外国人に日本の雇用制度を説明してみる①(原則編)

以前、私はアメリカ人に「アメリカでは結婚した後もフルタイムで働く女性は珍しくないですか?」という質問をした時に日本とアメリカでは「フルタイムワーカー」という言葉でイメージするものが異なるため、最初にその事を確認してからでないと、お互いの認識にズレが生じてしまうということを書いた。

その時にアメリカ人に日本の雇用制度や習慣を伝えたわけだが、それはかなり骨の折れる作業だった。

まず「full-time worker」という言葉についてだが、これは主に一日8時間働く人のことである。

だが、同じ一日8時間働く人であっても、それが正社員として働く人なのか、それとも派遣やアルバイトなどの非正規労働者として働くのかは意味合いが全く異なることは私たち日本人にはよく分かるだろう。

しかも、なぜか(これはあくまでも私の経験によるものだが)日本で「フルタイムワーカー」と呼ばれる人は限りなく「正社員」とイコールで結ばれていることが多い。

派遣社員やフリーターは一日に8時間働いても、「フルタイムワーカー」と呼ばれないことが多い。

だから、私は日本の「正社員」の説明をする時には「full-time worker」という単語の使用を避けた。

一方でパートタイム(アルバイト)労働者は英語の「part-time worker」という言葉に近いため比較的簡単に説明できる。

ただし、これはあくまでも一日に45時間しか働いていない場合の話である。

ご存知の通り、日本では「フルタイムパートタイマー」という不思議な名称で呼ばれる労働者が多くいる。

私たち日本人はそのことを聞いても特に疑問に思わないが、外国人にこの言葉を使ったら「フルタイムで働いているのにパートタイマーって何よ?」と間違いなくツッコミを入れられる。

これを説明することもまた大変である。

これと似たようなものとして、temporary worker」という言葉がある。

これは一時雇用の仕事で、主に「契約期間の定めのある雇用者」のことである。

かつて、農業に従事している人が農作業のない時期にのみ工場で働く「季節工(臨時工)」という仕事が多くあった。これはそのまま「temporary worker」という言葉に当てはめることができる。

この「契約期間の定めのある雇用」で仕事のある時期だけ働くという働き方という意味では「派遣社員」を説明する時に使えるのかもしれない。

だが、季節工はともかく、日本の派遣社員は同じ職場で12年という長期にわたって働くことが珍しくない。

その話を外国人に伝えたら、フルタイムパートタイマーの時と同じく「同じ仕事を何年も続けているのに何で temporary workerなの?」という疑問が生まれるだろう。

このことを伝えることもまた簡単ではない。

かつて日本の雇用には主に男性が担う「正社員」と、女性が担う「パート」、学生が担う「アルバイト」、それから農業に従事している人が農作業のない時期に働く「季節工(臨時工)」という棲み分けがあったのかもしれない。

しかし近年はこの境界線も(デタラメな具合に)壊れてきている。

その結果、「フルタイムで働くパートタイマ―」や「同じ職場で3年近く働いている一時雇用者(派遣社員)」が生まれた。

このように、日本の雇用の話はかなり複雑になってきている。

正直言って、私も日本の雇用問題を完全に理解しているわけではないし、このことを正確に伝えられる英語の文章を書けるわけでもないので、これは面倒な仕事でしかない。

しかし、最近は「日本で働きたい」と言う外国人からメッセージを送られることが増えたため、彼らにはできるだけ多くの情報を伝えたいと思う。

というわけで、今回は日本の雇用を外国人に説明した時の話をする。

・正社員の説明

どのように説明すれば、外国の人に日本の働き方を理解してもらえるだろうか?

悩んだ箇所は

・企業に生活の大部分を拘束されている「正社員」をどのように説明したらいいのか?

・なぜ、多くの日本人はそんな厳しい働き方である「正社員」になりたがるのか?

・フルタイムで働く「パートタイマー」のことはどのように説明したらいいのか?

・非正規労働者を説明する時に「パートタイマー」に代わる言葉はないのか?

