点である「安定」も失われてきている。

「非正規の仕事でもいいから日本で働きたい」という人にも来ない方がいいと伝える。

かつては途上国出身の外国人が(日本の)工場やスーパーのバックヤードでパートとして働くというのは牧歌的なイメージがあったと思う。

非正規労働者=気楽な仕事で、責任のある仕事は正社員に任せて、簡単な仕事だけを行い、同僚のパートのおばさまに可愛がられながら一生懸命働いて、日本人にとっては小遣いのような金額でも母国では大金となる給料を得る。

しかし、もはや非正規=気楽な仕事ではない。

たとえ外国出身の非正規労働者であっても管理者は一人前の戦力であることを求めてくるだろうし、周囲の従業員も自分の生活がかかっているため、競争相手とみなして、隙あらば潰しにくるかもしれない。

その上、日本と途上国の経済格差も縮まっている。

そんな状況で、彼らが日本で非正規の仕事をするメリットとは何だろうか?

私は彼らに日本で働くことをすすめる理由を見いだせない。

そもそも、「外国人にとっては~」などという前に、私たち自身はこの問題にどれくらい本気で向き合っているのだろうか?

正社員のリストラ(削減)が社会問題になって何年が経っただろうか?

非正規労働者の増加が社会問題になって何年が経っただろうか?

企業が人件費削減を旗印にして正規・非正規のいい面を破壊していることは問題だと思うが、私はそれ以上に労働者の側がこの現実を直視していないことの方が問題だと思う。

私たちは「日本型雇用の安定は崩壊した」と言いながら、その幻影(この記事でいうところの「原則」)にしがみついて、自分だけはまだ日本型雇用に守られていると信じてきた。

「今は苦しくても、企業を信じていれば、また昔のような安定した生活に戻れる」と自分に言い聞かせながら。

そのように逃げ続けた結果が、正規・非正規の共倒れなのかもしれない。

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