その中からポイントを次の2つに絞った。

・ポイント

「正規」、「非正規」を区別するために、日本型の正規労働者はfull-time workerに変わる表現を使う。

非正規労働者は話がややこしくなっているので、最初に原則を説明して、その中の例外が徐々に一般化したことを伝える。

というわけで、私は最初に「正規」、「非正規」の原則を説明することにした。

先にも書いた通り、正社員のことを「full-time worker」と書かずに「regular worker」と書く。

そして、

・「(日本の)regular worker」とは単に「一日に8時間働く労働者」のことではなく、職種や勤務地などの労働条件は企業が一方的に決定されて働く労働者のことであり、極端な話、会社に言われたことは何でもやらなければいけないこと。

・そして、その対価として家族を養えるだけの十分な給料、終身雇用や退職金、定期ボーナスなどの企業福祉を得られるということ。

・日本は公的な福祉で守られる範囲が小さく、多くの人が生活のために、この企業福祉を求めて正社員としての雇用を望むこと。

を付け加える。

退職金は「retirement allowance」で通じるだろうが、定期ボーナスは「regular bonus」と書いたものの、これで通じたのかは分からない。

終身雇用は「lifetime employment」という言葉が該当するが、日本人が有難がるこの制度を外国人がメリットだと思うのかは疑問だったため、少々面倒だが、

Employers keep hiring their employees until they become 60, or 65 years old, and train them so that they get proficient in a job. Employers never fire their employees, even if they have low job performance.

日本の会社は従業員を60(または65)歳まで雇い続けて、仕事を覚えさせる。たとえ仕事ができない人でも決して解雇しない。

と説明する。

このようして、後に説明する「非正規のフルタイム労働者」との差異を明確化しておく。

・非正規労働者の説明

次にパートタイムの説明をする。

これは英語の「part-time worker」をそのまま使えばいいのだが、単に学生や主婦のように本業を持っている人が空いた時間を使って行う簡単な仕事だという説明にとどめる。

ここで変に「日本にはフルタイムで働くパートタイム労働者がいるのですよ」などと言ったら相手が混乱するから。

ただし、この仕事では生計を立てることができるだけの給料や企業福祉を得ることは難しいということは説明しておく。

余裕があれば、「日本ではドイツ語が語源の「アルバイト」と呼ばれることもあり、主婦は「パート」、学生は「アルバイト」と呼ばれることが多い」と説明してもいい。

次に「一時雇用者」としてtemporary workerの説明をする。

これは期間の定めがある一時的な雇用者のことで、先ほど少し触れた「季節工」や「臨時工」を例にして説明する。

今現在、この仕事に従事している人がどの位いるのかは分からないが、日本では期間の定めがない雇用が原則で、それとは対照的な「雇用の期間の定めがある雇用者」ということを説明するために、この「temporary worker」という言葉を使う。

そして、これらを2つのタイプに分けてみる。

core

・正社員(regular worker):長期雇用のフルタイム労働者で、生活できるだけの給料や企業福祉を得られる。

irregular

・パート・アルバイト(pert-time worker):本業を持っている人が空いた時間を利用して働く、短時間労働者。長期で働く人もいるが、この仕事で生計を立てることは難しい。

・一時雇用者(temporary worker):仕事のある期間だけ働く、期間の定めのある雇用者。かつてはこの働き方で農業が休みの季節にのみ工場で働く人が多かった。

このように分けたら「正規」、「非正規」のニュアンスを分かってもらえると思う。

正規社員は企業の中核を担う(コア)なグループの労働者であり、責任が重いが給料も高い。

一方でパートや一時雇用者のように正社員の補助をする非正規社員はirregular (イレギュラー)グループでまとめ、責任が軽いが給料は安いとする。

このように区別することで、かつての日本の雇用形態、主に男性が担う「正社員」と、女性が担う「パート」、学生が担う「アルバイト」、それから仕事のある時期にのみ働く「一時雇用者」のニュアンスを分かってもらえたと思う。

アメリカ人に日本の女性が結婚、出産した後もフルタイムで働くことに難色を示すことは、日本ではフルタイム=regular workerであり、その働き方では企業に生活の大部分を拘束されてしまうことを伝えたら納得してもらえた。

ここまでが「原則」の話。

外国の人でも、これを覚えてもらえば、日本人とある程度の雇用の話をする時に必要な共通の前提を持つことができる。

第一段階はここで終了。

次回へ続く

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